100%リーンな設計を実現する処方せんはコレだ!:リーン製品開発でムダな工数を30%削減する!(3)(4/4 ページ)
製造業の利益率は米国で十数%、アジアでも10%程度あるのに、なぜ日本企業はわずか数%なのか? 設計業務のムダな作業を削減し、ぜい肉の取れた“リーン”な製品開発を目指そう。
処方せん:誰もが共有できる1枚のビジョンを作ろう
さて、処方せんの作成について考えてみたいと思います。書き方は、考え方や状況によってさまざまだと思います。今回の記事の中では、例え話として「処方せん」という呼称にしていますが、要するに「ビジョン作り」です。トップ、ミドル、エンドユーザー、それぞれの思い、志、大義が個々に存在しますが、誰がどの立場から見ても、共通理解の得られる「ビジョン」としてまとめていきましょう。
そのためには、ミドルマネジメントに求められている能力が必要です。設計業務のムダ取りをするといっても、いきなり細かい現場改善のテーマを探す能力だけでは不十分です。そもそも会社としてその事業がどういう方向性を持っているのかを、見極める能力も要求されます。
これを若いうちから常に意識し、訓練し、そして実践することです。エンジニアであっても、経営的視点を考慮できる能力が問われています。経営意図が理解できれば、皆さんが専門としている実務層の現場の課題も、会社としての改革の正しい優先順位も、おのずと見えてくるはずです。そして、ベストなITを採用し、それをどこの業務プロセスに刷り込んだらいいのかを見極めます。
この一連の思いを1ページでシンプルにまとめ上げなければなりません。構想力が必要です。発想の転換も必要です。広い視点で大局的に見る能力も必要です。並行して、底辺の問題の本質まできっちりと掘り下げられる能力も必要です。ただし、最終的には1枚にシンプルにまとめることです。これが、トップとエンドユーザーをつなげる共通理解を得るための、処方せん(ビジョン)となります。
例えば、先ほどの(A)と(B)について、1ページで簡単に処方せん(ビジョン)を書くとすれば、図7のようになるでしょう。人間ドックの健診が終わると送られてくる診断結果シートのようなものです。それを見て、生活習慣(設計スタイル)を根本的に見直して“変えるんだ”という決断をしてください。
そして、このビジョンをスタートラインにして、実施計画のための詳細なプランを書き記していくことになります。
連載のまとめ
前回の記事でご紹介した健康診断ステップ(1)と(2)も含め、これまでの内容をまとめると、大きく8個の流れが含まれていました。
まず、(1):経営者目線の事業戦略のことでした。そして、(2):ミドルクラスがイメージしている部門目標や取り組みの方向性、次に、(3):具体的にムダ取りすべき業務プロセスを特定し、(4):現状と将来の方向性を見定める。ならば、(5):それに必要なITツール群は何かと。ただし、(6):それにはシステムの段階的構築が必要だと。後は、(7):フレームワーク(枠)で仮説を立てて、最終的に、(8):大義(ビジョン)に落とし込む。これらの要素を、1枚の処方せんにまとめることになります。
今回は、具体的な実行計画に関する内容は割愛しています。いつからいつまでに、どのくらいの予算で、どの分野から、どのような課題をどう解決するのか、そのIT投資効果、ITツールの選定基準、システム構築後にどういう指標をトラッキングすべきか、それによりITによるムダ取りが達成できているのか否かの定量的判断のポイントなど、具体的な実行計画書の作成が必要となります。自社のリソースだけでできる部分、外部の専門家の支援を必要とする部分、それらのコストの捻出(ねんしゅつ)方法も考慮しなければなりません。
この連載記事の中では、リーン製品開発に取り組むためのビジョン作り、そのためのワークショップの進め方が中心テーマでした。まずは、リーン製品開発の背景、意義、目的、取り組みの方向性を、ご理解いただけたようでしたら幸いです。そうなれば、なるべく早いタイミングで今年度中に、着実に実行計画へ移っていってほしいものです。
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さて、そろそろこの連載記事は、終わりが近づいてきました。今回ご紹介した内容は、私が勤めているPTCという会社が、いつも製造業のお客さまに対してご紹介している整理整とんの手法です。その中から、約10%程度の重要なポイントを厳選し、読者の皆さんへの情報提供としました。
最後まで、この連載記事をお読みくださり、本当にありがとうございました。では、またどこかでお目に掛かりましょう。(連載完、第1回に戻る)
筆者紹介
PTCジャパン株式会社 ビジネス開発推進室 ディレクター 後藤 智(ごとう さとし)
武蔵工業大学工学部卒。豪州ボンド大学大学院にて経営学修士(MBA)取得。CAD/CAM/CAEに関するアプリケーションエンジニア、PDM/PLMに関する業務コンサルタントやプロダクトマーケティングを歴任。現在は、製造業の製品開発プロセスに関する業務改革および情報化推進のビジネスアドバイザーを担当。
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