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判決は2010年? EV車搭載電池、勝者の条件とは電子機器 イベントレポート(1)(2/2 ページ)

2008年8月27日、神奈川県産業技術センターにて「電気自動車(以下、EV:Electric Vehicle)用リチウムイオン電池研究会フォーラム」が開催され、神奈川県に開発拠点を置く日産自動車らと共同でリチウムイオン電池の研究を行う現場開発者や研究者による講演が行われた。本稿では当日の講演内容を基に、次世代自動車に搭載される電池開発の現状をお伝えしたい。

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 AESC製リチウムイオン電池はEV車用とHEV(ハイブリッド)車用の2種類あり、EV車用はエネルギー密度の高いL3-10型、HEV車用はパワー密度の高いL3-3型である。満充電状態にて釘刺し試験、過充電試験、外部ショート試験を行ったところ、いずれも良好で問題ないという。

 セル構造は、ラミネート型のリチウムイオンセル構造を採用している。金属ケースを使わずに軽量化して全体を薄くしたことで、EV車用に容量を大きくしても表面積を広く保つことができ、放熱性が良いという。円筒型とラミネート型で同じ正極材料マンガンを使用して15分の充放電を繰り返した際の温度上昇を比較したところ、円筒型(0.8Ah)は26度の上昇、ラミネート型(3.8Ah)は11度の上昇と差が見られた。

表4 AESC製リチウムイオン電池の仕様(内海氏の発表資料を基に作成)
タイプ L3-10型 L3-3型
寸法(L×W×H、mm) 251×144.2×9.2 251×144.2×3.4
重量(g) 527 210
体積(mL) 277 94
容量(1C-rate、Ah) 13 3.7
平均電圧(V) 3.6 3.6
重量エネルギー密度(Wh/kg) 89 63
体積エネルギー密度(Wh/L) 171 142
出力密度(2.5V、W/kg) 2060 2250
出力密度(1.8V、W/kg) 220 670
特徴 高エネルギー 高出力
用途 EV HEV
EV用L3-10型は東京電力が電気自動車のプロジェクトとして2006年に10台、2007年に30台導入し、将来的には3000台の置き換えを計画している。

 導入事例としては、スバル(富士重工業)のEV車(R1e)にAESC製リチウムイオン電池を搭載したところ、5分の急速充電で50%(40km分)、15分で80%(60km分)、標準充電(100V)は8時間充電で100%を実証したという。


スバル R1e(富士重工業より提供)

 また、先日の北海道洞爺湖サミットに合わせて東京、洞爺湖間858.7kmを走行した際には、EV車(R1e)の電気代はトータルで1713円と、同じ距離を走行した場合の軽自動車に比べて約8分の1の燃料費、炭酸ガス排出量も約5分の1に減少したという。

 「次世代自動車は環境問題解決のため早急に導入する必要があります。マンガン系のラミネート型リチウムイオン電池というのは十分それに耐えられる技術を持っています。あとは市場が確定し、できるだけ全体のボリュームを大きくして、コストを低減すること、そのために新たな材料、エネルギー開発が必要です」(内海氏)

 AESCではすでに次の電池として30Ahの大容量電池の開発を進めており、将来的にはEV以外にも多方面で応用したいとしている。

 「リチウムイオン電池に採用する材料はどれが主流になるかを競っている最中です。さまざまな材料があるが故に、パラメーターがあり過ぎてどれが本命か見えていないというのが正直なところだと思います。例えば米国ではオリビン酸鉄リチウムを材料に使用しています。実際に量産してどうなるかは不透明なところです。最終的にはコストパフォーマンスや、ある一定の市場要求の性能にどう応えるか、安全性がポイントになると思いますが、早く市場に出して、信頼を勝ち取ったところが、メインになるのではないでしょうか」(内海氏)

高出力、高容量を実現する正極活物質

 リチウムイオン電池の誕生はいまから約20年前にさかのぼる。当時、カナダのモリエナジーが発売したリチウム金属製の2次電池をNTTが導入した際、携帯電話に組み込まれた電池が発火するという事故が発生した。金属リチウムを使用した電池は放電すると溶液中にリチウムイオンが溶け込んでしまうため、充電してリチウム金属固有の結晶に戻る際に樹脂状のリチウムになる。それが電極からはがれ、セパレータを貫通してショートしたために発火してしまったという。現在のリチウムイオン電池は、こうした背景の下、研究者らの苦労により改良され、携帯電話などの小型機器で使用されている。

 神奈川大学工学部長 佐藤祐一氏は20年前の発火要因を解明したリチウムイオン電池を大型化し、ハイブリッドカーへ搭載するため、電気エネルギーを発生させる要となる正極活物質の研究を進めている。


写真 リチウムイオン電池の発火原因について語る佐藤氏

 現在携帯電話などに使用されているリチウムイオン電池の正極反応物質コバルト酸リチウムの理論容量は、約180mAh/gである。しかし実際には、180mAh/gの容量を出すと結晶構造が破壊され元の場所にリチウムイオンが戻れないため、150mAh/gほどの容量しか使用されていないという。

 佐藤氏の研究グループではコバルト酸リチウムの高容量化を実現するため、新規正極材料としてLi2MnO3-LiMO2という固容体を合成。344mAh/gという非常に大きな理論容量を持つがサイクル特性が悪いLi2MnO3と、理論容量280mAh/g(実際にはその半分ほどの容量しか取り出せない)のLiMO2を組み合わせた。

 すると、第1サイクル(1回目の充電)では4.8Vの放充電で容量290mAh/gを得られたが、サイクルを増すにつれて徐々に容量が低下してしまった。そこで、いきなり0Vから4.8Vまでの充放電を行うのではなく、まず予備充放電処置として4.5Vまでの充電放電を2サイクル、リミットを4.6Vとして2サイクル、4.7Vで2サイクル行い、最後に4.8Vとすると、ほぼ容量低下のない検証結果が示されたという。

 「具体的な確証についてはまだないですが、一度に4.8Vまで持っていくと不可逆容量が出るところを、4.5V、4.6Vと予備充放電を繰り返すことで、構造に都合の良い可逆層が出て、サイクル特性が安定化するのでないでしょうか」(佐藤氏)


 EV車用リチウムイオン電池研究会フォーラムは今回で第4回目の開催となり、当日はEV車の同乗試乗会も行われた。

 神奈川県では環境問題対策の1つとして電気自動車担当課を設置し、2014年までにEV車の県内3000台普及を目指しているという。産業技術センターでは、県内の大企業や中小企業、大学の技術提携を支援するなど、EV用リチウムイオン電池の強化セルを用いた充放電の性能評価、ナノ粒子の評価技術でのサポートを推進している。

 車載用の電池としてリチウムイオン電池が確立されれば、おそらく当面はリチウムイオン電池の時代が続くことになるだろう。そして内海氏が述べたように、どの材料を用いたリチウムイオン電池が主流になるか、その判決は実際に車体が発売された後に下りそうだ。

 最も多く売れた車体、つまり多くの利用者に受け入れられたものが安全かと問われると、それは分からない。しかし、自動車メーカーはじめ、電池、モーターなど、自動車開発にかかわるすべての研究者、開発者らの努力により、電気を動力とした車がガゾリン車に代わる時代がすぐそこまで来ているのは確かである。

 EV車元年になるともいわれる2010年。非常に楽しみであり待ち遠しくもある。MONOistでは、その実現に向けて核技術となる電池の開発動向を今後もお伝えしたい。

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