板金部品化検討で工数削減&コストダウン:事例で知るVA・VEのコストダウン手法ABC(4)(1/2 ページ)
板金部品は加工がしやすいし、コストが安い。精度や剛性が要求されない部品をどんどん見極めて板金化してしまおう
筆者は、「VA・VEを最も効果的に行うには、設計物のどこを攻略すればよいのか?」という質問をお客さまなどからいただくことが多々ありますが、以下のような説明をするとだいたい納得してくださいます。
まず産業機械を人間の体に例えてみます。人間の体の機能を向上するにはどうしたらよいかを考えてみるのです。
心臓や脳は、身体機能に最も大きく影響を及ぼす大事な部分ですが、そこに手を触れて直に治療したり鍛えたりすることは、高度な技術を必要とし、命の危険を伴います。しかしそのようなことをしなくとも、腕、手、指、足といった体を支えている部分を鍛え上げれば、その人間全体の機能を向上させることができるのです。
産業機械もそれと同じ考え方で設計すれば、その結果、おのずと理屈に合ったことができると筆者は思っています。つまり、心臓や脳に該当する機器のユニットを改造するということは、本体の機能を左右することになり、開発と同等の時間を要します。そのような部分以外で、要求仕様に基づいた最適設計を行えば、重要な仕様への影響も少ないということで大胆に設計変更できる、すなわちこれが“VA・VEの追求”ということになります。
【設計課題7】ユニットの部品を板金化しつつ、その機能は落とさないようにする
例えば頑丈であることは機能に対して安心を生みますが、反面「重たい」「加工に時間がかかる」といった問題が出てきます。仕様上必要でない部分をなるべく省き、必要な機能はきちんと満足できる加工方法を選択することで品質、納期、価格を改善できるでしょう。
少量多品種機器での開発設計の過程では、その後期において、改善提案による部品追加や、顧客の要求で急きょ設計変更されたゆえの不具合などで、当初予定していた価格からオーバーしてしまうといった問題が起こります。
設計課題7では、このような設計後期における設計変更でもコストダウンできる事例を解説します。
回転する部分や摺動(しゅうどう)する部分は、基本的に高い品質を求められることが多いです。しかし、同じ働きをする部品の中にも、機器にとって大事な部分とそれに準じていればいいという部分とがあるものです。そこを区分けすれば、コストダウンへの道が開けます。
例えば、図面上の公差が「0.01mm」「0.005mm」と指定されている場合です。本当に重要であるならともかく、決してそうではない部分にまでそのような公差が指定されている場合で、「0.05mm」「0.1mm」でも実は十分なことも多くあります。
そのような部分においては板金化することで工数削減、コストダウンにつながる設計ができるでしょう。
図1のスライドユニットは、フラットプレートにブロックを溶接し、そこへさらにフラットプレートを溶接して作っています。真ん中の赤色のプレートは上下にスライドさせることを想定します。ここではスライドの精度はそれほど厳しく求められていない、そして剛性はそれほど求められていないとしましょう。
摺動面のVA
まずスライドの摺動面をVAしてみましょう。
図2は左の絵が従来品です。真ん中の溝部分は底全体(黄色)で深さ方向の加工精度を出しています。
次に、右にあるVA後の絵を見てください。溝側面と同様に、底面の両端も青色になっています。ここでは、青色部分のみ精度高く加工し、黄色部分は粗加工にします。こうすることで切削加工時間が短くなります。地味なVAですが、組み込みも楽になります。
ブロック形状から板金形状へのVA
マシニングの削り出し加工によって形状を作るよりも、板金の抜きや曲げ加工によって形を作った方が加工工数が少なくて済みます。図3で示すように、左画像のブロック形状の矢印部分(3カ所)を板金形状にするとき、右画像のように1つの部品上で折り曲げを行い、黄緑色の部品をネジ止め、リベット、溶接のいずれかで接合させることで強度を保持させることができます。板金にするときの問題点は強度ですから、その補強形状をどのようにしていくかでコストダウンの幅も決まってきます。このVAによって、それ以前と比べて3分の1くらいのコストで製作できます。
板金部品化におけるもうひとつの問題は、精度面で要求仕様が満たせるか否かです。
このユニットは、赤いプレートを上下にスライドさせることができる形状(図4)となっています。つまり、このスライド部の精度が、仕様上でどれくらい要求されるのかが問題です。
ブロック製なら精度を高めることができます。しかし、板金製だと精度の面では不利です。この点をよく考慮しつつ、VAのバリエーションを考えていくことで、コストダウンの内容も決まります。
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