公差解析、どうしてみんなやらないの?:メカ設計 イベントレポート(9)(1/3 ページ)
公差解析は難しくて面倒そうだし、実機を作って検証したほうが早い? しかしそれで、今日の厳しい市場で生き残れるだろうか
3次元CAD上で部品干渉チェックを行い、エラーはゼロだった。そのうえで図面を出図した。部品も図面の指示どおりにできてきた。
さて、実際にモノを作ってみると……干渉が起こって組み立たないという問題が起こってしまった。
部品を工作室でガリガリ削りつつ、組み立て調整を行うしかない。それで済まなければ部品の作り直しである。そして、その調整の結果を図面へ反映する手間も発生する。海外の工場なら、日本の設計者の出張費、言語や考え方の違いによるミスなどさらなる問題が発生してしまう恐れがある。そうして、組み立て不良に対応するための工数やコストがかさんでいく。
これは、部品実物のそれぞれの小さなばらつきがどんどん積み上がることで、設計で狙った組み付け位置から大きくずれてしまったことが原因だ。
公差を見込まない寸法(中心の値)でモデリングしていけば、このように図面に振られた公差による影響までは当然考慮できない。最大実体でモデリングする方法もあるが、すべての設計ケースに使えるわけではないし、逃げを取り過ぎて肝心の設計が成り立たなくなる、金型製作にモデルが利用できないなどの問題も出てしまう。
設計段階で公差解析が適正に行われていれば、このような問題で発生する無駄を削減することができる。しかしながら、公差解析を実践する企業は、まだ多いとはいえない現状だという。1つの開発部隊の中でも、個人個人で意識や知識の差がある場合もあるようだ。
例えば短納期な機構設計現場では、新人の設計者が熟練の技術者に「ここはどのくらいにしておけばよいか」と尋ね、理屈もよく考えずに公差を決定してしまう。尋ねられた熟練の設計者も、自身の経験による勘を頼りに公差を決めてしまうという人も少なくない。また過去の量産図面のデータを引っくり返し、自分の設計している部品と状況がそっくりなものを探し出し、そこの公差を流用して図面を描いて、とにかくモノを作ってしまうこともある。
公差解析では、1つのユニットの中のそれぞれの寸法公差と、生産台数を考慮し、現実に起こり得る寸法ばらつきを予測する。それを基に、「コストを落とすためには、どこまで公差を緩めても大丈夫か」「規格外の部品はどれくらい発生するか」といった判断をしていく。
例えばCAD上の部品断面をさまざまな角度で切る(図面作図機能や画面キャプチャで断面図を拾う)、あるいは断面のポンチ絵を描き、眺めつつ、それぞれの寸法や公差をExcelなどに書き写し、二乗和などを使った地道な計算をしていく。
Excelの関数を使ったとしても、検証個所が多くなれば、少々面倒な作業となる。計算を自動化できる公差解析のソフトの操作を覚えている暇もないし、それ以前に導入のメリットも不明確。やはり、モノを作って確認してしまった方が早いのではないか? とにかく市場へ早く出すことを優先したい場合もある。それに実物を見て判断したほうが安心するというのは人間の正直な感覚かもしれない。しかし本当にそれでいいのだろうか。
今回は、米ダッソー・システムズ・ソリッドワークスのグローバル・プライベートイベント「SolidWorks World 2009」(2009年2月8〜11日、米国オーランド州)内で行われた、ユーザー講演の内容の一部を紹介しながら、公差解析がどういうものかをお伝えしていく。
意識の変化
設計コンサルティング会社のプラーナーが主催する公差解析セミナーへの参加者は、ここ数年で急増していると同社 開発設計部/GLの栗山 晃治氏は説明した(図1)。近年の製造業では、グローバルな市場における競争が激化しており、その中で製品品質に対する要求も非常に高くなってきていることによるという。
また栗山氏は、公差解析の効果を以下だと説明した。
- 公差計算理論と検証基準により、有効な設計ができるようになる
- 従来公差設計を実施していないときと比較し、30〜50%程度のコスト削減効果が見込める
- 設計段階で、設計品質にかかわる問題を解決する
- 有意義な設計レビューができる
- 競合機分析の手段の確立
ローランド ディー.ジー.は、業務用大型プリンターや3次元入力装置を設計・製造している企業だ。2003年に、同社 第2設計開発部 担当課長の杉山 裕一氏がプラーナーの公差解析のセミナーに出席したことがきっかけで、本格的な公差解析への取り組みが始まったという。
過去の同社の設計部隊でも、試作を行ったうえで機構の問題を洗い出し、その結果を図面へ反映させるというプロセスを踏んでいた。ただ、それでは何千台もの量産で安定した歩留まりを出すことはできない。2002年ごろから、同社内でも公差解析を設計に取り入れる検討が始まった。
2004年から、ローランド ディー.ジー.はすべての設計者を公差解析のセミナーに参加させることにしたという。この頃、「設計の段階で公差を考慮せよ」というポリシーを確立した。
まず同社はツールに頼る前に、公差解析の理論への理解を深めることから始めた。設計者の教育では、これまでの参考書ベースの学習から、同社の経験(過去の設計実績)ベースの学習に置き換えた。
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