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最新センサーデバイスが変える予防安全システム(2/6 ページ)

地球温暖化による気候変動や、原油の高騰に起因するガソリンの値上がりなどにより、現時点における自動車の新技術開発の方向性は、CO2削減や燃費向上につながる“エコカー”に注目が集まっている。しかし、1トン以上の重量で高速走行する自動車にとって、事故回避や事故の被害を低減するための安全システムも、エコカーと同じく重要な技術開発項目である。そして、安全システムのキーデバイスといえるのが、人間の見る、感じるための感覚器官に相当するセンサーである。

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■システム価格は半分以下

 EyeSightがADAと比べて格段に進化しているのは、カメラや関連するECUなどシステム全体を一つのモジュールに一体化するとともに、システム価格を大幅に削減したことである。

 ADAでは、ルームミラー上に設置するステレオカメラ、助手席の下に設置した画像処理ユニット、車両制御コントローラ、専用ナビゲーションなど、4〜5個のモジュールで分散処理していた。しかし、EyeSightでは、ステレオカメラユニット内に、画像処理専用のASIC、画像認識用の32ビットマイコン、制御用の32ビットマイコンが統合されている。「システムに必要なプロセッサの数を約半分の3個にまで減らせた上に処理速度も大幅に向上した。自動車より小さい人間や二輪車を認識できるようになったのは、半導体技術の進化とソフトウエア性能の向上のおかげ」と柴田氏。「当初のADAは、専用ナビゲーションも必要だったため正確な価格は出せないが、オプション価格が20万円のEyeSightは半分以下にコストを削減できている」

 同社は、1999年のADAから2008年のEyeSightまでの間に、ステレオカメラ以外のセンサーを使った予防安全システムも開発している。2003年の「レガシィ・ツーリングワゴン」の排気量3Lモデルに、ステレオカメラとミリ波レーダーを複合させたセンサーフュージョン技術で、ブレーキ制御を行えるクルーズコントロール機能を実現した。トヨタ自動車の「レクサスLS」のプリクラッシュシステムも、ステレオカメラとミリ波レーダーを併用している。「ミリ波レーダーは、距離情報や速度などの検知に強く、ステレオカメラは広い検知角度や自車位置情報などについて優れている。当時のステレオカメラによる画像認識では、距離や速度に関する認識安定性に問題があったため、研究所でもその数年前から研究対象になっていたミリ波レーダーを利用することにした」(柴田氏)という。

 2006年には、レーザーレーダーによりほぼ停止するまでの全車速追従クルーズコントロールを実現した「SIレーダークルーズコントロール」を開発した。柴田氏は「カメラとミリ波レーダーのセンサーフュージョンでは高価な点が問題だったが、SIクルーズではクルーズコントロール機能の普及を目指して15万円という低価格に設定した」と話す。

■超広角130万画素CMOSカメラ

 車載カメラの歴史は、駐車時などの後方確認用のバックモニター用途から始まっており、現在の需要もバックモニターがそのほとんどを占める。1990年代初頭に、トヨタがCCDイメージセンサーを使ったバックモニターを実現しているが、最近では標準搭載する車種も増えてきている。

 カメラ、カムコーダー、携帯電話機などの民生電子機器へのイメージセンサー採用も、同じく1990年代から始まっているが、現在はその要求性能がかなり異なっている。デジタルカメラを筆頭に民生電子機器用イメージセンサーの画素数は、数百万〜1000万以上に達しており、CMOS方式が市場の過半数を占めるようになった。一方、車載カメラ用は、画素数が20万〜30万程度、CCD方式のイメージセンサーを使用することが多い。画素数が低いのは、バックモニターの表示画面となるカーナビディスプレイの解像度はほぼVGA(画素数640×480)であり、VGAにフル表示する場合でも33万画素のイメージセンサーで事足りるからであり、CCD方式なのはCMOS方式よりも原理的に感度が優れているからである。

写真3 日産自動車のアラウンドビューモニターの画面(提供:日産自動車)
写真3 日産自動車のアラウンドビューモニターの画面(提供:日産自動車) 日産、ソニーとともに、トップビューのための画像変換技術でザナヴィ・インフォマティクスも開発に参加した。
図2 ソニーの車載カメラ3000シリーズの機能
図2 ソニーの車載カメラ3000シリーズの機能 水平186.2度、垂直143.8度という超広角レンズと専用ASICを利用した画像変換機能が最大の特徴。オリジナル画像から各画像へ変換する際には、モーフィング機能により切れ目のない連続的な画像切り替えが可能だ。

 しかし、自動車メーカーが現在よりも進化した安全システムを開発するには、イメージセンサーそのものにも進化が求められるようになる。その実例といえるのが、日産自動車が2007年10月に発売したミニバン「エルグランデ」に採用した駐車支援システム「アラウンドビューモニター」である(写真3)。車両前方、左右サイドミラー、バックドア上部に設置した広角・高解像度カメラの映像により、自車を仮想的に上から見た「トップビュー」による駐車支援機能を世界で初めて実現した。

 このアラウンドビューモニターの開発でカメラ部分を担当したのが、イメージセンサーと業務用カメラ大手のソニーである。同社は2006年秋に、世界で初めて130万画素のCMOSイメージセンサーを採用した車載カメラモジュール「3000シリーズ」を発表しており、アラウンドビューモニターにも同モジュールが利用されている。

 3000シリーズは、イメージセンサー以外にも、水平186度の超広角レンズや、歪み補正や画像切り出し、モーフィング機能などの変換処理を行う専用ASICの採用などさまざまな特徴をがある(図2)。同社B2Bソリューション事業本部ビジネス&プロフェッショナルシステム事業部車載カメラ部車載ビジネス担当部長の森浩史氏は「アラウンドビューモニターのように、広角で撮像した画像を変換処理する場合、元の画像の解像度が高くないと非常に不鮮明になってしまうため、130万画素のイメージセンサーを採用することになった。また、130万画素という高解像度の画像を30フレーム/秒の動画として遅延なく出力するにはCMOS方式の必要があった」と語る。

ソニーの森浩史氏
ソニーの森浩史氏 

 同社の車載カメラ製品は、1990年代後半に開発を開始し、2001年には25万画素CCDカメラ「0シリーズ」を出荷している。「バックモニターで使うには、単に撮影した画像を出力するでのはなく左右の反転変換処理が必要。画像処理用のASICにこの機能を組み込むことで製品化できた」(森氏)という。その後2003年に、同じ25万画素ながらアスペクト比16:9のセンサーを専用開発した「1000シリーズ」、2006年春にモジュールの小型化とアスペクト比4:3と16:9両方に対応する「2000シリーズ」を市場投入してきた。車載カメラモジュールの市場シェアは、松下電器産業についで第2位となっている。森氏は「車載カメラ市場は年率40%成長しており、3000シリーズのような他社にない技術で差異化して行きたい」と意気込む。

 また、現在販売中の製品はアナログNTSCによるビデオ出力だけに対応しているが、今後はデジタルインターフェースへの要求にも対応して行く。「NTSC出力では、ただカーナビディスプレイに表示することしかできない。顧客からはカメラ画像をECU内で独自に処理したいという要望があり、デジタルインターフェースであればそれが可能になる」と森氏。「LDVSやGVIFなどのギガビットを超えるバンド幅であれば、130万画素、30フレーム/秒の動画も無圧縮で送信できる」

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