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AUTOSAR適用の「現実解」を提供するベクターの役割組み込み企業最前線 − ベクター・ジャパン −(1/2 ページ)

車載ネットワーク向け開発ツールで圧倒的な強みを持つベクターは、次なる事業の柱として「AUTOSARソリューション」を展開する。欧州発の“標準化”を遠巻きにする国内ユーザーに対し、いまは製品を売り込むだけではなく、“どのような意義があるのか”をユーザーと一緒に考えるところからはじめている。

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CANのリーディングカンパニー「ベクター」とは

 組み込みソフトウェア開発に携わるエンジニアであれば、たとえ車載分野と縁がなくとも、「ベクター」の名を一度は耳にしたことがあるだろう。

 1980年代後半に独ボッシュがまとめ上げた車載ネットワーク規格の「CAN(Controller Area Network)」。その開発チームリーダーがスピンアウトして、1988年に興したのが独ベクター・インフォマティックである(日本法人「ベクター・ジャパン」の設立は1998年)。

 ベクターは、CAN関連の設計・開発ツールおよびソフトウェア部品で圧倒的な世界シェアを誇るだけではなく、「LIN(Local Interconnect Network)」「FlexRay」と対応プロトコルを広げ、いまや車載ネットワーク開発では欠かせない存在といっても過言ではない。これに加え、車載用の組み込みソフトウェア分野においても、CAN通信における長年の経験を生かして組み込みソフトウェア「CANbedded」を提供し実績を残してきた。

ベクター・ジャパン 組込ソフト部 マネージャー 中村 伸彦氏
画像1 ベクター・ジャパン 組込ソフト部 マネージャー 中村 伸彦氏

 「ベクターの組み込みソフトウェアは、1990年代初めのCAN黎明(れいめい)期に某自動車メーカーのCAN適用プロジェクトに採用されたことをきっかけに事業を拡大していった。その後、ほかの自動車メーカーでも続々と採用され、現在では自動車メーカー固有の仕様に対応した製品も提供している」と、ベクター・ジャパン 組込ソフト部 マネージャー 中村 伸彦氏は語る。

 そのベクターが次なる事業として力を注いでいるのが「AUTOSARソリューション」である。


「AUTOSAR」プレミアムメンバーとして仕様策定をリード

 「AUTOSAR(Automotive Open System Architecture)」は周知のとおり、ECUソフトウェアのアーキテクチャ、基盤部品の標準仕様を策定している団体だ。「AUTOSARの取り組みを平たくいえば、ECUソフトウェアの土台に関して、決め事を作ろうということ」(ベクター・ジャパン 組込ソフト部 櫻井 剛氏)。それにより固有の土台に依存せず、ソフトウェアの再利用が進められるという考えだ。

ベクター・ジャパン 組込ソフト部 ビジネス・デベロップメント・マネージャー 安岡 直成氏
画像2 ベクター・ジャパン 組込ソフト部 ビジネス・デベロップメント・マネージャー 安岡 直成氏

 その仕様は版を重ねるとともにカバー範囲を広げ、2008年夏公開の最新版「Release 3.1」では、仕様の領域が140にも及ぶという。なお、AUTOSAR準拠のECUソフトウェアを本格的に搭載する量産車は、仕様策定をリードする欧州の自動車メーカーから2010年までに登場するそうだ。

 ベクター自身もAUTOSARのプレミアムメンバーとして名前を連ね、仕様の策定と検証に携わっており、2008年にはAUTOSARプレミアムメンバー アワードを受賞している(中核のコアパートナは自動車メーカーを中心に9社、それに次ぐプレミアムメンバーは50社余り)。また、詳しくは後述するが、AUTOSARに準拠した開発ツール、ソフトウェア部品から開発支援やトレーニングのサービスまで幅広く提供する。「この分野では10社以上の競合があるが、最新のRelease 3.1に対応した製品を投入しているのはベクターだけだろう」(ベクター・ジャパン 組込ソフト部 ビジネス・デベロップメント・マネージャー 安岡 直成氏)と自信を見せる。

AUTOSARとベクターの歩み
図1 AUTOSARとベクターの歩み

お仕着せの標準化ではない「AUTOSAR」

 ここまで読んだ読者の中には、AUTOSARのことを閉じた世界を標準化の御旗で開こうとする“黒船”的なものと思った人もいるだろう。

ベクター・ジャパン 組込ソフト部 櫻井 剛氏
画像3 ベクター・ジャパン 組込ソフト部 櫻井 剛氏

 だが、ベクターの考えは現実的である。櫻井氏は次のように指摘する。「AUTOSARに拒否反応を示したり、この流れに乗り遅れたら大変と焦ったりするユーザーが多いが、身構える必要はない。いままでどおりでもECUソフトウェアは開発できるし、ECU統合も十分可能だ。ただ、AUTOSARに対応すれば、開発のしやすさが期待できる。しかし、それが得られる条件はユーザーごとに違うため、いまは製品を売るというより、“あなたにとってのAUTOSAR”という現実解、つまり“現実に使ってもらうための答え”を個々の顧客と一緒に考えている」。

 AUTOSARアーキテクチャは、実行環境「RTE(Runtime Environment)」と基本ソフトウェア「BSW(Basic Software)」で構成され、さらにBSWは、マイクロコントローラ抽象化層「MCAL(Micro Controller Abstraction Layer)」などのモジュール群で成り立つ。そして各コンポーネントをつなぐインターフェイスが規定されている。普通は、このアーキテクチャを丸ごと採用してこそのAUTOSARだと思われるが、櫻井氏は「RTEを使わない、逆にRTEだけを使うという考えもあるし、多数のモジュールで構成されるBSWの中でもどの部分で準拠品を使うか、ユーザー自身の既存資産や技術戦略との兼ね合いで無数の選択肢がある」と説明する。つまり、AUTOSARはお仕着せではなく、結局はユーザーが決めなければならない所が残るものなのだ。

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