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良い営業、普通の営業、悪い営業、嫌な営業誰も知らない生産管理の苦悩を徹底討論(2)(3/3 ページ)

日本が世界に誇るモノづくり文化の中で、おそらく最も地味な役回りを演じているのが生産管理部門だ。彼らはどんな苦労を抱えて日々の仕事をこなしているのか。普段聞くことのできない彼らの本音を語ってもらった。

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営業とのコミュニケーションが生産管理を救う?

村上 生産管理の担当者は、需要予測は当たらない一方で、常に営業から無茶な要求を押し付けられ、損な役回りですか。

C氏 確かに生産管理って、そういう側面はありますよね。

B氏 私も最初はそう思っていたんですけどね。よく考えてみると、工場の生産管理部門って、ちゃんと営業と話をすることは少なかったように思います。工場はこういう計画でいるし、このアイテムを売りたいし、この計画だったら造れるよ、だからこの製品を頑張って受注してきてよ、そういう話を営業にする機会は非常に少なかった。いつも受け身だったんですね。だから、「何でこんな注文取ってきたんだよ」ってブツブツ文句をいいながらも、その文句をきちんと営業にぶつけることもしなかった。

A氏 普段しらを切って納期遅れを出しておいて、何か営業からいわれたら「そんなこといったって営業だって……」といい返すような、そんなコミュニケーションしか取っていないですね。大体先に文句をいってくるのは営業ですから、何かいわれたらいい返すという習慣が無意識のうちに身に付いている。

B氏 私の中では「良い営業、普通の営業、悪い営業、嫌な営業」といるんですけど、良い営業ってのは、お客さんの在庫を知っていたり、今度このお客さんはこんな商品を造るはずだからこういう製品を先に作っておこうと先手を打ったり、「受注の確率は50%だけど、頼むよ」みたいに具体的にいってきますね。普通の営業はまあそこそこ気が利いている。悪い営業は、いつも切羽詰まらないと連絡してこない。「ゴメン、明日までに頼む」とかね。そんなの無理に決まってる! 嫌な営業ってのはね、工場出身者で工場のことをよく知っているんだ。現場に直接電話を掛けてきて「あれ、できるよね」なんて聞いておいて、生産管理に対して「現場はできるっていってるよ」なんていってくる。

村上 営業は、生産管理の事情なんて意に介していない?

C氏:生産管理に関して何も知らないし、知ろうともしない人も一定数います。

B氏 さっきの良い営業ってのは、処世術として、必要に迫られて生産管理の事情を覚えるんですよね。この人に頼んだらどうなるとか、事前に何をしておけば無理な注文でも造ってもらえるとか、ほかの注文はいいから自分の分だけ造っておいてとか、そういうノウハウを覚える人が良い営業になりますね。そういう営業は、あまり無茶なことはいってこないですよ。

C氏 私の会社では、営業にあまり工場へ行かせないですね。あまりにも工場の事情が分かって、いっぱいいっぱいで生産しているのを見たらそれ以上売れなくなってしまう、という考えですね。だから、工場の苦労は知らずに、バンバン売ってくるのが良い営業ということです。われわれ生産管理としても、まぁ売れて数字が上がるんだから仕方ないか、という感じです。

村上 良い営業っていうのは、必ずしも工場のことを思いやってくれるというわけではない。工場を思ってくれる営業の成績が上がるわけでもない。そうすると、生産管理には割り切りが必要だということになりますね。

B氏 そうですね。極論をいうと欠品率を0.1%にしようとしたら、単純に計算して在庫はいまの4〜5倍は必要になる。それは現実的にあり得ないから、じゃあ何%の欠品率なら許してもらえますか? そういう割り切りをしない限り、在庫削減なんかできっこないですよね。

A氏 いまの仕事を始めたばかりのころ、「納期厳守はこれくらいでいいんだ」といわれたときにはびっくりしましたね。これ以上納期を守ろうとしたら、結果的に在庫が増えるだけだから、という理由です。建前上、お客さんに納期を聞かれたら「即納します!」と答えてはいますけど、実際にはある程度の納期遅れは許容する割り切りはしていますね。

B氏 例えば欠品率5%までだったら損失額はこの程度で済みます、みたいに単純な計算式で出てきちゃいます。大体製品のABCランクで下図のようなカーブになりますから。アイテム数を抑えない限り、欠品率は下がらないですよ。

