競合商品を設計分析で駆逐しようぜぃ!:甚さんの設計分析大特訓(6)(3/3 ページ)
日本企業の技術者は競合機分析をやらないって本当? 以前登場した灯油ポンプを例にして、競合機分析の基本を甚さんが伝授する
スルリとかわすトレードオフ戦略
ここで、「設計思想とその優先順位」の順位を変えてしまいます。または、新規に設定します(図8)。繰り返しになりますが、前者をトレードオフといいます。企画者(プランナー)ならば、「コンセプトの変更」といいます。
「なんだ! これは以前出てきた良君の造形作品と同じではないか」と、思う人がいるかもしれません。しかし、“何も考えずに「なんでもあり!」で造形した”良君の作品は、“競合機分析を実施し競合の「設計思想とその優先順位」を分析したうえでトレードオフを掛けた”設計品とはまったく異なるものです。
また、第5回の「プラレール電車を設計分析しようじねぇかい!」では、「思い付き選択法」と設計工学による「技術形式の選択」とは天地の差があることを説明しました。後者であるからこそ、設計バランスが取れるのです。
そして、設計審査が可能になるわけです 。
同思想戦略もトレードオフ戦略も、開発の開始前に決定すべきことですが、製造や検査や営業などの全員のコンセンサス(合意)を得ることが必要です。
今回は、どれくらい理解できましたか?
設計は単純にモノを造形することではなく、守りや攻めがあることを理解できましたか? 3次元モデラーに守りや攻めにより生まれた造形作品がありましたか? もし、あったとして、その根拠を提示できますか? 審査に耐えられますか? また、「なんでもあり!」の商品では戦えないことも、うっすらとでも理解できたでしょうか。
そして設計書がなければできない設計プロセスとは、トレードオフを施した際に設計フローを逆戻りすることです。つまり、「6W2H」や「使用目的の明確化」、商品企画まで戻り、「トレードオフが道を外すことなく成立すること」の確認が必要です。成立しないときは、商品企画からやり直しです。ここで手を抜くと、売れない商品や欠陥商品が生まれるわけです。
さて、今回もきついメッセージを残します!
「設計者が絵を描く時間は3割」だといいます。では残りの7割は一体何をしているのか、 本連載を読んできた方であればきっと理解できるでしょう。
さて3次元CADの前にずーっと座っている3次元モデラーがいますが、彼らに共通していえるのは、CAD端末の両脇に設計書もなければ、計算書などの資料もありません。あるのはマウスとキーボードだけなのです……。(次回に続く)
Profile
國井 良昌(くにい よしまさ)
技術士(機械部門:機械設計/設計工学)。日本技術士会 機械部会 幹事、埼玉県技術士会 幹事。日本設計工学会 会員。横浜国立大学 大学院工学研究院 非常勤講師。首都大学東京 大学院理工学研究科 非常勤講師。
1978年、横浜国立大学 工学部 機械工学科卒業。日立および、富士ゼロックスの高速レーザプリンタの設計に従事。富士ゼロックスでは、設計プロセス改革や設計審査長も務めた。1999年より、國井技術士設計事務所として、設計コンサルタント、セミナー講師、大学非常勤講師としても活躍中。Webでは「システム工学設計法講座」を公開。著書に「ついてきなぁ!加工知識と設計見積り力で『即戦力』」(日刊工業新聞社)と「ついてきなぁ! 『設計書ワザ』で勝負する技術者となれ!」(日刊工業新聞社)がある。
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