じゃあTOCでどれだけ利益が出るの?:利益創出! TOCの基本を学ぶ(6)(1/3 ページ)
モノづくり企業が継続的に利益を創出することを“ゴール”に定め、具体的な方法論を提供するTOC(制約条件の理論)について、初学者向けに基本的な思想、用語、理論などをコンパクトに解説する。
今回は本連載の最後として、これまで説明してきたTOC−DBR(ドラム・バッファー・ロープ)の導入によって獲得した生産力を、利益という「企業力」に変換する方法について、事例を紹介しながら考えていきます。
TOCは「経営のムダを取り、シナジーを最大にする」方法論
これまで紹介してきたDBRの仕組みは、素早く、確実に企業内のリードタイム、在庫を削減し、隠れた生産能力を引き出します。しかしこの範囲の取り組みでは、一般的にどこの企業にも存在する改善運動と大差なく、多くの場合、企業業績に直結することはまれなのです。
実はTOCの真価はここから発揮されるのです。そもそもTOCとは、個々に存在する改善努力を制約条件に集中させることによって「企業の力」へと転化させ利益に変換する触媒の役割を果たすものであり、個別の改善をひたすら積み重ねることではないのです。
真に業績を向上させるために必要なのが生産性を最大にし、一方で顧客の特急オーダーや急な変更にもフレキシブルに対応できる生産システムを構築することなのです。これまでも説明してきたように、高い稼働率を目指して、生産能力ギリギリいっぱいに生産計画を立ててしまえば、緊急オーダーに対応することは極めて難しくなります。
もうけるための高い稼働率と、顧客対応のための余裕というジレンマを両立させるために、DBRを活用した工場改善と生産管理業務の革新活動を同時に実施します。筆者が代表を務めるゴール・システム・コンサルティングが手掛けたTOC導入事例では、最短6カ月でリードタイムを半減させ、隠れた生産能力を20%程度引き出すことが可能という結果が報告されています(表1)。
社名 | 最大リードタイム | 平均リードタイム | 在庫率 | 生産能力 |
---|---|---|---|---|
日立ツール(切削工具) | 70%以上 | 50%以上 | 半減 | 20%増 |
セイコーエプソン(半導体) | 80%以上 | 58%以上 | 40%削減 | 20%増 |
日立化成グループ(カーボン製品) | 60%以上 | 40%以上 | 25%以上削減 | 15%増 |
北越パッケージ(紙製品) | 60%以上 | 35%以上 | 30%以上削減 | 25%増 |
A社(セラミック)(パッケージ) | 45%以上 | 35%以上 | 25%以上削減 | 20%増 |
表1 ゴール・システム・コンサルティングの顧客(製造業)におけるTOCの成果 |
「創って、造って、売る」とは
次に製造業の基本的な機能を有機的につないでゆく取り組みを行います。製造業の基本的な機能とは、
- 新製品や顧客仕様を満たす製品を用いて市場を「創る」
- 生産やエンジニアリングなどによって顧客の必要な製品を「造る」
- 上記2つの機能を市場や顧客に理解していただき「売る」
という3つの機能に集約されますが、今回はその中でこれまで作り上げてきた「造る」の優位性を生かし、市場や顧客とウィンウィンを実現する営業とはどのようなものかを考えてゆきましょう。
市場や顧客は、あなたの会社の製品やサービスに対して100%満足していることは決してありません。品質・納期・コスト以外にも、多くの困りごとを抱えているはずです。顧客のこういった状況は、顧客の不満や困りごとのもとになっている核心的な問題が存在し、その問題にライバルメーカーも対応できていないことを示しています。実は顧客の抱えている問題は、これからお話しするように決して小さいものではありません。
「造る」の優位性をどうやって「売る」の優位性に変えるか
この問題を知るためには、まず顧客は何のために買うかということを考えなくてはならないのです。企業間取引の場合、顧客もまた利益を求め経営活動を行っています。ということは、顧客の社内でも担当者の役割に応じて売り上げやコストなど、分解された指標を追いかける仕組み(組織)が存在します。いい換えれば顧客の社内にも、これまで説明してきたのと同じように多くの「サバ」や「勘違い」が存在しているのです。
顧客の最終目的はもうけることであっても、購買部門の行動と生産部門の行動は、たった1本のドリルを購入する場合でも180度違います。購買部門は購入費用の削減を通じ企業利益に貢献することが使命です。一方、製造部門はたとえ高価なドリルを使ったとしても、生産性を向上させ、より少ない時間と工数でより多くの製品を製造することが、企業利益に貢献することになります(図1)。
このような組織間の機能ギャップを正確に認識し整合することは、容易なことではありません。しかし、この対立やジレンマの本質を見つけ出し、自社の優位性をベースにした提案ができれば、顧客の利益と自社の利益両方を実現することができるのです。
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