不況脱出のカギは“ユニーク&オリジナル企業”:提言:TOCの発想で世界同時不況を乗り超える(2/3 ページ)
ほぼ1年にわたってTOC記事を執筆してきた村上悟氏が、2008年秋から始まった米国発世界同時不況の原因を分析し、日本製造業はどうやってこの苦境を乗り越えたらよいか提言する。
不況を生き抜くには「ユニーク&オリジナル」がカギ
販売店ではさまざまな製品が、これでもかとばかり陳列されています。しかし、並んでいる製品をよく見ると、どれも似たような価格と機能ばかりです。これでは消費者が選択できるのは価格しかありません。まるで子供のサッカーのように、成長市場にプレーヤーが群がってボールを奪い合う結果、過当競争は発生します。こうなると多くの場合、競合ポイントは価格を機能で割った直線的な競争に絞られます。その結果、ライバルと同じ、いたずらに高機能で使い勝手の悪い製品が市場にあふれ、顧客の選択の幅を狭め不満足を強いているのです。
ハーバード・ビジネススクールのマイケル・E・ポーター教授は、企業にとって最悪の失敗とは「他社と同じ商品・サービスを持って、競争のただ中に飛び込む行為」だと指摘します。製品の機能に対しても「もし、顧客のすべてのニーズに合致し、なおかつ最高のものを提供しようとするならば必ず失敗する。なぜなら個性を持つ多数の顧客に万能の『最高』など存在しないからだ」と警鐘を鳴らしています。そして、真に強い企業を作り出すためには「どうやったら他社と違ったやり方を創造できるか、どうやったら顧客にとってユニークな利得を生み出せるか」を組織を挙げて追求しなければならないのだと教えています。
日本の「規模(シェア)を求める横並び競争体質」は、これまで何度も問題提起され改善努力がなされてきました。しかし今回の不況に沈んだ企業の体質は大きく変わっていない、問題の本質は30年前と同じだということを再認識すべきです。そしてオリジナリティを磨くことを忘れ、ひたすら規模を求め短期的な収益拡大に走ればどうなるかを、しっかりと肝に銘じるべきではないでしょうか。
ですから、この悪循環から脱出するには他社と横並びのリストラやコスト削減を行うだけではダメです。いますべきことは「どうすれば他社と違ったやり方を創造できるか」「どうすれば顧客にとってユニークな利得を生み出せるか」ということを企業の総力を挙げて考えて実行すること、つまり「ユニークでオリジナルな企業」になることです。そのことが、真に強い企業をつくるために必要なのです。
もちろん、この状況でもユニーク&オリジナルで高収益を持続している会社もあります。任天堂は絶好調で売上高、利益ともに過去最高を更新すると報じられていますし、衣料業界が不況にあえいでいる中でユニクロを展開するファーストリテイリングは快進撃を続けています。ディズニーランドを運営するオリエンタルランドも増収増益を続けています。これらの企業はほかの会社にはないオンリーワンの製品やサービスを持ち、明確にセグメントされた顧客ターゲットに発信していることに特徴があります。明確なターゲット顧客にユニークな方法で価値を提供できれば、顧客は他社とは異なった価値認識を持ちます。このライバルと違った価値認識こそが高利益の源泉になるのです。
当り前の取り組み(凡庸さ)をもって非凡さ(ユニーク&オリジナル)をつくる
しかしユニーク&オリジナルが良いと分かっていても、多くの企業ではなかなかそこに踏み出せずにいます。ユニークでオリジナルな企業への道は、非常に険しくリスクが大きいように見えることも事実なのです。なぜでしょう? 確かに厳しい競争環境で、まったく異質な新製品を開発しようとすれば、大きなリスクが伴うのは事実です。またアプローチがこれまでの方法とまったく異質だとすれば、未知なるものに対する躊躇(ちゅうちょ)があるかもしれません。
筆者がコンサルティングの技術基盤としているTOC(制約条件の理論)には、図1のように「クラウド(雲)」というジレンマや対立の構図を表現する便利なツールがあります(詳細は連載「ジレンマ解消! TOC思考プロセスの基本を学ぶ」を参照)。
「ユニーク&オリジナルな会社に変化」しようとしたときに発生するジレンマは、リスクを冒すか、リスクを避け安全な道を行くか、という行動の対立となります。企業にとっては「成長する」ことも、「安定した事業基盤を構築する」ことも、ともに大切でどちらも捨て去るわけにはいきません。しかし現実的な解を見つけようとすれば、このジレンマを解かなければ一歩も前に進みません。
過当競争に沈んだ企業は、リスクを冒さずに競争から抜け出すためにシェアを確保する道を選択してきました。いうなれば物量作戦です。なぜならば、市場が拡大している限り多くの経営資源を投入しても一定の販売量が確保でき、利益がついてきたからです。しかし説明してきたように今日の過当競争では、トップシェアを取ったとしても利益が取れるとは限りません。ですから今日では物量作戦は非常にリスクが高いといわざるを得ません。
では今日の環境で、リスクを最低にして安定的に成長する方法があるのでしょうか。ポーター教授は企業が高い競争力を築くためには、
- 高い価格を顧客に要求できる能力
- 低いコストを獲得して圧倒的なポジションを築く
が必要だと指摘しています。
当たり前のように聞こえますが、要は高く買っていただいて入ってくるお金を増やすこと、そして改善を進めて、安く作れるよう工夫して出てゆくお金を減らすことが企業の基本原則であり、TOCスループットの考え方と同じなのです。
この考え方を適用するときに重要なのは、高い価格と低いコストはトレードオフにしてはいけないということです。目指すのはハイブリッド型、つまり「ローコストだけれどもオリジナルなオペレーションの仕組みをもって、ユニークな製品やサービスを築き上げる」ことなのです。
ローコストオペレーションは製品やサービスをタイムリーに供給する能力、つまり顧客の欲しいときに欲しい数量を正確にお届けするという「当たり前(凡庸)」の能力を意味します。当たり前の仕組みは、会社の中にムダがないことと同義であり、ムダがない=ローコストなのです。TOCの改善手法を活用すれば、短期間でプロジェクト期間や生産期間、納期順守率を大幅に改善できます。
そして、非凡さとは築き上げた当たり前の仕組みを通じて、常に市場や顧客の声に耳を傾け、市場顧客の困り事を解決するユニークな製品やサービスを開発し、高い付加価値を顧客に認めていただくことです。もちろんこれは機能やデザイン、価格といった製品本体のユニークさだけではなく納期や、補充体制、アフターサービスなどの顧客満足を決めるすべての要素を含んだものであることはいうまでもありません。
ユニーク&オリジナルへの取り組みは、明日からまったく違うことをするのではありません。ユニーク&オリジナル・カンパニーはこの2つの能力のシナジー(相乗効果)によってつくられるものなのです。
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