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トヨタが気前よくカイゼンを教える本当の理由モノづくり最前線レポート(2) 〜モノづくり経営サミット2007 後編〜(1/3 ページ)

日本のモノづくり学を牽引する藤本隆宏氏の講演から、最新の研究テーマ「開かれたものづくり」の概要を紹介する

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 「モノづくり最前線レポート」の第2回は、前回に引き続き「モノづくり経営サミット2007」から、東京大学 大学院 経済学研究科教授・ものづくり経営研究センター センター長 藤本隆宏氏の講演「ものづくり経営の新潮流:複雑化する製品・工程・ITにどう対応するか」をお届けしよう。

「開かれたものづくり」序章

 戦後の日本経済を支えてきた製造業、とりわけ自動車業界を精力的に研究し、「擦り合わせ(インテグラル)型」と「組み合わせ(モジュール)型」という製品アーキテクチャに着目し、日本企業の競争力を分析した藤本氏の研究活動は、日本のモノづくり論に大きな影響を与えてきた。

 現在、藤本氏がセンター長を務めるものづくり経営研究センターでは、日本のモノづくり研究の拠点として、「統合型ものづくり(生産・開発・購買)システム」の理論的・実証的研究を行うほか、モノづくりのベテランをものづくりインストラクターとして再教育する「ものづくりインストラクター®養成スクール」といった活動も行っている。

 こうしたモノづくり学の研究活動を経て、最近は「開かれたものづくり」という考え方を追求していると藤本氏は語った。「世間でモノづくりというと、指先でコンマ何ミリの誤差を識別できる匠(たくみ)の技を持った職人さんの世界ばかり強調されてしまうが、名人名工のモノづくりは、日本のモノづくりの中でもほんの一部にすぎない。感動的な話だけれど、その視点は狭過ぎる。モノづくりをもっと広く見ようとすると、『モノ』というとらえ方が引っ掛かってしまう。モノにこだわり過ぎると、モノづくりの本質が分からなくなるのではないか」と藤本氏は聴衆に問い掛けた。

 モノづくりを広い視点でとらえるときに大事なのは「設計」というキーワードだという。「コップをなぜコップと呼ぶのか。それはコップという設計情報の名前が人工物にとって本質的だから。素材がガラスでも、紙でも、プラスチックでも、すべてコップと呼ばれる。ガラスのコップを見て『ガラスだ』と思う人はいないだろう。しかし、くぼみのある石を持ってきてこれで水を飲めといわれたら、その石をコップとは呼ばないだろう。それはただの石である。つまり、設計者の意図を感じるから、それをコップだと呼ぶ。コップとは設計情報の名前であり、モノの本質的な部分は設計情報なのだ」。

 この考え方を整理すると、モノは「設計情報」と「媒体」に分けられる。コップの例であれば、ガラスという媒体に水を飲むために便利な形状という設計情報を転写したものがコップになる。「モノづくりとはモノをつくることにあらず、モノにつくり込むこと。では何をつくり込むのかというと『設計者の思い』ではないだろうか。設計者の思いをある媒体に転写し、その媒体をお客さんのところまで良い流れで届ける」ことが藤本氏の考えるモノづくりである。

 モノづくりをこのように定義すると、何も製造業だけがモノづくりを行っているわけではないことに気付く。従来の狭いモノづくり観では製造業の生産現場だけがモノづくりと考えられてきたが、これからの広い視野に立つモノづくり観では表1のように製造業および非製造業における、生産現場および開発・購買・販売現場が含まれてくる。これが「開かれたものづくり」だという主張だ。

図1 「従来のものづくり観」 vs. 「これからの開かれたものづくり観」
図1 「従来のものづくり観」 vs. 「これからの開かれたものづくり観」(藤本氏の発表資料より作成)

 そして「開かれたものづくり」は理論上の概念ではなく、先進の企業では実際に取り組みが進み、成功を収めている現実であることが明らかにされる。講演で取り上げられたスーパー大手のイトーヨーカ堂、アパレルのワールドの事例を次ページ以降で紹介しよう。その過程で、なぜトヨタがあれだけ気前よくカイゼンを他社に教えているかも明らかにされる。

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