加圧式ボールペンを設計分析しようじゃねぇかい!:甚さんの設計分析大特訓(4)(2/3 ページ)
仰向けで寝ていても風呂に入っていても、スラスラ書けるボールペンの設計分析をしよう。シンプルに見えるペンにも素晴らしい仕掛けがひそむ。
加圧式ボールペンの設計
高付加価値商品といえば“なんでもあり! のオールインワン商品”だと、とらえている人はいませんか? 中国や東南アジアの低賃金攻勢に、日本企業は多くの影響を受けました。そこで「日本企業の向かうところは高付加価値商品の開発である」などと、経済紙やビジネス誌が唱えていますが、ここでいう高付加価値商品と、“なんでもあり! のオールインワン商品”とはまったく異なります。今回は、その一例を設計分析してみましょう。
筆者は、風呂場でぬるま湯につかりながら設計アイデアを書く場合がよくあります。また寝床にいて、仰向け状態でメモを取る場合もよくあります。湯船に落としてもスラスラ書ける、寝床で仰向けになっていても十分に筆記ができる、という優れたボールペンを愛用しています。それは「三菱鉛筆 uni POWER TANK(以下、「POWER TANK」)」です(写真1、2)。
POWER TANKは、3000hPaの圧縮空気でインクを押し出すことによって優れた筆記性能を実現した加圧式事務用ボールペンです。100円前後の低価格が主体であるボールペン市場に向けて企画された商品です。ノックタイプとキャップタイプの2種類があります。
それでは、オメェに課題を出してやらぁ。この3気圧ボールペン POWER TANKの設計思想を分析しろ!
甚さん、いまは『気圧』っていわないんです。『hPa(ヘクトパスカル)』っていうんですよ。もしかして『N(ニュートン)』も知らない?
そんじゃ何かい! オメェはよぉ、『日本酒1升くれ!』っていわねぇで、『日本酒1.8リットルくれ』っていうんかい? オメェみてぇなやつは、ガソリンでも飲んでいやがれ! ムキーッ!
そして、今回もまた(名物の)甚さんの鉄拳制裁が下……るところでしたが、良君はヒラリとかわしました。
ハイハイ。僕もそうしたいところですが、いまはガソリン、高いじゃないですか。
オメェ、よくかわしたな。それに、 またやけに素直じゃねぇかい。まさか、何としてでもウチに来たいんだろう? 考えが甘いよ。さっさと、課題をやれ。
ガッテン承知! これで3つ目のお題か。設計思想って面白いですよね〜。
さて、ここからが重要です。以下では良君がPOWER TANKの設計優先順位を次々と説明していきます。通常のボールぺンの構造と比較しながら考えます。三菱鉛筆の実際の企画も以下と同じような表現でしょう。
設計優先 第1位:筆記性能(図1)
- 3000hPaの圧縮空気を封入
- 上向き筆記が可能
- 無重力、濡れた紙、−20℃でも筆記可能(冷凍倉庫など)
- 早書きしても、線が切れない。かすれない
すげぇよ! 確かに、内部に3000hPaを封入しておけば、仰向けで寝たままの筆記が可能だし、インクのボタ落ちも少ないってわけか。しかも、完全防水だ。
設計優先 第2位:リフィルにおけるインク残量の視認性(写真3)
- インクが漏れない(構造の安定性を確保)
- 透明樹脂のリフィル
視認性を考慮する:POWER TANKに限らず、さまざまなペンのリフィルに見られる工夫 だ
良蛍光ペンやボールペンの残量視認性*1は不可欠だよね! その点、万年筆や中の見えないホワイトボード用のペンは確かに困るよね!
*1 設計品質で、「視認性」という単語が良く出てきます。ここで、しっかりと覚えておきましょう
設計優先 第3位:グリップ感(写真4)
- 指紋と同じ0.16mm幅の微細スリットを格子状に刻み込む
- その結果、滑りにくく、抜群のフィット感がある
すげーっ! これにもぶったまげたぞ。グリップ溝が指紋の形状を考慮していたとは、なるほど。3次元モデラーと設計者の違いが分かってきた気がします!
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