始動するFlexRay:次世代の制御系車載LAN規格が本格採用へ(1/4 ページ)
次世代の車載LAN規格として注目を集めてきたFlexRay。その本格採用が、間もなく始まろうとしている。同規格は欧州を中心として策定されてきたが、その最終仕様が2009年末までに発表される見込みだ。この最終仕様には、日本の自動車メーカーの意見も取り入れられており、2010年以降は、日米欧で FlexRayを採用した新車開発が本格化する。
カーエレクトロニクスの生命線
自動車の電子化がいかに進展したかを示す指標としてよく引き合いに出されるのが、ECU(電子制御ユニット)の搭載数である。1970年代後半に、エンジンの燃料噴射の制御を目的として採用されたとき、ECUの搭載数はそれ1個であった。それに対し、現在では、ECUの搭載数は高級車で50個以上に上ると言われている。
ECUは、外見は弁当箱のような形状であるものの、プロセッサやメモリーなどを備えるれっきとしたコンピュータ機器である。エンジンの燃料噴射制御に用いられていた最初のECUは、インターネットが普及する以前のパソコンのように単独で機能を発揮していた。しかし、この用途以外の制御系が、機械制御から電子制御に順次置き換わっていく中で、ECUの搭載数は着々と増えていった。そして、自動車の新たな機能を実現するためには、複数のECUを接続し、情報をやり取りする必要が出てきた。
ここで登場したのが、ECUの間を接続するプラットフォームとなる車載LANである。自動車のECUの間で行われる通信の方式を規定する車載LAN規格は、カーエレクトロニクスを有効に利用するための生命線だと言える。
デファクト化したCAN
国内外の自動車メーカーは、1980年代後半から、自動車に複数個のECUを搭載するようになった。同時に、それらのECUを接続するために必要な車載 LANのプロトコルを独自に開発するようになった。例えば、国内メーカーであれば、トヨタ自動車の「BEAN(Body Electronics Area Network)」、日産自動車の「IVMS(In-Vehicle Management System)」、本田技研工業の「MPCS(Multiplex Control System)」などである。
しかし、1990年代後半になって、欧州の自動車メーカー各社が、ドイツDaimler社が採用していた車載LANプロトコルを標準化しようという動きを見せた。その結果得られたものが、現在でも車載LAN規格のデファクトスタンダードとなっているCAN(Controller Area Network)である。同時期に、米国においても、General Motors社、Ford Motor社、Chrysler社の“ビッグ3”により、J1850というプロトコルの標準化作業が進んでいた。しかし、J1850と比べてCANのほうが通信速度が速いといった理由から、2000年以降にはビッグ3もCANを採用するようになった。独自の車載LANの規格開発を競っていた国内の自動車メーカーらも、2000年からCANの採用を開始した。
システム別の新たな車載LAN
こうして車載LAN規格の主流はCANとなったが、2000年以降もさまざまな規格が登場している(表1)。それらは、1980年代のように各自動車メーカーが独自に策定しているものではない。自動車メーカー、ティア1サプライヤ、半導体メーカーなどが参加する標準化団体が、自動車のシステム別に最適な車載LAN規格を策定しているのである。
自動車のシステムは、自動車の本来機能である走行にかかわる制御系と、カーナビゲーションシステムをはじめとするインフォテインメント関連で利用される情報系に分かれる。そして、それぞれのシステムに利用される車載LANは異なるものとなる。CANをはじめとする規格が用いられる制御系は、通信速度は比較的低くてもよいが、リアルタイム性と安全性に優れていなければならない。一方、情報系では、音楽や映像など大容量のデータを扱うために、通信速度を重視した規格が利用されている。また、最近では、エアバッグの加速度センサーなど、安全システムにかかわるセンサーノードについて、CANよりもコストが低く、かつ安全性の高い接続を可能にすることを目的とした安全系の車載LANも利用され始めている。
制御系において、CAN以外に広く利用されているのがLIN(Local Interconnect Network)である。機能は制限されるものの、低コストなことから、ドアスイッチやドアミラーなどのボディ系で、CANほどの通信速度を必要としないシステムで利用されている。
情報系では、欧州をはじめとする各国の自動車メーカーがすでにMOST(Media Oriented Systems Transport)を広く採用している。パソコンなどで利用されているIEEE 1394を車載用途に拡張したIDB-1394という規格も存在するが、これはまだ量産車には採用されていない。
安全系で実際に量産車に採用されているのは、エアバッグシステム大手の米TRW Automotive社と米Freescale Semiconductor社が推進しているDSI(Distributed Systems Interface)だけである。今後は、ドイツRobert Bosch社、ドイツContinental社、スウェーデンAutoliv社など欧州のエアバッグメーカーが推進するPSI5(Peripheral Sensor Interface 5)や、エアバッグの点火システムなどにも利用できるSbW+(Safe-by-Wire Plus)が登場する見込みだ。
これら数ある車載LAN規格の中で、今最も注目を集めているのがFlexRayである。その背景にあるのは、これまで制御系の車載LAN規格として主流であったCANが、最大でも1Mbps(メガビット/秒)の通信速度にしか対応しないといった問題から、実用性の面で限界に達しつつあることだ。
FlexRayは、2000年にドイツの自動車メーカーを中心に設立された「FlexRayコンソーシアム(以下、FRC)」によって標準化が進められている。規格の標準化作業が開始して10年目を迎え、2009年末にはほぼ最終版となるFlexRay Version 3.0の仕様が決定される。これまで、FlexRayは、FRCの中心メンバーであるドイツBMW社だけが量産車に採用していた。しかし、規格の最終仕様が固まることにより、今後は各自動車メーカーの新車開発の現場で、FlexRayの本格採用に向けた検討が始まる見込みだ。
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