CANopenの“オープン”な特徴とは?:CANopen入門(2)(2/2 ページ)
オープンネットワークであるCANopen規格の標準化を行う「CiA」という団体について紹介するとともに、CANopen規格の“4つ”の特徴を詳しく解説する
通信プロファイル
次に、CANopenの通信部分をつかさどる「通信プロファイル」を紹介します。
通信プロファイルには、前述のオブジェクトディクショナリーの構造定義をはじめ、オブジェクトの種類や送受信関係、デバイス制御やネットワークマネジメントの方法が定義されています。
例えば、通信オブジェクト(SDO:サービスデータオブジェクト、PDO:プロセスデータオブジェクト)や、通信モデル(マスター/スレーブ、プロデューサ/コンシューマなどの通信関係)の定義、デバイスの状態遷移やブートアッププロトコル、エラーコントロールサービスやエマージェンシーなどのネットワークマネジメント機能があります。
ほかの通信制御プロトコルをご存じの方は、これらの言葉からおおむね内容を想像いただけるかと思います。一般的に必要な通信制御やネットワークマネジメントの要件がそろっていることはいうまでもありませんが、これらのパラメータもすべてオブジェクトディクショナリーのエントリとしてデバイス個々に設定できるのがCANopenの特徴です。
例えばシステムの初期化では、ネットワークの通信速度やエラーコントロールサービスの関係などを各デバイスのオブジェクトディクショナリーに設定します。また、システムの実行中にも、各デバイスがオブジェクトの送信タイプや送信周期を変えたいときには、それぞれのローカルオブジェクトディクショナリーを書き換えて設定を変更できます。
これらの通信プロファイルは下記の規格書で定義されています。
- CiA 301:CANopenのアプリケーション層と通信プロファイル
- CiA 302:CANopenマネージャとプログラマブルCANopenデバイス
いずれも、CANopenネットワークやCANopenデバイスの設計開発の際には必読の規格書です。なお、CANopenの規格書は大きく2種類に分類できます。1つは上記の301や302に代表される通信プロファイル類で、CiAの規格書番号は300番台が割り当てられています。もう1つは後述のデバイスプロファイルやアプリケーションプロファイル類で、規格書番号は400番台が割り当てられています(図2)。
デバイスプロファイル/アプリケーションプロファイル
次に、CANopenのアプリケーション部分をつかさどる「デバイスプロファイル/アプリケーションプロファイル」を紹介します。2009年3月時点で、下記のプロファイルが標準化されています。
- CiA 401:汎用I/Oモジュール
- CiA 402:モーションコントロール(サーボコントローラ、ステッパーモータ、周波数インバータ)
- CiA 404:測定デバイスとクローズドループコントローラ
- CiA 406:ロータリエンコーダ、リニアエンコーダ
- CiA 408:プロポーショナルバルブと油空圧機器
- CiA 410:傾斜センサと傾斜計
- CiA 412:医療用デバイス(コリメータ、ドシメータなど)
- CiA 413:トラック用ゲートウェイ
- CiA 414:織機(フィーダなど)
- CiA 415:道路工事車両(ロードローラなど)
- CiA 416:ビルディング用ドアコントローラ
- CiA 417:リフト(エレベータ)
- CiA 418:バッテリーモジュール
- CiA 419:バッテリーチャージャー
- CiA 420:射出成形機(ダウンストリーム)
- CiA 421:鉄道車両のサブレベルネットワーク制御
- CiA 422:公共用特殊車両(ゴミ収集車など)
- CiA 423:鉄道車両の機関システム(DMS、EMSなど)
- CiA 424:鉄道車両のドア制御システム
- CiA 425:医療用アドオンデバイス(造影剤インジェクタなど)
- CiA 426:鉄道車両の外装照明
- CiA 430:鉄道車両の補助装置(冷却ファン、エンジン予熱など)
- CiA 433:鉄道車両の内装照明
- CiA 434:ラボラトリオートメーションシステム
- CiA 437:グリッドベース太陽光発電
- CiA 443:海底油田用機器
- CiA 444:クレーン用アドオンデバイス(スプレッダなど)
- CiA 445:RFIDリーダ
- CiA 446:AS-Interface用ゲートウェイ
- CiA 447:特殊車両用アドオンデバイス(タクシー、警察車両など)
- CiA 453:電源装置(監視制御、コンバータなど)
それぞれ、汎用デバイスを制御するためのデバイスプロファイルや、それらを組み合わせて特定アプリケーションの制御用にカスタマイズしたアプリケーションプロファイルがあります。例えばモーションコントローラの場合、動作モード、電流、ベロシティ、トルク、ポジション、ホーミング、加速、減速など一般的なモーションコントロールに必要なオブジェクトが定義されています。
これだけ多くのプロファイルが標準化されていることにより、市販のデバイスを使う場合も、新しいデバイスを開発する場合も、短期間で効率よく設計開発を行えます。
また、上記のように多岐にわたって標準化されたプロファイルとは別に、メーカーが独自に定義したオブジェクトもオブジェクトディクショナリーに登録できます。
EDSファイル
最後に、「EDSファイル」を紹介します。
EDSファイルは、そのデバイスが対応している機能や送受信オブジェクトを、オブジェクトディクショナリーのエントリ形式で記述したファイルです。前述の通信プロファイルやデバイスプロファイルで規定されている標準オブジェクト、そしてメーカー独自のオブジェクトをすべて記載した、いわば“デバイスの機能仕様書”になります。
CANopenデバイスには、必ずEDSファイルを併せて提供する必要があります。デバイス購入時はもちろん、購入前の評価検討のためにEDSファイルを事前に提供することも一般的です。汎用的なデバイスであれば、メーカーや販売店に依頼すればEDSファイルを無料で提供してもらえますし、WebサイトにEDSファイルを公開しているメーカーもあります。
EDSファイルを見れば、一般的なカタログ情報よりも詳細に機能を理解できますし、CANopen用のシミュレータソフトなどを使えば、実デバイスがなくてもデバイスやネットワークの評価が可能です。使用を検討しているデバイスや、開発するデバイスの通信相手となるデバイスに目星が付いているのであれば、まずそのメーカーからEDSファイルを入手することがファーストステップとなります。
ちなみに、EDSファイルはCANopenフォーラムなどから無料で入手できるEDSエディタで閲覧・編集できます。EDSファイルはASCIIテキストで書かれていますので一般的なテキストエディタでも閲覧・編集ができますが、デバイスによっては膨大な情報量を持っていますので専用エディタを使った方が便利でしょう。
関連リンク: | |
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⇒ | CANopenフォーラム |
今回紹介したCANopenの特徴の中でも、オブジェクトディクショナリーと各種デバイスプロファイル、アプリケーションプロファイルは、CANopenならではのユニークな仕様です。また、それらの情報は各デバイスのEDSファイルに具体的に記されています。興味を持たれた方は、各デバイスメーカーからCANopen用EDSファイルを入手して、閲覧してみてください。また、CiAの公開規格書やCAN Newsletterなど、無料の情報・サービスも併せて利用すれば、より詳しくCANopenの特徴や応用例を理解していただけると思います。
さて次回は、CANopenデバイスの開発やCANopenデバイスを用いたシステム構築の方法について紹介します。ご期待ください!(次回に続く)
http://www.vector-japan.co.jp/
http://www.canopen-solutions.com/
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