専門家が思わずうなる、モデルの作り方:ETロボコン2008〜チャンピオンシップへの道〜(6)(2/2 ページ)
モデルワークショップの中から、パネルディスカッションの様子をレポート。いま一度、正しいモデリング技術を復習しよう。
幸加木氏 でもあえていわせてもらえば、やはり厳格なところは守りたいよね、というのが主な主張です。
太田氏 チームによってはいろいろなんですけどね。全部が悪いというわけではなくて、きちんとモデルを使いこなしている方もいらっしゃいますよね。ただやはり、ちょっと使い方がまずいんじゃない? というのは当然あって、大事なのは、ヒューマンリーダブルなモデルですって胸を張っていえることです。
すべてを自動生成する必要はありません。チームの中で自分たちが描いたモデルについて、きちんとディスカッションできるかですね。実際にモデルを前にしていろいろを説明しようとすると、モデルに描かれていない重要なことが出てくるんですね。それを仲間の中で拾ってモデルに取り入れて、文法的に正しいモデルを描いていくと、すごく良いモデルになるんですよ。
平鍋氏 例えばソースコードですと、コンパイルされて文法がチェックされてから動きますが、良いソースコードって何かというと、きちんと意図を伝えていて、誰が読んでもなるほどな、と思う。そこにヒューマンリーダビリティが入っている。ソフトウェアを作っていく活動の中に最後の最後まで人間が読める、つまり機械に対してコミュニケーションできるモデルであり、かつ、分かりやすく意図を伝えるモデルというのが、最終段階でその価値を持つものではないかなと思っています。もちろん、自動生成もいいですが、ヒューマンリーダビリティというのを最後まで残すというのが1つの大きな価値になるのではないかなと思います。
久保秋氏 いずれにしても、いまお話しされているヒューマンリーダビリティなどを実現するには、基礎的なモデリングの作法がなければ、肝心なところは伝わりません。ですので今日ここで指摘していただいているようなことは、サッカーでいうとちょうどドリブルであったりトラップであったりという基礎技術を正しく使えるようになりましょうということですね。
機能達成のための構造や振る舞いについて
鷲崎氏 それでは次の話題に移らせていただきます。審査員の方でもう1点、審査していて気になったのは、性能や精度に関する事柄と、機能達成の構造や振る舞いといった応用についてです。その両方がどうも離れてきてしまってるんじゃないかと感じました。
審査の基準として、モデルと走行の両方を審査しますと公開していますので、参加者の方々のレベルはここ数年で大変上がっていて、例えば制御であればPID制御であるとか、非常に優れたものが出てきています。
好例を1つ挙げますと、サヌックさんのモデルです。制御、性能の図と構造やサービスの図がそれぞれ対応関係になっていて、接続がうまくできているんだなというのが、分かりました。
右側からクラス図となっていますが、どういう機能に関してどういう要素で実現しますよということが表されています。よく見ていただくと、PID制御、比例積分微分と、どういう責務を識別してその制御を実現しますよというのが見て取れます。そしてPID制御実装技術というのはこれまた別の図としてありますよということで、ここを見てね、というアピールもありますので、非常に分かりやすいです。
幸加木氏 サヌックさんが素晴らしいのは、クラス図できちんと構造を描いて、実装の技術をそれぞれのクラスの比例や積分の処理の中で切り分けているところですね。
太田氏 ただ1つ質問がありまして、このPID制御のところって、皆さんグラフとか数式を書いてらっしゃるんですけども、ここは、それでいいんですかね? 例えばPID制御ではブロックダイヤグラムなどを描くと聞いているんですけども、何かもう一段階モデルっぽく描く必要はないですか?
サヌック(明電システムテクノロジー) そうですね、PID制御の部分はブロック図で表せますので、表現として有効だと思います。私たちのチームは数式から実装に入ったので、その図で分析するという工程を設けていませんでした(サヌックのモデルについては前回の3ページ目にて詳しく紹介しています)。
幸加木氏 確かにブロック図は1つのモデルで目的に応じてうまく表現できるので、有効ですね。ありがとうございました。
次回は、年々情報量が膨大化するモデル図を、FAT派(情報量が肥大なモデル)とスリム派(必要な情報が絞られているモデル)に分かれて、それぞれを支持する審査員のディベートの模様をお伝えする。
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