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材料が白旗を揚げる「降伏点」とは仕事にちゃんと役立つ材料力学(6)(1/2 ページ)

降伏点とは「材料が降参する」点だ。降伏応力は設計しようとしている部品の強度を判定するうえで重要な基準の1つとなる。

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 これまでは「応力とはなんだ」「ひずみとはなんだ」と1つ1つの項目について説明してきました。これまでの説明は今回のテーマである「応力とひずみの関係」を説明するためのものでした。

 そして前回で2つの物理量の関係を表す「フックの法則」を解説しました。「応力とひずみの関係」は材料力学の中でも1つの大きな山場となります。ここを乗り越えれば、材料の性質が定量的にイメージできるようになります。それではスタートです!

図3、図4の解説の一部に誤りがありました。現在は修正させていただいています。



延性(えんせい)材料と脆性(ぜいせい)材料

 材料は大別して、「延性(えんせい)材料」と「脆性(ぜいせい)材料」に分かれます。なんだか難しそうな言葉ですよね。昨今は新しい材料の開発も目覚ましいので、この性質に当てはまらないものもあると思いますが、まあ、身の回りにあるもののほとんどの材料は、この延性材料か脆性材料のどちらかと思っていただいて結構です。まずはこの言葉の意味から説明しましょう。

延性材料について

 まずは、文字を眺めてみてください。そう、「延びる」という字がありますね。壊れたり、ちぎれたりする前に、延びる材料のことを延性材料といいます。例えば延性材料で出来た丸棒を両方から引っ張っていくと、延びてからちぎれる。極端ですが、キャラメルみたいな性質を持つ材料だと思ってください。金属材料のほとんどがこの延性材料です。

脆性材料について

 これも、字面を眺めてみてください。「脆」という字がありますが、「脆い」で「もろい」と読みます。脆性材料で出来た丸棒を両方から引っ張っていくと、何の前触れもなくちぎれます。極端ですが、これはクッキーみたいな性質を持つ材料だと思ってください。鋳鉄(鋳物に使われる)やガラスがそうです。

編集部注:ここでいう「鋳鉄」は、「ねずみ鋳鉄」とします。ダクタイル鋳物などは含めません。



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図1 延性材料と脆性材料の性質を比較したグラフ

 図1のグラフは横軸がひずみ、縦軸が応力となっています。非常に乱暴ではありますが、横軸を変形、縦軸を力と考えてください。そうするとイメージがわきやすくなります。ほかにもいろいろなことが書いてありますが、順々に説明していきます。

 まず、このグラフを見ながら延性材料について説明します。まずはアタマの中にキャラメル製の丸棒を作って、両端から引っ張る様子をイメージしてみてください。キャラメルでも、ほんの少〜しだけ引っ張って、手を離せば元の状態と大きさに戻ります。これがちょうど、図中にあるオレンジ色の領域です。ところがこの領域を超えると、もう手を離して力を除去してもキャラメルは元の大きさには戻りません。そしてさらに引っ張っていくと伸びてちぎれてしまいます。図1中の赤い×印が壊れたことを示しています。

 次は脆性材料です。先ほどと同じようにアタマの中でクッキー製の丸棒を作って、両端から引っ張る様子をイメージしてみてください。すぐにポロッとちぎれてしまいそうですね。でも、ものすごぉ〜く小さぁ〜い力で引っ張るのです。そうすればクッキーは割れません。そして手を離せば元の状態と大きさに戻ります。その状態が、図1中のオレンジの領域です。この領域を超えてさらに引っ張ると、あっという間にちぎれてしまいます。赤い×印の部分が、壊れました、ということでしたね?

 図1グラフのオレンジ色領域=引っ張った力と延びた長さが比例する領域

 オレンジ色の領域は、キャラメルであろうがクッキーであろうが存在しましたね。つまり延性材料でも脆性材料でも、この領域は共通に存在するということになります。

 力を取り去ると完全に素の状態に戻ります。この比例する限度を境にして、比例する側(図中左側)を「弾性」、比例しない側(図中右側)を「塑性(そせい)」といいます。

 弾性変形は比例限度内の変形なので、掛けた力を取り去れば変形は元の状態に戻ります。しかし塑性変形となるとそうはいきません。掛けた力を取り去っても、もう元の状態には戻らないのです。

 ちなみに、力を取り去ることを「除荷」といいます。弾性変形の場合は、除荷すると、力と変形が比例した軌跡をたどって元の状態に戻ります。塑性変形の場合は、除荷すると、比例のときの傾きとほぼ同じ角度で変形も戻ります。しかしやがては、「永久ひずみ」(永久に変形が残ってしまうこと)に行き着くことになります。

。oO 筆者のつぶやき

身近なもので見る弾性と塑性

ダンボール

自分の頼んだ商品が通販で届くのは待ち遠しいものです。だいたい段ボールに入って届くのですが、その後始末に苦労したことは、皆さんにもあるはずです。できるだけ小さく折りたたんで、ガムテープで留めます。段ボールだって元の状態に戻ろうとするのですね。材料の正直さと根性を味わいながら作業してみてください。材料の健気な振る舞いに、少しはイライラが軽減されることでしょう。

針金ハンガー

スーツをクリーニングに出すと、針金のハンガーにつるされて返ってきますよね。あの針金のハンガーですが、捨てるのに忍びなく、洗濯を干したり洋服を引っかけるのに使いませんか? Tシャツのようなものならいいのですが、革ジャンとかコートをつるしておくと、服の重さに耐えられず、ハンガーが曲がり、服を取り去っても、もう元には戻りません。身近なところに弾性と塑性があるのです。また針金ハンガーを使って、弾性(動画1)と塑性(動画2)を動画で撮影してみました。極端なのはいつものことですのでご勘弁くださいね。

動画1 弾性
動画2 塑性

応力―ひずみ曲線

 さて、ここまで、やれキャラメルだの、やれクッキーだの、工業製品にはほとんど(!?)使わないであろうもので材料特性を説明してきました。だいぶ極端でしたが、イメージできましたか?

 そして普段使わない言葉がたくさん出てきました。「延性」「脆性」「弾性」「塑性」などなど。言葉そのものはシンボルですから覚えなくてもいいでしょう。でもぜひ現象をアタマの中でイメージしておいてくださいね。

 製品や部品で飛び抜けてよく使われるのが、金属材料と樹脂材料です。まずは、金属材料から説明しましょう。

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図2 鋼材のひずみと応力の関係を表したグラフ

 図2は鋼材のひずみと応力の関係を表したグラフです。鋼材は鉄を主成分とする合金の総称で鉄鋼とも呼ばれます。英語ではSteel(スチール)です。このグラフをジックリと眺めてみましょう。

 ひずみと応力が比例する部分があるのは、これまでの説明と同じです。鋼材も引っ張ると延びて、力を取り去ると元の状態に戻る限界領域があります。図中、オレンジ色の領域ですね。さて次が問題です。何やら急に「ガクッ」とくる部分があり、後は延性材料のグラフと同じようなカーブを描き、やがてちぎれます。そうそう、ちぎれて壊れることを「破断」といいます。

 このようなグラフ(線図)を「応力―ひずみ曲線」といいます。応力は英語でなんでしたっけ? そう「Stress」です。それではひずみは? 「Strain」です。この頭文字をとって「SSカーブ」といったりします。

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