検索
連載

ガソリンエンジンがなくなる日は、きっと来るいまさら聞けない エンジン設計入門(11)(2/2 ページ)

原油は枯渇へ向かい、環境の法規制も厳しくなったいま、ガソリンエンジンの利用は限界か!? だが次世代技術にも課題がある。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

電気自動車

 3つ目は「電気自動車」です。

 言うまでもなく、電力だけで動く自動車のことですが、電気自動車という定義は非常に広く業界内でも混乱が起こっている状態です。先述したリチウムイオン電池など、さまざまな動力源が次々と開発されている最中であり、「いったいどこまでを電気自動車と表現するのか」、いまだ明確に定義されていないのです。

 電気自動車はバッテリーに蓄えておいた電力にてモーターを駆動し、その動力で走るという非常にシンプルな構造となります。もちろん内燃機関を用いないため、排出ガスはゼロであり、環境面では非常に有利です。また充電などで使用する電気自体も、原子力が主体発電機関である現在では何ら問題がないと考えられます。充電を家庭で行うと考えれば、余力のある深夜電力を用いれば、ガソリンエンジンの経費と比べれば10分の1程度になると考えられています。

 デメリットとして挙げられるのは、リチウムイオン電池の価格です。電池による電力供給のみに頼る方式ですので、必然的に大きな容量の電池が必要となってしまうことから、コスト面では現時点で不利といえます。この問題さえクリアできれば、非常に高い可能性を秘めた存在となり得るでしょう。

 また大電力を蓄電できるリチウムイオン電池を大量に積んだとしても、航続可能距離は少なく、ガソリンスタンドのような機能を持つ急速充電設備が各所に必要となります。また自動車の寿命に比べると電池寿命の方が圧倒的に短く、数回にわたる交換費用を負担する必要があります。


プラグインハイブリッド車

 4つ目は「プラグインハイブリッド車」です。単純にいえば、短距離走行時(現時点で10km強まで)は電気自動車として使用し、長距離運転などでバッテリー容量が少なくなった場合はハイブリッド車として走行ができる自動車のことです。

 言うまでもなく、一般的には近距離運転が多用される、つまり電気自動車の部分を多用することになるので、燃費としてはハイブリッド車と比べれば飛躍的に向上することになります。ただ、ハイブリッド車としてだけではなく、電気自動車としても走行するので、通常のハイブリッドシステムより多くのリチウムイオン電池の搭載が必要となるため、コスト面で不利となります。

 2つのシステムを共存させるというのは、構造的にも重量的にも不利です。ただし、現在の電気自動車と比べれば、コスト面や重量面で有利です。

 主にコスト面で比較すると、

  ハイブリッドシステム < プラグインハイブリッド < 電気自動車

という関係式になることが分かります(右に行くほど高価です)。

 ちなみにこの関係式は、環境面における優位性に置き換えることもできます。この場合は、右に行くほど優位となります。将来、電池の進化によって、電気自動車がコスト面でも優位に立つ可能性はあります。環境面に優れる電気自動車がコスト面を克服すると同時に、航続距離も克服できるといいですね。


燃料電池車

 最後の1つは、「燃料電池車」です。

 基本的な考え方としては、水の電気分解の逆反応である、

 「2H2+O2⇒2H2O」

によって電力を取り出します。

 理論上で排出されるものは水のみであり、“究極のエコカー”ともいわれています。

 ある意味、電気自動車も究極のエコカーです。しかし自動車として使用する際に重要となる航続可能距離で比べれば、燃料電池車は電気自動車よりも圧倒的に優れています*2。

*2 ホンダFCXクラリティの航続可能距離は620kmと発表されています。

 ただし燃料電池車は、危険といわれる水素を使用するという点や、電気自動車と比べるとインフラ整備やコスト面などの課題が山積みであり、本格的な普及はまだ先となりそうですね。


 このように、次世代エンジンの候補として各自動車メーカーはさまざまな方向性から新たな主流となり得る自動車を開発しています。現在は、これからも人が自動車を使い続けるための変化の時代ともいえます。そんな時代を生きる私たちは、さまざまな種類の自動車に触れられる機会があるということにもなりますね。

不可能を可能にしてきた原動力

 本連載ではエンジンの基本部品の作動説明や開発時に導入された技術などを広く浅くご紹介してきましたが、それらは人類の知恵の歴史、集大成といえます。

 もちろんこれから開発される新技術もそうですが、不可能を可能にしてきたその原動力は、

 「技術者の不断の努力と研究心」

にほかならないと筆者は考えています。

 技術者の方々には、次世代を担うにふさわしい素晴らしい新技術を確立していただき、今後も人類が環境を汚染することなく自動車を使用できるように頑張っていただきたいと思います。

 今回をもって本連載は終了となります。ご愛読ありがとうございました! (連載完)

Profile

カーライフプロデューサー テル

1981年生まれ。自動車整備専門学校を卒業後、二輪サービスマニュアル作成、完成検査員(テストドライバー)、スポーツカーのスペシャル整備チーフメカニックを経て、現在は難問修理や車輌検証、技術伝承などに特化した業務に就いている。学生時代から鈴鹿8時間耐久ロードレースのメカニックとして参戦もしている。Webサイト「カーライフサポートネット」では、自動車の維持費削減を目標にメールマガジン「マイカーを持つ人におくる、☆脱しろうと☆ のススメ」との連動により自動車の基礎知識やメンテナンス方法などを幅広く公開している。



Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る