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材料力学をより理解するための10のコツ仕事にちゃんと役立つ材料力学(9)(2/2 ページ)

最終回では、実務で使える材料力学をちゃんと身に付けるために、強く心掛けていきたいこと、改めて確認したいことなどをまとめてみた。

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5.工学に使える応力のありがたさを実感しよう

 材料力学で「応力」という概念は重要なものであることは間違いありません。そしてこの応力こそが、材料力学という学問と実際の設計をつなぐ懸け橋のうちの1つだとも思っています。

 材料力学という学問の中では、応力はテンソル量で、僕を含めて数学にあまりなじみのない人は、その物理的な意味を設計にどのように生かせばいいのか、なかなかイメージがわきません。連載の中で、ミーゼス応力と主応力の大切さを強調してきましたが、これらの応力は、数学の世界と工学の世界をつなぐ懸け橋だと思っています。設計の方々にとって実用的な応力といっていいでしょう。応力についての詳細は、以前の連載をご覧ください。

 この連載でぜひ使おうと思っていたのに、その機会を逸してしまった絵がありました。以下の図1が、それです。

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図1 工学的応力変換フィルター:イメージしづらい数学的概念も、工学的な応力に直せば理解しやすい

 設計に役立つ応力、ミーゼス応力や主応力は、数学的な応力を工学的な応力に変えるフィルターだと僕は思っています。ミーゼス応力や主応力はとてもありがたいものなのです。

6.環境によって劇的に変化する材料の性質を理解しよう

 材料力学はいうまでもなく学問です。それがそのまますべて現場の設計に生かされるというわけではありません。材料はそれが使われる環境によって変化する、ということです。設計の健全性を確かめるために、材料の持つ定数が使われますが、その定数を測定した環境と、設計した部品や製品が使われる環境は往々にして異なる、ということです。

 その代表的なものに温度があります。温度の影響度合いは、金属材料と樹脂材料では大きく異なります。特に樹脂は強度的にまるで違う材料のようになってしまいます。

 そして地球の重力も環境の1つです。部品や製品の大きさ、重さによって製品自身が荷重になってしまうのです。

 さらに経年変化もその1つです。製品の設計条件の1つに耐用年数があります。材料はある環境に長い時間置かれると強度が低下する場合があります。金属材料ならサビもその1つですし、昔遊んだ樹脂製のオモチャがモロくなっているのを経験したこともあると思います。

 ほかにも部品や製品に影響を与える環境があるはずです。皆さんの設計する製品や部品がどのような環境に置かれて、どれくらいの時間稼働するのか、ぜひイメージしてみてください。

7.小さな荷重でも「チリも積もれば山となる」。要注意!

 この連載で説明していなかったことで「荷重の掛かり方」があります。

 人がイスに座るという状況をイメージしながら、荷重の掛かり方について説明をします。

 そぉーとイスに腰掛けてジッーとしている場合、これを「静荷重」といいます。イスの上で上下に飛び跳ねるような行動を取った場合、これは「繰り返し荷重」となります。さらにイスに勢いよくカラダをあずけるような座り方をした場合、これを「衝撃荷重」といいます。同じ体重つまり荷重でも、静荷重→繰り返し荷重→衝撃荷重という順番で、イスに掛かるダメージはどんどん増加していきます。このような荷重の挙動によって、設計基準は大きく変わります。

 機械工学便覧では、それぞれの荷重状態に対して、ある倍率を定義して荷重の掛かり方による材料の降伏応力の低減率を定義しています。逆にいえば、荷重の掛かり方が、ある倍率を考慮することによって、設計や解析結果の解釈に反映できるということです。

 さまざまな事故の原因に「金属疲労」という言葉が使われるようになって久しいです。小さな荷重でも繰り返し、繰り返し作用すれば、材料はダメージを受けます。まさしく、「チリも積れば山となる」です。

 繰り返される荷重、衝撃的な荷重は要注意です。

8.そのほかの材料定数についても整理しておこう

 ここでは、ヤング率、ポアソン比、降伏応力など、主に強度にかかわる材料定数を紹介してきましたが、皆さんが知りたい現象によっては、ほかの材料定数にも注意を払う必要があります。その中でも代表的なものを紹介しておきましょう。

