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最新センサーデバイスが変える予防安全システム(3/6 ページ)

地球温暖化による気候変動や、原油の高騰に起因するガソリンの値上がりなどにより、現時点における自動車の新技術開発の方向性は、CO2削減や燃費向上につながる“エコカー”に注目が集まっている。しかし、1トン以上の重量で高速走行する自動車にとって、事故回避や事故の被害を低減するための安全システムも、エコカーと同じく重要な技術開発項目である。そして、安全システムのキーデバイスといえるのが、人間の見る、感じるための感覚器官に相当するセンサーである。

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■ダイナミックレンジが2倍

 イメージセンサーが、撮影対象の最も暗い部分と明るい部分を同時に正確に撮像できる範囲の広さを示す性能指標をダイナミックレンジと呼ぶ。一般的なイメージセンサーのダイナミックレンジは約60dBだが、人間の網膜は約80dBと言われている。つまり、現行のイメージセンサーを使った安全システムでは、人間の目を上回る明暗差の認識ができないことになる。このことは、車載カメラだけでなく監視カメラなどのセキュリティ用途でも課題とされており、人間の目を超えるダイナミックレンジを実現するイメージーセンサーの開発に注目が集まっている。


写真4 HDRカメラ(右)と一般的なCMOSセンサーの画像比較(提供:セイコーエプソン)
写真4 HDRカメラ(右)と一般的なCMOSセンサーの画像比較(提供:セイコーエプソン) CMOSセンサーのダイナミックレンジは50dB。CMOSセンサーでは、トンネルの先が外光により白くつぶれているが、HDRカメラはトンネル内外とも問題なく撮像できている。
図3 HDRカメラとCCD/CMOSセンサーによる高ダイナミックレンジ画像撮影方式の比較(提供:セイコーエプソン)
図3 HDRカメラとCCD/CMOSセンサーによる高ダイナミックレンジ画像撮影方式の比較(提供:セイコーエプソン) 

 セイコーエプソンは、CMOSセンサーをベースにした独自の変調型非破壊露光方式によりダイナミックレンジ120dBで30フレーム/秒の撮像が可能な「HDRカメラ」を開発した(写真4)。基本となる要素技術開発は完了しており、2008年10月からはカメラモジュールメーカーとの提携に向けた評価を開始し、2009年3月までの製品化を目指す。

 一般的なイメージセンサーを使って高ダイナミックレンジの画像を撮影するには、明部に対応する短露光画像、通常の明るさに対応する中露光画像、暗部に対応する長露光画像の3段階など多段で露光し、これを合成して高ダイナミックレンジの画像として出力している(図3)。しかし、各段階での撮像を終えるごとにリセットして再度撮像するため、最終的な高ダイナミックレンジ画像の出力タイミングを自由に設定できない。また、各段階で画像が変化するために動画ぶれが起きやすく、合成画像の生成に1フレーム以上の遅延が発生するという問題もある。


セイコーエプソンの多津田哲男氏
セイコーエプソンの多津田哲男氏 

 これに対してHDRカメラは、短露光、中露光、超露光画像を同時並行で取得する非破壊露光方式なので、出力タイミングを自由に設定できるとともに、動画ぶれも抑制できる。また、センサー画素の行単位での画像合成により遅延が発生しない。同社半導体事業部IC設計部IC設計グループ主査の多津田哲男氏は「当社はイメージセンサー事業には未参入だが、この非破壊露光方式をベースに独自性を持って展開したい。ターゲット市場は、車載カメラと監視カメラになる」と語る。

 現在はVGAサイズとWVGA(画素数800×480)のセンサーチップの開発を完了している。今後は製品化に向けて、画像処理を行うHDR映像エンジンや数メガバイト程度のDDRメモリーを含めたチップセット開発を行い、カメラモジュールメーカーに供給できるようにする。2008年10月からは、チップセット機能をPC上で仮想的に動作させての評価活動を開始し、その後FPGAチップを使ったサンプル評価キットも投入する。また、価格については「新規開発品だが、市場投入時にはハイエンド車載カメラと同程度に抑えたい」(多津田氏)とする。なお、現在の車載カメラモジュールの価格は1個3000円〜5000円と言われている。

