SONYの音楽プレーヤー「Rolly」、5つの設計課題:隣のメカ設計事情レポート(2)(3/3 ページ)
踊る音楽プレーヤー「Rolly」の筐体設計の秘密を設計者自らが語る。小さなシンプルボディーには、思いとこだわりゆえの苦労と技術が詰まっていた
3.細部にもこだわる
ホイールのゴムの材質
ゴムの寸法精度はあまりよくないものです。おまけに伸び縮みもします。しかもRollyの足は、要はタイヤであって、転がるわけです。少しでも寸法が狂えば、設計が意図しない軌跡を描いて動きます。特に360度回ったときに大きく狂ってしまいます。しかしながらゴムの寸法が多少ばらつくのは常識であって、どう改善しようもありませんから、設計計算で許容範囲をある程度持たせていました。
そのうえで、できるだけ寸法精度のよいゴムを選定するようにしました。また、パールホワイトの筐体の場合、ホイールのデザイン指定色も白ですから、黄変しにくい材料にしました。エラストマなど、複数のゴムを候補として検討しましたが、寸法精度と黄変しにくさの両方において優れていたシリコンゴムを採用しました。
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⇒ | シリコーンゴム物性表・特性表 (エスケー) |
LEDの工夫
これ、全周光っていますよね?(写真8)
最近、携帯電話でもLEDを点灯させてデコレーションをするものが増えていますが、そういう場合、たいてい、LEDをたくさん使っているのです。ちなみにRollyではこの全周を光らせる部分にはLEDを2個(片側)しか使っていません。
透明のアクリルチューブを一周させ、光を導光させています。チューブの際にメッキ部品を置き光を反射させているのです。また、それらを合わせ鏡のように配置することで目の錯覚を起こしています。中は部品が詰まっているはずですが、ホイールの際を眺めると、そこがまるで空洞のように見えます。
4.AIBOの設計ノウハウを生かす
Rollyは机の上でも動かすことがあります。つまり机の上から落下する可能性があります。落下の際の耐久性についての議論も設計初期で行っています。解析やシミュレーションを行ったり、壊れやすい部分を強化したりはもちろんですが、AIBOでも採用していたとある細工をしました。
犬の耳やしっぽは、子供がついつい引っ張りたくなる部分でありますが、AIBOも同様だろうと考えました。例えば子供がAIBOのしっぽをぐいっとつかんで持ち上げて遊んでしまうと、その途中で部品が脱落してしまう可能性があります。AIBOは重たいので、ある程度の高さから本体が落下し、万が一、それが子供の足に直撃してしまったらケガをしてしまいます。
ですから、振り回せないように、ある一定の力が掛かることで耳やしっぽが外れるような設計にしてしまったのです。
Rollyのアームの部分ですが、設計検討をしている最中、「ここ、すぐ壊れそうだよね?」とDRに同席していた人たちから指摘を受けました。弱そうな部分を補強しようとすれば、肉を盛ったり、リブを入れたり、なんだかんだで形状がごつくなり、見栄えも損なってしまうでしょう。
そこで、AIBOの耳やしっぽと同じように、ある一定の力を加えることでアームが外れる構造にしました。アームを脱落させることで、中の機構に衝撃を伝えづらくします。また着脱しやすい構造になったおかげで、着せ替えアクセサリーが誕生したのは、一石二鳥でした(写真9)。
5.アームが半開き(でも、どうしようもないじゃないか)
写真10を見てください。アームがぴったり閉じていますね? これは実際、市場に出ているモデルです。
実は、量産に入る前のモデルだと、電源が入っていない場合、ほんの少しですがここが開いた状態になりました。ギアのバックラッシ分のすき間があり、それが重力に引っ張られて開いてしまうのですね。電源が入ってさえいれば、ギアの力で閉じてくれたのですが……。
これを「どうにかして」といい出したのは、機構設計のことをよく知らない上司たちでした。「こればかりはどうしようもないでしょ」と私はいい切り、会議から帰ってきました。
だって、そのすき間をなくすには、ギアのバックラッシをなくすしかないのです。バックラッシをなくす、ということは、すなわちギアが動かなくなることですよ? あり得ません。
その後、機構設計者たちを集め、このすき間問題について議論をしたのですが、案の定、私と同じように、「こればかりはどうしようもないね」とその場の誰もがいいました。
ただ、その中のうちの1人が、ふとこんなことをいったのです。
「ねえ大口さん、スピーカーに磁石付いてるでしょ。これ使えませんかね?」
つまり、アームに金属の破片か何かを付けて、その磁力でアームを引き寄せてしまえばよい、というわけです。
しかしそう簡単にいっても、磁力が強過ぎれば、逆に、開きたいときに開けなくなってしまう。「自分(ユーザー)の力で簡単に開くけれど、重力では開けられない」という、この絶妙な力加減は、実際モノを作って検証しないと分からないのです。
材料、厚み、大きさなど、さまざまな条件の金属片を手作りして、それらを試作品のアームに張り付けてみて、さてどれくらいの力で開くだろうか、という地味な実験を行うしかないのですが、1時間ほどで結果は出ました。このとき、金型はすでにできていましたが、型修正ならまだ間に合うというタイミングだったので、すぐに型修正依頼と部品追加をしました。
さて、その成果が、写真11です。
アームの内側に溝を切り、そこに金属片を張っています。デザイナーも「ここにワンポイント入るの、いいね」といってくれました。デザインにうまいことなじんでいます(写真11)。
現在、私たちはマーケットの反応見ながらRollyをどう進化させていくか検討中です。日本だけでなく、2008年の5月にはアメリカ、カナダでも発売しています。10月には欧州でデビューします。私たちのアフターファイブの楽しみから生まれた小さな卵は、海外へと飛び出していきました。
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