進ちょく率管理で納期遅れを防げないのなら……:TOC流の開発型プロジェクト管理術「CCPM」(5)(2/3 ページ)
量産型工場の生産管理手法として生まれたTOCは、そのエッセンスを拡張させて設計開発型業務のマネジメントにも応用されている。TOCの最新ツール「クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント」を紹介しよう。
CCPMでのプロジェクトの確認方法
CCPMでのプロジェクト状況の確認(Check)は、バッファ消費率を表したバッファ傾向グラフと呼ばれるグラフで行います(図1)。ここからは確認方法について説明していきましょう。
バッファ傾向グラフは、バッファ消費率を縦軸に、プロジェクトの進ちょく率を横軸に取ったグラフで、残日数を把握するたびにプロジェクトの現状を打点していきます。グラフには警告ゾーンを設定しておき、関係者が何をすべきか一目で分かるようにします。
バッファ消費率とは、当初計画されたバッファの長さに対する消費したバッファの割合を表します。進ちょく率とは、当初計画されているプロジェクトの期間(クリティカルチェーンの日数)に対する、残っている作業期間の割合を残作業の比率と考え、100%から残作業の比率を引いた残りを進ちょく率として計算します。警告ゾーンとはバッファ消費率に合わせて、順調で特に対策を必要としないグリーンゾーン、納期遅れの危険性を考慮して対策を準備するイエローゾーン、バッファ回復のための対策を実施するレッドゾーンの3つを設定します。
警告ゾーンの設定は、バッファ消費率と進ちょく率の両方を考慮して決定する必要があります。バッファの長さはクリティカルチェーンの長さを基準として決めることから、残りの作業期間が少なくなれば、それに応じてバッファの長さを比例的に減少させてもよいといえます。従って進ちょく率増加に合わせて、ゾーンの境界線を傾けて設定する必要があります。こういった点を考慮し警告ゾーンを設定します。
典型的なバッファ傾向グラフ
バッファ傾向グラフを作成することによって、複雑なプロジェクト進ちょく状況を一目で把握できるようになります。ここからは、いくつか典型的なバッファ傾向グラフを見ていきましょう。
図2のグラフは順調にプロジェクトが進んでいることを表しています。各タスクの期間は50%の確率で計画していますから、2回に1回は遅れるはずです。ネットワークは遅れだけが伝わるという特徴を考えると、バラツキはあるもののグラフは右肩上がりに進んでいくはずです。プロジェクトが完了したとき、バッファ消費率が100%ならば納期ぴったりに終わったということですから、図2のようにグリーンの範囲で右肩上がりに推移するグラフは、順調にプロジェクトが実行されたことを示しています。
図3はまったくバッファを消費せずにプロジェクトが進んでいるグラフです。これは個々のタスクが見積もり日数どおりに進んでいることを意味していますから、納期は守られるでしょう。しかし計画段階で「できるか、できないか五分五分」という50%の見積もりができていなかったことも示しています。バッファの状況から考えると、このプロジェクトはもっと遅く開始し、リードタイムを短縮できた可能性を示しています。
図4のグラフは、進ちょく率50%の手前で横軸に対し、ほぼ垂直の線を描いています。これはクリティカルチェーン上にある1つのタスクがまったく進まないために、全体の進ちょくが止まっている状況を示しています。
バッファ傾向グラフを作成していると、この危機的な状況が一目で分かりますが、従来の進ちょく管理方法は、この状況を把握することが困難でした。例えばEVMSではクリティカルチェーン上の作業と、非クリティカルチェーン作業を区分した進ちょく管理をしていないため、非クリティカルチェーンの作業でも進んでいれば、全体の進ちょくとしては順調というような報告がなされます。しかしプロジェクト全体期間はクリティカルチェーン上の作業の進ちょくによって決定されますので、このような方法では期間に対する現状を正確に把握できているとはいえません。
これに対してバッファ傾向グラフは、クリティカルチェーン上の作業の遅れを視覚的に表しているため、プロジェクト期間に対して危機的な状況であることを一目で把握できるようになります。
図5のグラフを見ると、進ちょく率20%程度で対策が必要なレッドゾーンに突入しています。皆さんの経験から、プロジェクトで進ちょく率が20%程度で組織的対応が必要といった報告が上がってくることはあったでしょうか。ほとんどの場合、納期間際になり問題が報告されているはずです。バッファ傾向グラフを作成すると、早い段階で納期遅れの危険を察知することができ、先手管理による対策コスト低減が実現できます。
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