当たらない需要予測とうまく付き合う法:こうすればうまくいく生産計画(2)(2/3 ページ)
今日の製造業が抱えている根本問題は「大量・見込み生産の体制を残したまま、多品種少量の受注生産に移行しようとしている」ことにある。生産計画を困難にするさまざまな要因を乗り越え、より良い生産計画を実現する方法を検証してみよう。
需要予測の誤差と付き合う
アパレルほど季節性が強くないとしても、月々の需要変動の大きな業種は数多い。「せめて営業の販売予測がもっと当たってくれればなあ」――そう思ったことのない生産計画担当者はまれだろう。でも営業部門の責任範囲は売り上げ達成であり、予測精度の向上は普通眼中にない。需要予測ソフトを導入しようと思い立つのは、大抵計画部門である。
需要予測ソフトの中身は、統計手法の中の時系列分析モデルを基本に、さまざまなパターンをユーザーが選べるようになっている。普通は12〜16カ月程度の自己相関・移動平均モデルを内蔵しており、季節変動に対応できるのが特徴である。また、商品ファミリーや販売チャネルごとの集計・分配計算などの機能も持っているものが多い。販促キャンペーンの効果については、数値的な扱いは難しいが、それでもインパクト分析ツールを併用できる場合がある。
とはいえ、予測はあくまで予測であり、どんなに高価なソフトを導入しても、必ず誤差が付きまとう。上手にチューニングしないと、担当者のカンによる読みの方が精度が高かったりする。まして、需要予測ソフトを持たない会社も多いだろう。予測に誤差がある場合、それに対してどう付き合うべきか?
対応策は、1つしかない。予測誤差をカバーできるだけの製品安全在庫を持つべきなのだ。
安全在庫は普通、需要の急な変動に対応するために、意図して置く在庫だと考えられている。製品の需要がある程度一定していて、平均値のまわりを変動するような場合には、安全在庫量は数式で計算できる。その際、統計学でいう「分散」の値がキーになる。分散とは平均値から外れる度合いを示した値であり、(個別実績値−平均値)の2乗の総和を、(データの件数−1)で割ったものである。分散の平方根を標準偏差と呼ぶ。
安全在庫量は、需要の平均値ではなく、需要の標準偏差の値で決まる。標準偏差が小さければ小さいほど、需要変動のばらつきも小さいので、安全在庫量も少なくすることができる――以上の考え方は、在庫管理の参考書などにも解説されている古典理論だ。しかし、これは後補充型の生産方式が前提になっており、需要の予測という観点が、まったくない。では、需要の先読みに基づく計画生産のケースでは、安全在庫量はどう設定すべきだろうか?
答えははっきりしている。需要の予測をしなかったときの安全在庫量は、需要の標準偏差から定めることができた。それなら、需要を予測したときの安全在庫量は、
予測誤差=(需要予測値−需要実績値)
の標準偏差を基にして計算すればよい(図1)。予測精度が悪ければ、ばらつきを示す標準偏差も大きくなり、たくさんの安全在庫がいる。もしも需要予測が完ぺきで、ぴったり実績値どおりだったら、安全在庫量はゼロでいい。なぜなら、安全在庫とは予期せぬ変動に対応するためのもので、完ぺきな予測の下では予期せぬことは起きないからだ。いい直すと、計画生産の下では、需要予測の精度を上げれば、安全在庫量はどんどん減らしていけるのである。
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