速さと性能の確かさを――ETロボコン2008最終章:ETロボコン2008〜チャンピオンシップへの道〜(5)(3/3 ページ)
8月から開始したETロボコン連載も、ついに最終章! 全国区の大会はモデル・走行ともに激しい熱戦が繰り広げられた。
明るさの違いに左右されない、ロボット制御技術
冒頭でも少し触れたが、モデル部門1位のサヌックは、静岡県の沼津工業高等専門学校(高専)出身の若手技術者3名と、ベテラン技術者1名により構成されたフレッシュなチームだ。高専出身の彼らは、3名とも同じ研究室出身で、「並立二重倒立振子」などの制御理論を専門に学んでいたという。
大会終了後、サヌックのメンバーがインタビューに応じてくれた。
――最も工夫した点はどこですか?
工夫といわれれば、すべてが工夫の塊です。実験して反映して、を繰り返していました。プログラムの世界というのは素直なので、書いたとおりに動いてくれますが、そこにセンサーやモーターなど、現実世界のものが入ってくると、外乱など、いろいろな要素が入ってくるのでなかなか書いたとおりに動いてくれません。ですので、その原因、環境の違い、外乱が、なるべく少なくなるように、設計しました。具体的には、センサー値の読み取りのフィルタリング制御やPID制御、明かりの強さに影響されないような制御をしています。
――明かりの強さに影響されない制御とは?
コースの環境によって白と黒の値の幅が全然違うので、それらが常に同じになるようにスケーリングしています。例えば会社にある環境だと、白と黒の差が整数にして100くらいあるのですが、予選大会のときには40しかありませんでした。これはオリジナルの制御方法なので、決まった制御名はありません。
――シミュレーターなどは使用しましたか?
シミュレーターは、数学モデルを立ててシミュレーションを試みたのですが、時間がなかったので、使用しませんでした。
――皆さん同じ高専出身とのことですが、学校での勉強は役立ちましたか?
とても役立ちましたね。ロボット工学や制御工学という授業があるのですが、その中で、今回使用したPID制御を学びました。
――来年への意気込みをどうぞ
そうですね、今回副賞でいただいた来年度からの新しい走行体「LEGO Mindstorm NXT」は倒立振子制御などの知識が役立つと思いますし、また来年へ向けて頑張ります。
以下、サヌックのモデルご紹介。
いままでにない変更〜ETロボコン2009への道〜
チャンピオンシップ大会では、現段階で予定されている来年度のETロボコン概要が発表された。2008年度からの大きな変更点は、以下のとおり。
新しい走行体およびその開発環境が追加! 2つの走行体が使用される
ETロボコンは、2002年にUMLロボコンとして始まって以来、7年間ずっと同じ走行体、開発環境を使用してきた。来年度は、現行のLEGO Mindstorm RCXに加え、LEGO Mindstormシリーズの新モデルであるLEGO MindstormのNXCを使用するという。
また来年度(2009年)は、2010年以降に向けた移行期間と位置付け、今後さらに新しい走行体が追加される可能性も示唆された。
競技内容は、これまでと同じ競技コースが予定されている。もちろん、難所ポイントなどの一部変更も予定しており、どちらの走行体を使用しても問題解決の要求部分については実は変わらない、という方向で考えているという。
現行のRCXと新走行体NXTの比較
機能 | RCX | NXT |
---|---|---|
CPU | H8(8ビット、16MHz) | ARM7(32ビット、48MHz) |
メモリサイズ | 32Kbytes | ROM+RAM 64Kbytes(拡張標準フォームウェア) ROM 224Kbytes/RAM 50Kbytes(NXT BIOS) |
デバイスI/O | センサー×3ch モーター×3ch |
センサー×4ch(A/D、I2C) モーター×3ch(分解能1度のエンコーダ内蔵) |
表示(液晶) | なし | 100×64ピクセル液晶 |
サウンド | なし | トーン/WAV出力対応 |
通信 | 赤外線 | Bluetoothマスタ/スレーブ(NXT/PCと通信可能) USBスレーブ(PCと通信可能) |
コンパイラ | GCC for H8 | GNU ARM(GCC 4.0.1) |
開発環境(オープンソース) | BrickOS C/C++ leJOS Java |
nxtOSEK(TOPPER/ATK) C/C++ TOPPERS/JSP for NXT C/C++ leJOS NXJ Java |
表2 LEGO MINDSTORMS RCXとNXT(新走行体)の比較 |
まずは、マイコンがH8のマイコンから、ARM7という32ビットのチップに変わる。メモリサイズも従来のチップと比べて非常に潤沢になり、最大でROMが200Kbytesを超えるという。
センサーも大幅に変更される。チャンネルがこれまでの3チャンネルから4チャンネルになり、デジタル、アナログ両方のセンサーがある。さらにモーターには1度刻みのエンコーダーが内蔵され、フィードバック制御が可能になるという。そのほか、サウンド機能や液晶画面も改良されている。通信デバイスは現行の赤外線通信からBluetoothの無線通信に変更され、ほかのNXTまたはPCとリアルタイムで通信することができるようになる。
開発環境はこれまでどおりオープンソースとし、無償で入手できる。コンパイラはGCC 4.0.1という新しいクロスコンパイラ。そしてオープンソースの開発実行環境としては、現時点でC、C++とJavaの両方を提供するという。
多くの観客に見守られる中、2008年度ETロボコン大会は幕を閉じた。約9カ月間に及ぶ参加者、審査員をはじめとする関係者の熱き取り組みに称賛の意を表したい。
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