図 出荷数量別にランク分けした層別生産
図 出荷数量別にランク分けした層別生産

C氏 うちでもアイテム数を減らしてくれと工場側から要求しますね。サポートセンター的在庫とでもいうんでしょうか、何年も前の商品をパーツとして持っておかなければいけないこともある。何年も売れていなくて、量もわずかなんですが、ずっと在庫として持ち続けている。そういったアイテムを減らさない限り、在庫削減は進みません。

B氏 受注が上向いていて、つまり商品が全体的によく売れて、いきなり明日から2倍の数量を生産してくれといわれれば、それは絶対無理なので「ごめんなさい。でも、半年後にはこれだけの生産能力に引き上げますから、許してください」といって謝る以外に手はない。ところが工場全体としては生産能力はあるんだけど、アイテム数が多過ぎて造り切れなくて欠品になるっていうのが一番腹が立ちますね。

A氏:そうそう、「何でできないの」とか「いつもそうじゃない」とか冷たくいわれたりして。

B氏 「こっちは足りないのに、こっちは過剰在庫じゃないか」なんてね。これは本当に情けない状況ですね。

C氏 営業から「コショウ屋がコショウを切らしてどうするんだ」みたいにいわれて、本当に腹が立ちますよ。うちの欠品は本当に「読んでいたのに、あと1日、2日足りなかった」というパターンが多いですね。「よし、注文が来るだろう」と読んで造り始めるんですが、必要な量を造り切る予定日のまさにその1日前に注文が入ってしまって、「ごめんなさい、あと1日ください」というと、「何でこの商品を切らすんだ」と怒られる。

A氏 生産管理のことが分かっている営業がいて、「これ2日で造れるんでしょ、頼むよ」なんていってくる。もちろんその商品だけ造るなら2日でできるけど、「そこのけ、そこのけ」ばかりになったら収拾がつかなくなる。かといって、欠品を減らす根本的な対策は打っていないんですけどね。

B氏 生産リードタイムを短くするというのは、仮に欠品になったとしても、補充する期間を短縮できるから1つの解決策になります。だけど、アイテム数が限界を超えると、それを補充するための順番が回ってくるまでの時間も無視できなくなってくるから、うまくいかなくなる。やはり自分たちが造り切れる適正なアイテム数を守るっていうのがすごく大事なことなんでしょうね。ところが、商品を開発する側にそんな意識は一切ない。ただ、その商品アイテム数でいくかどうかを決めるのは工場長と生産管理ですから、一応そこで生産管理側の意見を主張できる。ところが、大体鶴の一声で「やれ!」になっちゃうけど……。

A氏 開発の人は新商品を造らなきゃならないし、営業はアイテム数を減らしたって何もいいことはないですから、多ければ多いほどいいとなる。アイテム数を減らしたら、その分だけ売り上げは減るんだし。営業は「うちはどんな商品もそろっています」といいたいんだ。

B氏 新しい商品を造ったら、古い商品をやめるのかというと、「その古いのにだってお客さんはいるんだ」といわれる。そういったって、3カ月に1回1個買ってくれるかどうかなのに。

A氏 そうそう。このサイズだけが欠品していたから2000万円失注しちゃった、みたいないわれ方をするんです。シリーズとして売っているのだから、1アイテムでも欠品になっていたらシリーズとして成り立たない、とか。

C氏 2年ほど前に、他社にはない画期的なスパイスを開発して、これは絶対に売れる、会社の柱にして売っていこうとなったことがあって、製造工程の手間は増えるんですが何とか体制を整えて造ってみたら、これが全然売れなかった。結局はアイテム数が2つ増えただけ。営業はサンプルを持ってあちこちに配って回っていて、サンプル出荷とはいえ、だんだん在庫がなくなってくる。そこでそのサンプルのためにわざわざ生産ラインを空けて造らなくちゃいけなくなる。それをただで配っている(笑)。

◇ ◇ ◇

村上 今回の話題は、生産管理と営業との虚々実々の駆け引きをめぐる話題で大いに盛り上がりました。さて、最終回となる次回は生産管理者の明るい未来を見いだすために、何をすべきなのか熱く語ってもらいましょう。

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