交通インフラと連携する“安全な自動車”への取り組み:組み込みイベントレポート(1/2 ページ)
ET2008の基調講演で語られた、日産とホンダによる最新カーエレクトロニクスへの取り組みと、ニコンのデジカメ先端技術に注目!!
2008年11月19〜21日にかけて、組み込み技術の総合展示会「Embedded Technology 2008」がパシフィコ横浜で開催された。基調講演では日産自動車と本田技研工業による最新カーエレクトロニクスや、ニコンのデジタルカメラにおける先端組み込み技術が披歴された。招待講演では遊技台などに力を入れるインテルの講演が行われた。本稿では、これら4講演の様子を紹介する。
=講演1:基調講演=自動車の開発スタイルの進化とカーエレクトロニクス
ET2008開催初日に基調講演を行ったのは日産自動車 電子・電動要素開発本部 副本部長兼電子システム開発部 部長 安保敏巳氏(画像1)。同社は“日産車1台当たりの死亡者数を2015年には2000年比で半減させる”という目標を持っており、本講演では「事故ゼロ」を目指すためのさまざまなセーフティシールドに対する取り組みを紹介した。
同社は安全状態を維持するために夜間の視界を良くする「自動配光システム」、車線逸脱を防止する「LDP(Lane Departure Prevention)」、車の安定性を保つ「VDC(Vehicle Dynamics Control)」、車の周囲にある4つのカメラを利用して車を真上から見たような映像を作り出す「アラウンドビューモニター」、前車との車間を制御する「DCA(Distance Control Assist)」などのシステムをすでにさまざまな車種に装備。これらの何重ものシールドを張ることによって危険状態を排除、あるいは被害を軽減する方向に進めているという。
また、横浜市都筑区などで実施している「SKYプロジェクト」をはじめ、道路インフラなどと連携したサービスの実証実験も行っている。SKYプロジェクトは道路インフラとカーナビゲーションシステム(以下、カーナビ)が連携することで出会い頭の事故などを防ぐシステムだ。日産車約1800台とタクシーやバス約200台、合わせて約2000台が参加し、実際に効果を上げているという。
さらに、北海道ではスリップ時に「ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)」を利用した情報を、同社の情報サービス「日産カーウイングス」を通してカーナビで知らせる「スリップ情報提供サービス」も2008年12月から実施。こちらも長時間走行するタクシーやバスの情報を基に、実証実験では大きな成果を上げているとのこと。
安保氏は続いて、同社の開発プロセスの革新について紹介した。新車の仕様を決定してから生産までの開発プロセスは1995年当時、30カ月ほど要していたという。だがコンピュータを導入して効率化を進めることで、1990年代後半には20カ月程度まで短縮したそうだ。現在では、設計だけでなく実験や製造も含めてコンピュータで行うことで、最短10.5カ月から最長でも17カ月程度にまで短縮しているという(画像2)。「通常のCAD(コンピュータ支援設計システム)に、車体の剛性や乗り心地を実現するためのノウハウを入れ込むことで実現が可能になった」と安保氏は語る。
自動車が高度化するにつれ、車体に占めるエレクトロニクス機器の割合も大幅に上昇している。安保氏は「現状ですでに、エレクトロニクスが自動車製造コストの3割を占めている。コンパクトカーでも2割を超えており、将来は5割を超えるだろう」と述べた(画像3)。
1980年代の車載ソフトウェアにおけるソースコード量はC言語で約2000行程度だったが、現在では約1000倍の200万行にも上るという。例の1つとして安保氏は「4輪アクティブステアシステム」を挙げた。システム構成はOSが約10%で、CAN(車載LAN)が約5%、入出力が約12%、ウェイクアップやスリープなどの機能を含めた信号処理・システムマネジメントが約17%、フェイルセーフ機能は約21%。実際に前後のタイヤをコントロールする制御部分は約3%と少ない。これらの割合から、新たな機能を追加する場合において、制御以外の部分に大きな開発負荷が掛かることを読み取れる(画像4)。
また、安保氏は「開発プロセスの短縮により、バグのないシステム作りが大きな課題になっている」と指摘。同社は国内約40カ所と海外約40カ所、合わせて約80カ所にソフトウェア開発を委託しており、各部署がそれぞれに制御仕様書を書いている状況だ。こうしたことから、同社では制御仕様をモデル化し、PC上でソフトウェアの動作を検証する「D-EIPF(Design Electric Integration PlatForm)」を導入しているという(画像5)。「今日の時点で全部できているわけではないものの、仕様書をきっちりと仕上げるための取り組みを進めている」と安保氏は語った。
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=講演2:基調講演=ニコンの最新デジタルカメラを支える先端組込み技術
2日目に基調講演を行ったのは、ニコン 執行役員 映像カンパニー 開発本部長 風間一之氏(画像6)。光学技術を要するため参入障壁が高いデジタル一眼レフ市場に対し、電子機器のノウハウが大きなウェイトを占めるコンパクトデジタルカメラ市場は台湾・中国メーカーも容易に参入できる。そのため、「年率10%では収まらないほど」(風間氏)という低価格化の波にさらされているそうだ。また、デジタルカメラ市場はBRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)市場などでも伸びており、一時的な停滞はあったものの、全体的に伸張を続けているという。
「ユーザーニーズの多様化や短いライフサイクル、低価格化、参入障壁の低さによって、コンパクトデジタルカメラ市場を中心に厳しい競争が続いている」と風間氏は語る。さらにその一方で、「高画素化は市場の要求も小さくなり、だいぶ落ち着いてきた。それよりも、差別化のための技術が組み込まれることで高機能化が進められている」と指摘する。
撮像素子は当初CCDが主流であったが、高速な読み出しが可能で省電力を実現するCMOSに移った。撮像素子からの信号を処理する画像エンジンも高性能化し、「ISO200でもISO6400でも、ほとんど変わらない画を実現した」と風間氏。こうした画像処理の高度化の大きな要因はファームウェアの向上だ(画像7)。処理性能の高いチップを搭載することはもちろんだが、高感度と高画質を両立するためには、ファームウェアのチューニングが大きなウェイトを占めるという。
例えば、人物に露出を合わせながらハイライトの階調も生かして正確な色表現を実現する「アクティブD-ライティング」や「カラーマネジメント」、色収差を補正する「軸上色収差補正」、ノイズを除去する「多重解像方式NR」なども画像処理ファームウェアで実現している。「プログラムの組み方によって、複雑な画像処理をいかに高速にするかが重要」と風間氏は述べる。
このようにファームウェアでさまざまな処理を行うため、組み込みシステムのステップ数は大幅に増加している。「1999年に発売した一眼レフデジタルカメラのステップ数を1とすると、2008年モデルではその6倍くらいに増えている」と風間氏は語る。画素数が上がっただけでなく、さまざまなアプリケーションがカメラに盛り込まれたため、ステップ数の増大は著しい(画像8)。
こうした状況の中、同社は効率的な開発を進めるために、ASICのバス帯域をシミュレートする環境を整備。撮像素子から画像データを読み込み、さまざまな処理を経てメモリーカードへ記録するまでの一連の処理をシミュレートすることで、画像の処理状況、メモリゲージやバッファゲージの状況を可視化し、開発に役立てているという。ちなみに、同社はガイア・システム・ソリューションが開発した仮想開発環境とモデル開発サービスを利用しているとのこと(画像9)。
同社が抱える今後の課題として風間氏は「教育が重要だ」述べた。子会社のソフトウェア開発会社を中心に、ETSS(組み込みスキル標準)ベースのスキル診断を実施しているという。
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