材料力学をより理解するための10のコツ:仕事にちゃんと役立つ材料力学(9)(1/2 ページ)
最終回では、実務で使える材料力学をちゃんと身に付けるために、強く心掛けていきたいこと、改めて確認したいことなどをまとめてみた。
さて、これまで連載してきた「仕事にちゃんと役立つ材料力学」も今回がいよいよ最終回になります。今回はこれまでの連載で「説明不足だったかなぁ」と思う部分の補足も含めて、これまでの連載を振り返っていきます。
一見、材料力学とは何の関係もなさそうなライフハック的な内容もありますが(もちろん、関係があるからこそ取り上げているのですが)、最終回ということでどうぞご勘弁ください。
1.イメージするために絵を描こう
この連載ではこれまで何度も「イメージしてください」というお願いをしてきました。「イメージをする」ということは材料力学のみならず「理解」をするうえでかなり重要なことだと思います。イメージすることを簡単に行うには、絵を描くことです。上手に描く必要はありません。紙に描いてみることが大切です。
僕はこれまでいろいろな紙を使ってきましたが、最終的に落ち着いているのはA5判の方眼紙のルーズリーフです(写真1)。
「紙の大きさは思考の大きさを左右する」といわれています。携帯性も考えるとA5はギリギリ限界のサイズです。
筆記用具は0.7ミリのシャープペンシル、芯の硬さはBです。これだと紙に引っ掛かることなくスムーズに図を描くことが可能です。
少し込み入った図を描きたいと思うときには、製図用のペンを使います。本格的な製図用のペンは高いので、使い切りのペンを使っています。使い切りといってもインクを補充できるスグレモノです。
図を描くときに気を付けていることは、フリーハンドでもできるだけ「アスペクト比」を守って描くことです。アスペクト比とは縦、横、高さなどの寸法の比率です。そのときに方眼のマス目は重宝します。
絵を描くとイメージが膨らんできます。そして気が付かなかったことに気付いたりします。ぜひトライしてみてください。
2.競合製品や材力とは関係のない情報も、どんどん集めてみよう
僕は自分の仕事とはまったく関係のない分野のRSSを購読しています。1日に300通くらいです。文房具のことやiPhoneのこと、そして経済のことなどなど。さらにテレビのドラマやバラエティ番組もCMも含めて見ます。こういうことは時間のムダと思われてしまいそうですが、僕はそうではないと思っています。
「出てくるアイデアの質と量は、持っているアイデアの質と量に比例する」
僕が座右の銘にしている言葉です。当たり前といえば当たり前なのですが、とても感慨深い言葉です。
一見自分の仕事とは何の関係もない情報でも、とにかくアタマに入れておくのです。それが混ざり合って1つの新しいアイデアとして生まれてきたことが少なくありません。また最新のトレンドが知らぬ間に潜在意識に染み込んで、自分なりの判断基準を形成したりします。
アナタがある製品の設計者であるならば、競合製品や関連製品を調査したり観察することはもちろん大切なことですが、まったく異なる情報にもぜひ触れてみてください。とはいっても、適当に情報に触れるのは難しいものです。RSSであればプッシュ型で情報を届けてくれるので、手っ取り早いです。「海外の新製品紹介サイト」などが楽しいです。
3.「現場100回!」――現場で見て、触れよう
僕の普段の仕事は、3次元設計や設計者CAEの導入支援です。その仕事の中でお客さまに必ずお願いすることがあります。それは「生産現場の見学」です。
これから3次元で設計していこうとしているモノがどれほどの大きさのモノなのか、どれくらいの重さがあるものなのか、を自分で体感するためです。小さなモノなのにビックリするほど重かったり、大きなモノなのに拍子抜けするほど軽かったりして、新鮮な驚きがあります。それがどんな材料でどのように作られていくのか、設計者であれば誰でも興味がわくはずです。ぜひ生産現場を見学することをお勧めします。新しい発見が必ずやあります。
材料の持つ柔らかさ、硬さ、そしてにおい……。そういうものを体感しておくことは材料力学を学問として学ぶ以上に重要なことだと思っています。新製品が出たり、工場のラインが変更になったりしたときも、折に触れ生産現場を見学しておいた方がいいと思います。
僕が駆け出しのころ、造船の生産現場に行ったことがありました。自分が構造計算で省略しようとしていた部材が自分の身長より高かったり、最上部までコワくて昇れなかったりした経験があります。いろんな意味で勉強になりました。
事件を解決するには、現場に100回行きなさい。それは、刑事ドラマの世界だけではないのです。
4.やっぱり大切な単位系。くれぐれも注意をお忘れなく
材料力学は定数を扱うことが多い学問です。その定数はそれぞれ物理的な意味を持ち、単位を持っています。この連載でも書いてきましたが、とにかく単位系の統一、つまり、単位換算に関する間違いが多いのに驚きます。かくいう僕もしょっちゅう間違えるわけですが。
まず大切なことは、「面倒でも、自分で単位換算をしてみること」、そして「その換算が正しいかどうかを知るための方法を少なくとも2つ持つこと」です。
この連載の第1回でも書きましたが、僕の場合は単位変換をしてくれるフリーソフトと単位変換Webサイトを利用しています。自分の単位換算と、フリーソフトの単位換算、そしてWebの単位換算が一致するまで、自分の単位換算を点検します。特に解析ソフトを使う場合は入念に検算します。僕のこれまでの経験の中で、おかしな解析結果になる場合、単位換算による間違いがダントツに多いのです。くどいようですが、単位換算にはくれぐれも注意してください。
材料力学では、ポアソン比のように単位を持たない定数もあります。これを「無次元量」といいます。これはハナから単位を持たないわけではなく、単位が相殺されて無次元になったのです。そういうことを意識しながら単位と向き合ってください。
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