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工場の混乱を壊滅的に拡大させる「3つのサバ」利益創出! TOCの基本を学ぶ(3)(1/3 ページ)

モノづくり企業が継続的に利益を創出することを“ゴール”に定め、具体的な方法論を提供するTOC(制約条件の理論)について、初学者向けに基本的な思想、用語、理論などをコンパクトに解説する。

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 前回の「在庫がたまり納期が遅れる理由〜『2つの勘違い』」でお話ししたように、工場には原価計算から導き出された「皆が忙しく働かなくてはならない」パラダイムと、遅れから身を守る回避策の結果生じる「過負荷」という二重の「ボトルネック工程を生み出す仕組み」が存在しています。今回はこの混乱に拍車を掛ける、人間行動の「3つのサバ」についてお話ししたいと思います。

⇒本連載の目次はこちら

営業の「サバ」読み販売

 工場の混乱を助長する「サバ」の第一は、営業担当者が売り上げを上げようとすることから生じています。「えっ、だって営業マンが売り上げを上げようとしないでどうするんだ!」と思われるかもしれませんね。もちろん多くの営業担当者は「まじめに正しい売り上げ」を求めて日夜努力しています。実は売り上げには「良い売り上げ」と「悪い売り上げ」の2種類があり、売り上げならば何でも良いと考える「苦し紛れの売り上げ」が多くの問題を引き起こしているのです。

 売り上げを上げる手っ取り早い手段として、営業担当者のよく取る手段が、値引きや、おまけ付き販売、リベートの積み増しなどをネタにして行う「押し込み」や「泣き落とし」です。これは特に期末で目標に対して未達成があるときによく使われることから「ホッケー・スティック・シンドローム(月末症候群)」という名前が付けられています(図1)。

図1 ホッケー・スティック・シンドローム(月末症候群)
図1 ホッケー・スティック・シンドローム(月末症候群)

 症状は単純で、該当する期間の初めと終わりでは出荷高に大幅な開きがあるということです。例えば1カ月間で考えると1日から25日までの出荷累計の倍以上の数量が月末の5日間に出荷されます。これは工場規模や業種、生産品目などにはあまり関係なく、期間の長さは業績の締め(決算)が行われるサイクルによって決まります。要するに評価される方法が、企業の生産・販売活動に大きな影響を与えているのです。

 これらの行動は営業活動の「ひずみ」です。このひずみこそが売上至上主義の組織風土からもたらされるものなのです。経営者であろうと、監督者、平社員であろうと、すべての人たちは、使われている評価尺度(注1)に影響されます。いい換えれば「人間は評価のされ方に従って行動する生き物である」ということなのです(図2)。

図2 人間は評価のされ方に従って行動する生き物である図2 人間は評価のされ方に従って行動する生き物である

 月末症候群にむしばまれている会社では、月末までに売り上げを上げるために、大幅な値引きを行い工場の能力を無視した受注活動を行います。

 これで短期的な売り上げは確かに増加しますが、値引きをしたからといって製品の機能を引き下げるわけではありませんから、材料費は減りませんし、業務費用も変わりません。さらに悪いことに、そうやって月末に押し込み販売された製品は、顧客の倉庫を満杯にしてしまいます。そうすると顧客は倉庫にたまった製品がさばけるまで、しばらく注文を手控えます。その結果、月の初めはまるで真空地帯にいるかのように注文が途絶えます。

 こういった販売方法がまかり通ってしまう結果、工場の負荷は大きく変動します。当然この悪習は1人の営業担当者がやっているわけではないからです。工場では月初は仕事がなく手待ちが発生し、逆に月末には何とか期限内に完了しようと残業、休日出勤を繰り返します。それでも間に合わない場合には、本来必要のない外注工場に大量の注文を流し、スループットを流出させているのです。

注1:評価尺度 TOCでは、問題はPMBによって引き起こされると考えます。P(Policy:方針・風土・しきたりなど)、がM(Measurement:評価、評判など)を決め、その結果、B(Behavior:行動、発言)が決まるのです。法則的にあらゆる組織ではPが存在し、それに従う形でMが形作られ、Bを支配すると考えます。Pは組織の中に明示的に示されている場合も、しきたりや風土といったように暗黙知の中にある場合もありますが、いずれもPMBは一連のセットとして存在するので、好ましくない事実(症状:B)が確認できれば、因果関係的にPを探し出せると考えるのです。

欠品・廃番は悪だと考える

 売り上げを追い求めるあまり会社に損失を与える営業担当者の行為はこれだけではありません。営業は欠品や廃番などの機会損失の原因となる事態を極端に嫌います。

 確かに誰だって機会損失は嫌だし、“顧客が欲しいときに欲しいものをお届けする”という営業のポリシーからも「欠品と廃番」は許されざることなのです。そしてこの考え方の結果、製造リードタイムを短縮できないならば、供給責任を果たすために在庫を積み増すことが実行されます。しかし一見正しそうに見えるこの対策が、大きな間違いのもとなのです。

 多くの場合、工場のリードタイム短縮活動で、顧客の要求納期よりも短い生産リードタイムを実現できることはまれです。そのため営業部門は、

工場の生産リードタイムが長いから欠品が出るのだ、それに対処するためには当面もっと在庫を持ってほしい!

と要求します。しかし、このような状況では、製造リードタイムを短縮しても欠品はそんなに減りません。なぜでしょうか。

 前述したように、顧客の要求するリードタイムよりも製造リードタイムを短縮して受注生産に移行できない限り、何らかの在庫を持って顧客からの注文に対応せざるを得ません。そうなると、生産は工場倉庫なり流通段階に存在する在庫を補てんする仕組みになります。実はこの在庫補填型の生産では、工場の製造リードタイムの長短は欠品にはそう大きな影響を与えません。

 在庫を補てんするために必要な期間は製造リードタイムと考えたくなりますが、実はどれだけのアイテムを生産できるかという生産頻度が鍵を握っているのです。販売ラインアップされたアイテムが1万種類あって、1万種類すべてを売れただけ毎週生産できれば在庫補てん期間は、

1週間(週1度生産)+製造リードタイム

ということになり、在庫はそう大きな問題を引き起こしません。しかし実際には1万種類を毎週作ることは不可能ですから、切れそうになったものだけをある固まり(ロット)でまとめて補充することになります。

 例えば、1日100アイテム作れば、1万アイテム作るのに100日かかります。ということは基本的な製造ロットサイズは次回の製造順番が来るまでの

100日分+製造リードタイム

という大きなロットサイズになります。当然次の品種も「100日分+製造リードタイム」ですね。しかし、100日分という大ロットで100アイテムを毎日作れる能力を保持している工場はほとんどありません。このため大きなロットサイズで生産を行っている工場では、能力不足に悩みながら多くの過剰在庫を抱えるという矛盾した状況に陥ることになるのです。

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