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AUTOSAR適用の「現実解」を提供するベクターの役割組み込み企業最前線 − ベクター・ジャパン −(2/2 ページ)

車載ネットワーク向け開発ツールで圧倒的な強みを持つベクターは、次なる事業の柱として「AUTOSARソリューション」を展開する。欧州発の“標準化”を遠巻きにする国内ユーザーに対し、いまは製品を売り込むだけではなく、“どのような意義があるのか”をユーザーと一緒に考えるところからはじめている。

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開発工程をフルにカバーするベクターのAUTOSARソリューション

 AUTOSARの仕様は膨大であり、その抽象度も高く、車載分野のエンジニアといえどその内容を理解するのは大変だろう。ましてやこうした仕様を実装レベルにまで落とし込む作業は並大抵のことではない。

 さらに、ECU仕様を決める自動車メーカーと実装を担う電装メーカーは、“擦り合わせ”でモノ作りを行う傾向が強く、周囲との協調を是とする。そのためか、明確な方向性が見えない時点では、「日本のユーザーは依然、AUTOSARに対する態度を決めかね、様子見のところがある」(中村氏)という。

 だからこそAUTOSARの仕様を熟知し、製品やサービスを提供するベンダが求められている。加えてベクターのように、すでに欧米の自動車メーカーが手掛ける量産車の開発プロジェクトに参画し、実装技術も習得しているベンダはさらにその存在意義が大きくなってきている。

 ベクターのAUTOSARソリューションは、上流設計ツール(DaVinci Network DesignerとDaVinci Developer)、組み込みソフトウェア製品(MICROSARとDaVinci Configurator Pro)、技術サポートから成り立っている。この広範なAUTOSARソリューションは、自動車メーカーから電装メーカーにまたがるECUソフトウェア開発を全面的にカバーする。

ベクターのAUTOSARソリューション(設計・コンフィギュレーションツール)の概念図
図2 ベクターのAUTOSARソリューション(設計・コンフィギュレーションツール)の概念図

 上位設計ツールでは、「DaVinci Network Designer」で車載ネットワーク、データ通信の設計、スケジューリングを行い、設定情報をAUTOSAR標準XMLで出力する。そして、その情報を基に「DaVinci Developer」で、ECU間通信を制御するRTEの設定を行うのだ。さらに、ベクター製品の代名詞ともいえる車載ネットワーク向け開発・検証ツール「CANoe」を使えば、ECU間の仮想的なネットワークをPC上にエミュレートし、ECU間の協調動作を検証できる(PCに組み込むCANoeエミュレーション専用のBSWが提供される)。

 MICROSARでは、AUTOSARアーキテクチャを構成するRTE、BSW(OSEK OS互換OS、CAN/LIN/FlexRayスタック、メモリ管理モジュールなど)をフルに提供するほか、BSWの設定・生成作業を行う「DaVinci Configurator Pro」を用意している。BSWに含まれるモジュールは、CANソリューションで実績のある製品がベースなので信頼できるだろう。

 一方、BSWはMCALも含むが、「半導体ベンダのMCALをMICROSARに統合することも可能だ。それが古いRelease 2.1にしか対応していなくても、差異を吸収する仕掛けを設けているので、3.0/3.1対応のMICROSARとも互換性を保てる」(櫻井氏)という。AUTOSAR準拠・非準拠にかかわらず、サードパーティや内製のモジュールを自在に組み込めるのがMICROSARの特長の1つである。

MICROSARのソフトウェア部品群はAUTOSARアーキテクチャを網羅する
図3 MICROSARのソフトウェア部品群はAUTOSARアーキテクチャを網羅する(赤色の塗りつぶし部分)

あらゆる側面からAUTOSAR適用をサポート

 AUTOSAR適用の第一歩は、技術検証を目的としたプロトタイプ開発だろう。

 ベクターは、試作・評価用の製品として設計ツールとMICROSARをバンドルした「AUTOSAR Prototype Bundle」を提供している。もちろん、ユーザーが自力で設計・実装していくのは難しいので、トレーニングや開発サポート、ユーザー既存資産の移行計画立案などでバックアップする構えだ。「われわれがお手伝いできる部分はかなりあると思う。実際、いくつかのプロジェクトにも参加している」(中村氏)という。

左からベクター・ジャパン 組込ソフト部 中村氏、櫻井氏、安岡氏
画像4 左からベクター・ジャパン 組込ソフト部 中村氏、櫻井氏、安岡氏

 現在、世界同時不況が直撃し、自動車業界は難局にある。これがAUTOSAR普及にどのような影響を与えるか気になるところだが、安岡氏はこう見る。「明日の糧への投資が減ることはないはず。その証拠に、最近は顧客先で説明する機会が増え、AUTOSARへの関心は間違いなく高まっている。また、日本の電装メーカーも海外ではAUTOSARを扱いはじめており、その経験が国内でも生かされてくるはずだ」。

 国内のユーザーが今後、AUTOSARへの適応を決断すれば、ユーザーの個別事情に合わせた実践的なソリューションがますます求められてくるだろう。この分野でも、CANと同様にベクターが果たす役割は小さくなさそうだ。


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