公差解析、どうしてみんなやらないの?:メカ設計 イベントレポート(9)(3/3 ページ)
公差解析は難しくて面倒そうだし、実機を作って検証したほうが早い? しかしそれで、今日の厳しい市場で生き残れるだろうか
プリンター設計の例
次に杉山氏は、インクジェットプリンターのキャップユニット部の設計例を示した。
ヘッドとキャップは互いにぴったりと閉じられた状態でなければならない。これらが大きくずれてしまえば、ヘッドからインクが逃げ放題になってしまう。しかし、ヘッドは駆動するもので、部品構成も複雑である。
このユニットは2カ所のピンの径で位置が決まるようになっていた。まず1つのピンの外形とユニットのベースの端面を当て、さらにもう1つのピンをV字の切り欠きにはめて位置を決める。上ユニットと下ユニットの端面の間隔は10mmとし、互いが常に平行になるようにしたい。
ただ、この構造であると、公差の最悪値を見込むと図8のように傾斜してしまう。これではキャップとヘッドがうまく収まらない。このように傾斜してずれ込まないために、ピンの設計変更で対応することにした。
ピンの径で位置を決めるには、径の公差を相当追い込まないと傾いてしまう。Vの字の寸法を管理するのも難しい。
そこでピンの構造を図10のような板状の足の付いた形状にした。
ピンの板状の足に、プレートの水平垂直の端面を突き当てるようにすることで、回転しないように制御できるようにした。これで斜めにずれてキャップとヘッドが収まらないという事態は回避できた。斜めに0.1mmずれるのと、平行垂直に0.1mmずつずれるのとでは大違いだ。
また図10の緑色のピンは、公差解析の結果により、従来のピン径の公差よりレンジで約0.8mm(±0.4mm)も緩い方向で公差を設定しても大丈夫なことが分かった。ピンの径の精度を追い込もうとするよりも、大幅に安く付くというわけだ。
編集部注:図11の形状が、ローランド ディー.ジー.で解析を行った最終結果ではありません。ここでは、読者に公差解析がどういうものかを紹介するための一例として取り上げさせていただきました。また実際の設計内容や加工事情とは一部異なる部分がございます。またこの形状は、ここで使用している解析ソフトウェアの処理の限界も考慮した形状ですのでご了承くだされば幸いです
設計をデジタルで快適に
ローランド ディー.ジー.は「DVE(Digital Value Engineering)」という概念を掲げている。「デジタル技術でものづくりのプロセスを改革し、新しい付加価値を創出する」という意図が込められているという。人の力だけではなく、デジタルの力も使って設計作業を効率化して品質を上げていこうという取り組みだ。そこに公差解析のツールも組み込まれている。またCAEとも組み合わせることにより、試作台数を極力減らし、ロバスト設計を目指している。
現在の同社は、3次元CADのモデルデータが利用できる公差解析システムを導入している。設計で使用している3次元モデルデータが公差計算にそのまま利用できれば、Excelの計算よりも、公差の積みあがりが断然理解しやすくなり、計算の際の作業負担も大幅に減る。生産現場ではめ込みができないという問題も「いまではゼロ」と杉山氏はいう。
公差解析のニーズが増えつつあるいま、公差解析ツールもどんどん進化していくだろうし、いまよりももっと計算が快適になっていくに違いない。
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