 1つは「質量密度」です。単位体積当たりの質量です。これも材料によって異なる材料定数の1つです。振動を解析したい場合は、必要不可欠の定数となりますので、材料のヤング率とポアソン比などを調べるときにはぜひ一緒に調べておいてください。

 そして2つ目は「線膨張係数」です。一般的に材料は暖めると膨らみ、冷やすと収縮します。その比率を表す材料定数で、単位温度(例えば、1℃)上昇したときの伸び率で表されます。真夏の記録的な暑さで、線路が曲がってしまったというニュースを見たことがあると思いますが、この定数により引き起こされた現象です。部品の形状によっては、炎天下程度の温度でも材料に影響してしまいます。

 皆さんが設計で使う材料のヤング率、ポアソン比、降伏応力、質量密度、線膨張係数をぜひ一覧表にまとめておくことをお勧めします。これだけの材料定数があれば、十分な解析ができますし、結果も十分に評価できます。

9.有意義なネットサーフィン術を身に付けよう

 この連載でも、インターネットのサイトへのリンクをたくさん紹介してきました。「インターネットの情報はいいかげんなものも少なくない」という話をよく耳にしますが、この連載でも紹介したように、まじめに運営されているサイトも数多く存在します。

 ある人が「21世紀の経済の道路はインターネットになる」といいましたが、事実、そのようになってきていますし、「21世紀の学問の道路はインターネットになる」とも思っています。もともとインターネットは学術情報共有のためのネットワークなのですから。

 このような世界的なインフラを使わない手はありません。材料力学について情報を収集する際にもぜひ有効活用してください(本記事の1.で取り上げたコツの実践にも、ぜひ)。

 そのためには、正確な情報を短時間で検索する自分なりの「検索術」を身に付けていただきたいと思います。

 またインターネットが大海原だとしたら、皆さんのPCはその大海原を航海する船のようなものです。セキュリティも含めて、船をコントロールし整備する術を普段から身に付けるようにしてください。PCは船であると同時に、CADやCAEという設計のための道具でもありますので、なおさらのことです。僕自身の勉強を兼ねてWindows XPのクリーン・インストールに関することをCADLABのホームページで公開しています。まだ始まったばかりですが、よろしければ、こちらもお読みください。

10.「仕事にちゃんと役立つ材料力学」で得た知識を発展させよう

 僕がここで連載してきたことは、「はじめの一歩」なのです。しかし「確実な一歩」であると思っています。

 「材料力学」という意味では、まだまだ説明しなければならないことが多く存在します。この連載でやっと材料力学を本格的に勉強する準備ができた、といった方がいいのかもしれません。

 一方で、この連載で解析アプリケーションを「正しく」使う準備ができたということもできます。

 仕事にちゃんと役立つ材料力学にするためには、解析の手法である有限要素法の仕組みを学んだり、解析の種類や適用限界を知ったりする必要があると思います。最初はバラバラに感じられるこれらのテーマですが、それらを理解した瞬間、スーッと重なります。それで初めて仕事に“ちゃんと”役立つ材料力学が生きてきます。そして設計に生かすことができます。この感覚は不思議なもので、素晴らしい充実感があったのを覚えています。元々、材料力学の単位を落としていた僕ですら、味わうことのできた感覚です。それは皆さんにも必ずや訪れると思います。

 仕事にちゃんと役立つ材料力学にするために、ぜひ、有限要素法と解析について学んでいただければと思います。

連載の最後に

 さて、9回にわたってお送りしたこの連載ですが、今回で最終回となりました。思い返してみれば、相当、乱暴な表現を使ったり、たまに横道にそれたりもしました。その点は深くおわびしたいと思います。そして、この連載に最後までお付き合いいただいた方には、心よりお礼申し上げたいと思います。「誰かが連載を読んでくれている」ということが、執筆の励みになりました。どうもありがとうございました。(終わり)

Profile

栗崎 彰(くりさき あきら)

1958年生まれ。キャドラボ 取締役。1983年より24年間、構造解析に従事。I-DEASの開発元である旧 SDRC 日本支社、CATIAの開発元であるダッソー・システムズを経て現在に至る。多くの企業で3次元CADによる設計プロセス改革コンサルティングや、設計者解析の導入支援を行う。特に設計者のための講座「解析工房」が人気。解析における最適なメッシュ・サイズを決定するための「OK法」を共同研究で模索中。



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