高速移動中も無線LAN通信、NECエンジニアリング:カーエレ JAPAN速報
2009年1月28〜30日の3日間、東京ビッグサイトで開催されている、自動車関連の技術を集めた総合展示会「国際カーエレクトロニクス技術展(カーエレ JAPAN)」のレポートとして、NECエンジニアリングの展示の模様を伝える。
NECエンジニアリングは、カーエレJAPANで高速IPハンドオーバソリューションを中心に展示やデモを行っている。
高速IPハンドオーバソリューションは、無線LANの技術を用いて、自動車や電車などの高速移動体でもIP網によるブロードバンド通信を可能にする技術。展示されている製品は、NEC中央研究所の成果を基に開発されたもので、これらの機器を使うことで画像や音声データなどを高速移動体からリアルタイムで通信できるようになり、道路監視、移動体間通信、移動体からの情報配信などのソリューションに利用できる。
新テストコースなどでのモニタリングに
移動体にモバイルルータ「IPBird-5100」、情報を集約するサーバを置くセンターや途中の経路に高速IPハンドオーバルータ「IPBird-6100」を設置し、ルータ間で、車両の位置情報を交換する。時速330kmで高速走行中の車両からでもIPレベルでの通信を行うことができるという。
「私たちが提供する高速IPハンドオーバはモバイルルータとハンドオーバルータ間で、進行方向や電波の強度を考慮しつつ、常に最適な帯域でデータ通信を行う技術です」とNECエンジニアリング IPビジネス事業部 システムインテグレーション部 技術マネージャー 深瀬洋氏は説明する。
実際に通信を行うにはアクセスポイントを設置しなければならないため、街全体などあまりにも広いエリアでの通信は行えないが、ある程度移動体が通る場所が決まっている環境に対して効果を発揮する。
ソリューションの具体的な例としては、自動車のテストコースでの利用が考えられる。ブレーキ圧センサや温度センサ、加速度センサなどの走行データやモニタカメラからの動画を収集する機器とIPBird-5100と接続し、ピットなどモニタリングを行う場所にデータを送り分析を行う。これまでは、記録メディアを使って走行後にデータを回収していたが、このシステムならばリアルタイムでデータの送信を行い、すぐに走行中のデータを確認できるので、データの分析やドライバへの指示を素早く行うことができる。
「現在の自動車はLINやCANといった車載ネットワークによって制御されていますが、その動きをIP化してデータを送信するといったことも考えられるでしょう」と深瀬氏。
実際にある自動車メーカーのテストコースで、IPBird-5100とIPBird-6100を使ったシステムが採用されているという。
また、電車や路線バス、高速バスといった移動体も、あらかじめ走行する場所が決まっているので、それぞれに対応したソリューションが考えられる。車内からの無線LANサービスはもちろんだが、次の停留所や駅までの位置情報や、道路状況のリアルタイム更新、仮に事故が起こったときもその情報がすぐにセンター側に伝えることができるだろう。
「WiMAXなどの広域の無線通信が普及してくると、もっと広い範囲でのサービスが考えられるので、今後はこれらの動向にも注目していきたいですね」(深瀬氏)
アクセスポイントは、IEEE 802.11b/gでの通信の場合、無指向であれば周囲100mほどのエリアで通信が行える。指向性を持たせることで数百mまでの間隔で設置しても通信が可能だ。高速バスのソリューションでは、300m間隔でのアクセスポイント設置を想定している。
新たにIEEE 802.11jに対応
「IPBird-5100/6100」は、すでに製品として販売されているが、今回のカーエレ JAPANではIEEE 802.11jに対応した4.9GHz帯を使ったソリューションを展示する。IEEE 802.11jはIEEE 802.11aに、日本で利用可能な周波数帯に合わせて修正を加えたもの。IEEE 802.11b/gが使う2.4GHz帯と比べて、ほかの機器による混信や干渉が少ないネットワークを構築でき、IEEE 802.11b/gよりも広い範囲での通信が可能になるというメリットがある。
「IEEE 802.11b/gでは、数100mというオーダーの間隔でアクセスポイントを設置する必要があります。IEEE 802.11jの場合、しっかりとした実験をしてみないといけませんが、混信や干渉の影響を受けにくいため、同じ環境でもアクセスポイントの間隔をより長くしても通信が行える可能性もあります」(会場の説明員)。
高速のハンドオーバ
時速330kmでも通信が行えるというが、移動体が高速になればなるほど、通信経路の切り替え処理が増大する。高速IPハンドオーバソリューションでは、ハンドオーバルータを階層的に配置し、それぞれのルータ間で移動体の位置情報を共有、経路処理を局所化することで、経路切り替えに20ms程度という高速ハンドオーバを実現するという。
またハンドオーバが増えるとパケットロスなど、通信の品質が下がる可能性があるが、モバイルルータ側に2つのアンテナを搭載し、それぞれのアンテナが別のアクセスポイント、通信経路を使って通信を行う。2つのうち、通信品質の高い方の経路を使って通信し、通信品質の低下を防ぐという。
携帯電話網を利用した通信も
携帯電話網を利用した通信を行うモバイルダイヤルアップルータ「IPBird-5040」の展示も行っている。IPBird-5040はデータ通信専用端末用のスロットを搭載し、FOMAのデータ通信サービスを使って通信を行う。最大4回線を1つの回線として扱うマルチリンク接続により、最大256kbpsで通信する。
建設現場や踏み切りなどにカメラや人感センサを設置して監視を行うなどの用途が考えられる。
導入例としては、IPBird-5040にビデオコンバータ機能を搭載したモバイルビデオコンバータ「IPBird-4100」と組み合わせて、調布飛行場と伊豆諸島の新島間で通信を行い、新島の様子をリアルタイムで中継した実績があるという。
すでに提供されているつくばエキスプレスの無線LANサービスや、2009年春から開始されるという東海道新幹線の無線LANサービスなど、高速移動体におけるデータ通信はこれからもっと広がる可能性がある。一般消費者に向けた無線LANサービスだけではなく、走行データのリアルタイムモニタリングによる迅速なデータ分析など、製品開発につながるといったさまざまな用途が考えられる。この動きが本格化する前に高速IPハンドオーバに関する技術を引き続き追いかけたい。
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