■太陽電池技術をイメージセンサーに展開

 ロームは、産業技術総合研究所(AIST)と共同して、次世代太陽電池材料「CIGS」を利用した高感度・広帯域の新型イメージセンサーを開発した。0.001ルクスの明るさでも撮影可能な感度を持つとともに、波長400nm〜800nmという可視光以外に、800nm以上の近赤外域の光のセンシングにも対応する。CIF(画素数352×288)サイズとなる10万画素のセンサーチップの試作を完了しており、2009年末までに、VGAサイズとなる31万画素のセンサーチップのサンプル出荷を開始する計画だ。

 CIGSとは、銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)から成る化合物半導体。非シリコン系の太陽電池材料として注目されており、太陽電池では、すでに本田技研工業や昭和シェルが量産している。シリコン系太陽電池に匹敵する光エネルギー変換効率以外にも、高い吸収係数により材料の薄膜化が可能であることや、組成を制御することで吸収波長域を制御できるという特徴がある。

ロームの高須秀視氏
ロームの高須秀視氏 

 同社LSI統括本部長で取締役を務める高須秀視氏は「2003年ごろ、太陽電池研究の権威である元立命館大学副学長の浜川佳弘先生とお会いした時に、CIGSの量子効率がシリコンの倍近い95%にもなると聞き『イメージセンサーとして使えるのでは?』とお聞きしたところ、リーク電流が大きすぎるので難しいだろうという答えだった。ならばリーク電流を小さくして見よう、と思ったのが開発の端緒になる」と語る。そこで、AISTの太陽光発電研究センターの協力を仰ぎ、2004年〜2005年にかけてイメージセンサーとしての応用可能性を追求した。「当初は、太陽電池と同じ条件で成膜して見たが、やはりリーク電流は非常に大きかった。太陽電池はソーダライムガラス上に直接成膜するが、イメージセンサーではシリコンチップ上に成膜することなどを含めて、アプリケーションの違いに合わせて成膜条件を最適化することでリーク電流を5桁〜6桁下げることができた」(高須氏)という。

図4 CIGSセンサーとCMOSセンサーにおける開口率の比較(提供:ローム)
図4 CIGSセンサーとCMOSセンサーにおける開口率の比較(提供:ローム) CIGSセンサーの感度は、開口率に加えて量子効率も高いことからCMOSセンサーの約6倍。また、チップ底部のPDに光を届かせるためのマイクロレンズチップも不要になる。
図5 暗所での撮影画像の比較(提供:ローム)
図5 暗所での撮影画像の比較(提供:ローム) 電荷増幅技術により、さらに感度を約100倍に向上することに成功した。0.001ルクスは星明り、0.1〜0.01ルクスが月明かり、10ルクスでろうそく程度の明るさ。

 またCIGSは通常のシリコンベースのイメージセンサーよりも開口率を高くできることも大きな特徴となっている(図4)。シリコンの場合、トランジスタなどと同層に光を受けるフォトディテクタ(PD)部を作り込むことになるため、開口率は30%程度にしかならない。しかし、CIGSでは、チップ表面全体に積層してPDとして利用できるので、開口率を90%にまで上げられる。量子効率が2倍で、開口率が3倍であることから、センサーチップ単体では6倍の感度を有することになる。2006年12月には、試作したCIFサイズのセンサーチップにより画像の撮影に成功した。

 しかし高須氏は「この時点の開発成果は近赤外線の撮像に対応したことがメイン。感度についてはCCD/CMOSセンサーと比べて6倍程度で、それでは画像処理する場合と同程度に過ぎず、まだまだインパクトが小さいと感じた」と話す。そこで、同社が他部署で開発を進めていた光電変換素子の技術を応用して、光子を変換した電荷をデバイス内部で増幅する技術を導入。それまでは、撮像可能な明るさの下限を示す最低感応照度は0.01ルクス程度だったが、0.001ルクスでの撮像を実現した(図5)。なお、CMOSセンサーは1ルクス、CCDセンサーで0.1ルクスと言われている。「2010年中には、XGAサイズの79万画素のセンサーと電荷増幅技術を導入した超高感度31万画素センサーをサンプル出荷できるようにしたい。耐熱性についても、85℃で暗電流が1桁上がる程度なので十分に車載カメラに利用できるだろう」(高須氏)という。

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