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不況脱出のカギは“ユニーク&オリジナル企業”提言:TOCの発想で世界同時不況を乗り超える(3/3 ページ)

ほぼ1年にわたってTOC記事を執筆してきた村上悟氏が、2008年秋から始まった米国発世界同時不況の原因を分析し、日本製造業はどうやってこの苦境を乗り越えたらよいか提言する。

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キーワードは擦り合わせ

 ものづくりの技術体系には“組み合わせ型”(モジュラー)技術と“擦り合わせ型”(インテグラル)技術があるといいます。前者の代表例がパソコンであり、CPUやハードディスクなど主要な部品の規格が決まっており、プラモデルのように組み立てて製品を作れます。組み合わせ型技術は、安価な労働力を持つ国に優位性があります。これに対して擦り合わせ型技術は、自動車のように多くの部品を高度に組み合わせるという生産技術に特徴があります。しかもこの擦り合わせの部分は企業内でブラックボックスになっており、そのまま競争優位の源泉になるのだといいます。

 東京大学の藤本隆宏教授は「日本企業が世界で勝負するとき、必要になるのは付加価値。“擦り合わせ型”技術をいかに守り、育てていくかが重要だ」と指摘しています。しかし、今回の不況で露呈したのは、技術の擦り合わせだけでは十分ではないということです。不況に沈んだ企業の多くは「擦り合わせ型の優等生」だったのです。

 この擦り合わせの考え方を、製品開発だけでなく営業部門と開発部門や、サプライヤとメーカーなど、製品を企画してから製造販売するまでの全プロセスに展開して、市場や顧客の困り事を解決すると考えたらどうでしょうか。築き上げたオリジナルの仕組みを擦り合わせて、ユニークな製品やサービスを創造することがリスクを最も低減するポイントなのです。

レバレッジ・ポイントという考え方

 この擦り合わせを有効に機能させるために必要な視点がレバレッジ・ポイント(Leverage Point)という考え方です。レバレッジとはてこのことで、レバレッジ・ポイントはてこの支点を指します。企業のビジネスには、まさにてこのように、わずかな力で全体を大きく変化させられるポイントが必ず存在します。もし「ビジネスに固有のレバレッジ・ポイント」を見つけ出せれば、企業の総力を挙げてそれに対処することで、顧客の利益を創出して自社の競争優位を確立できます。

 例えば、試作用の部品を製造している会社ならば、顧客の開発スピードを向上させ短納期と信頼性を格段に向上させるような取り組みがレバレッジになりますし、アパレルなど売れ残りと欠品が同時に出るような業界の場合には、商品の補充頻度を高め欠品を最小にし、過剰在庫を抑えられれば、顧客の利益は著しく向上します。要するにレバレッジ・ポイントとは、これまでのビジネスが顧客に強いていた「不満足」を解消するポイントのことなのです。自社のさまざまな機能を「擦り合わせ」てレバレッジ・ポイントを攻略し、顧客の利益を創出することができれば自社にも著しい利益がもたらされます。

 市場や顧客は、あなたの会社の製品やサービスに対して100%満足していることは決してありません。QCD(品質・納期・コスト)はもちろんですが、それ以外にも多くの困り事を抱えているはずです。顧客のこういった状況は、顧客の不満や困り事の根本になっている核心的な問題が存在し、その問題にライバルメーカーも対応できていないことを示しています。顧客の抱えている問題は決して小さいものではありません。しかし顧客自身も「当たり前」だと思って気付いていない問題が多いのも事実です。

 多くの企業では製品そのものにしか目を向けず、本当に顧客にとって重要なものが何であるかが見えなくなっています。本当に重要なのは、顧客が自社の製品やサービスの価値をどう認識しているかです。顧客が見る価値とは、製品やサービスを通じて、顧客の抱えている問題が解決され、どのような利益や利点がもたらされるかによって決まります。つまり製品やサービスが解決する問題が大きければ大きいほど、顧客が見いだす価値は大きくなり、より大きな対価を受け取ることが可能なのです。

 ユニーク&オリジナル・カンパニーへの道は顧客の不満足や困り事、いうなれば「市場のつぶやき」に耳を傾けることからスタートするのです。大きなリスクを取ることなくユニークでオリジナルな企業になる……そんな都合のいい話が、筆者の目指してきたコンサルティングです。ユニーク&オリジナルは特殊な話ではありません。あなたの会社でも、ちょっとの知恵と工夫を生かすマネジメントで可能なのです。

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