検索
連載

そんな日程じゃ無理! といえない生産管理者誰も知らない生産管理の苦悩を徹底討論(1)(3/3 ページ)

日本が世界に誇るモノづくり文化の中で、おそらく最も地味な役回りを演じているのが生産管理部門だ。彼らはどんな苦労を抱えて日々の仕事をこなしているのか。普段聞くことのできない彼らの本音を語ってもらった。

PC用表示
Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

工場、営業、お客さん、一番サバを読むのは誰?

村上 Aさんは大手企業なので、どちらかというと方針制約(注1)が強い。Cさんは中堅企業として、お客さまの立場が強い傾向にあると思うのですが、そうするとどこのサバが一番大きいですか。

C氏 やはり工場のサバが一番ですかね。例えば、香辛料は値下げしたから急に売り上げが増えるという性格の商品ではありませんし、営業の動きによって需要が急激に変化するということもありません。営業は、ある意味で販促をしてもしなくても受注はあまり変わらないという状況に慣れてしまっています。これは現在会社の課題として認識されているのですが、例えば5〜6年新規顧客を取れなくてもやっていけるのです。ですので、製造計画に営業が口を出すこともほとんどありません。


注1:方針制約 TOCが規定する3つの制約の1つ。社内の規定・制度や組織構造などマネジメントの仕組み・企業文化・風土に制約がある場合のこと。ほかに「物理的制約」「市場制約」がある。


村上 お客さまは食品メーカーさんとの直接取引ですか。

C氏 基本的には食品加工メーカーさん直ですから、ほとんどリベートはないですね。最近はコンビニが強くなって、商品の改廃サイクルは短くなっています。定番商品はずっと安定した販売量を維持しているのですが、それ以外で急にお客さんから頼まれる商品があるんです。これは大変だといって、大至急対応して何とか納める。で、次もきっと注文が来るだろうと思って在庫を抱えておくと、「あれは、もう終わりだから」といわれてしまう……。
 外食チェーン店などでは、新メニューを極秘で開発していて、あるとき急に販売を始めるなんてケースもあります。新メニューが決まったら2週間後には店頭に並べたいなんて。外食チェーン店は何しろ店舗数が多いですから、急な注文に対応するのは大変です。朝、営業が出来上がったばかりの製品を抱えて届けに行くなんてことはしょっちゅうですね。こういう足の速い商品は、営業だって需要をとても読み切れないものなのでしょうね。
 当社は、マーケティングをして市場動向を分析するといったことをする人もいないので、工場の方が生産をしながら出庫の傾向などを後追いで分析して、「この商品の出庫が増えてきているようだけど、お客さんから情報を取ってきてもらえませんか」と営業に働き掛けたり。すると、実は新商品のリリースが決まって動きだしていたなんてこともありますね。

村上 Bさんはどうですか。やはり営業とのやりとりで苦労されていましたか。

B氏 私のところは工場のサバはほとんどなくて、生産計画を立てるに当たっても、しょせんは平均受注で造ってしまいますから、あまり工場のサバは読みようがない。「ちょっとラインの動きが寂しいから造っちゃえ」ということは基本的にはできなくて、受注が落ちれば生産も落とさなくちゃいけないルールになっています。だから逆にいうと、受注が増えてくると生産が追い付かなくなって欠品が増えてきますね。

 過剰在庫に悩まされるケースは、営業の「サバ」じゃなくて「怠慢」ですね。例えばA社に毎月100〜200個納めていた製品が、ある日突然売れなくなる。気が付いたら他社に契約を取られていたとか。

A氏 失注したって情報は、営業から入ってくるんですか。

B氏 いえいえ、こっちが聞くと、ようやく教えてくれる。営業って、注文を取ったときは、鬼の首を取ったように報告して、「すぐに在庫をよこせ」といってくるくせに、失注すると何も情報をよこさない。こっちは平均受注で造っているから、月に1〜2個くらいしか売れない製品をいきなり200個よこせといわれたってあるわけがない。「じゃあ、すぐ造るよ」といって対応はするんですけど、営業に「今後このお客さんはどうなの」と聞くと「はい、毎月この製品を200個使うといっています」という。「分かった。じゃあこの製品は1カ月分の在庫は持っておくから」といって造っていると、いつの間にか失注している。それを3カ月もたってからようやく工場に報告してくる営業がいたりするんだ。「どうするの、この商品はそこのお客さん以外、どこも買わないんだよ……」。
 いまは在庫の月数を決めるルールを作ったので、基本的に最大でも2カ月分の在庫しか持たないようになっていますが、そうなる前の時代には製造リードタイムが長かったので、リードタイムが60日もかかっていると、在庫1カ月分+仕掛かり在庫2カ月分ですから、平気で3カ月分たまっているんですよね。そのころが一番苦しかったですね。
 それから新しい商品を出す際、どうしてもアイテム数が多くなるんですよ。1つのシリーズを立ち上げると、それに伴って、サイズ違いなどでたくさんのアイテムが生まれてしまう。そのシリーズを全部、代理店さんに買っていただくわけですが、これが下手をすると全然売れなかったりする……。

一同 ある、ある(笑)。

B氏 そうすると死蔵在庫になっちゃう。昔は代理店さんもお金を持っていたので何とかなっていたんですけど、代理店さんの業績が降下した時期があって、その直前くらいにうちの在庫を抱えられるだけ抱えてしまった。何とかしてくれ、ということもありましたね。こういうのは工場のサバというよりは、見込み違いですね。売れると見込んでいたものが売れなかったというケースが一番大きいと思います。
 お客さんのサバでいくと、本当のエンドユーザーさんはあまりサバを読まないものです。「今日使うから今日持ってきて」という感じですから、こっちもサバの読みようがない。まさに、営業が慌てて届けに行くという状況ですね。間に入っている販売店さんや代理店さんは、少しサバを読みますね。これは少し売れ出したから在庫を持っておこう、とかね。そうした余計な思惑が入ってくるので、ある商品が売れ出すと一気に在庫を増やしてしまう。ちょっと売れなくなると、一気に過剰在庫になる。

◇ ◇ ◇

村上 リードタイムが2カ月だと仕掛かり在庫は2カ月、それに製品在庫1カ月、全部で3カ月分の在庫を持ってしまう。これが全アイテムだとすると大変な在庫量になりますね。次回は、在庫との戦いをさらに突っ込んで議論しましょう。


次回の連載第2回「良い営業、普通の営業、悪い営業、嫌な営業」はこちら

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る