いまさら聞けない 車載ネットワーク入門:カーエレクトロニクス技術解説(3/3 ページ)
ますます高度化するカーエレクトロニクス。その土台を支える車載ネットワークも用途に応じて多くの仕様に細分化されている
制御系ネットワーク
ここで説明する制御系とは、2ページ目の図1で示した分類のボディ電装系、(狭義の)制御系、X-by-wire系を含む、広義の制御系とします。ボディ電装系は、ボディ電装部品周りの機器です。代表例はパワーウィンドウやドアロック、バックミラー、イグニッション、ライトなどです。狭義の制御系とは、自動車の基本機能制御をつかさどる部品です。代表例は、エンジン、トランスミッション、ステアリング周りです。X-by-wire系は、次世代車両での利用が検討されているX-by-wireシステムに関する装置です。用途としては、ステアリング、ブレーキ、スロットルなどが想定されています。
CAN(Controller Area Network)
CANは1986年、ドイツRobert Boschにより仕様公開されたプロトコルです。後に、CANプロトコルは国際標準化機構であるISO(International Organization for Standardization)により標準規格化(ISO11898/ISO11519)されました。現在ではほぼすべての自動車に採用され、さらにFA(Factory Automation)、産業機器など広く利用されています。
図2 マルチマスタ方式によるネットワーク管理。CANに接続されている各ECUは個別にネットワークの状況を監視しているため、ECUの動的な追加、離脱が可能。初出:Interface 2005/4号「LINによるリモコン制御モデルを使ったLIN通信ドライバによるTOPPERS/OSEKでの制御の実例」
クラス | 通信速度 | 用途 | |
---|---|---|---|
クラスA | 〜10kbit/s | ランプ、ライト類、パワーウィンドウ、ドアロック、パワーシートなど | |
クラスB | 10k〜125kbit/s | ステータス情報系(電子メータ、ドライブ・インフォメーション、オートエアコン、故障診断など) | |
クラスC | 125k〜1Mbit/s | リアルタイム制御系(エンジン、トランスミッション、ブレーキ、サスペンション制御など) | |
クラスD | 5Mbit/s〜 | マルチメディア(カーナビ、オーディオなど) | |
表2 SAEの通信速度分類/出典:「車載LANとその応用」(トリケップス) |
LIN(Local Interconnect Network)
LINは1999年に「LINコンソーシアム」が公開した車載ネットワーク規格で、主にCANのサブネットとしての利用を想定しています。CANを利用するにはマイコンにCAN通信コントローラが内蔵されていなければなりませんが、LINの場合はほぼすべてのマイコンに内蔵されているシリアル通信(UART)で実現可能です。また、LINはCANほどの通信速度を必要としないため、低コストに実現できます。
FlexRay
FlexRayは、X-by-wireを実現する最有力のプロトコル仕様で、主にパワートレインなどの制御装置での利用が想定されています。
FlexRayは1998年ごろから仕様の検討が開始され、2000年に「FlexRayコンソーシアム」が組織されました。一方で、FlexRayと利用目的が競合するプロトコル「TTP/C(Time Triggered Protocol class C)」がありましたが、2003年にTTP/Cの主要メンバーがFlexRayコンソーシアムに加盟したことにより、実質的にFlexRayに統一されました。
車載ネットワークの動向
車載ネットワークは、新しいサービスや自動車の固定観念を変える技術として利用されつつあります。いまは車両内でのみ情報を共有していますが、ITS(Intelligent Transport System:高度道路交通システム)などが進化すると車車間通信や路車間通信なども広く利用されると思います。すなわち、車載ネットワーク技術はいま以上に重要になると考えられます。
国内の車両ソフトウェア標準化団体JasPar(Japan Automotive Software Platform Architecture)では、FlexRayなどの次世代通信技術に関する検討と車両メーカー間の相互協力関係の構築を模索しています。またJasParはAUTOSARと相互協力することを目的としており、相互分担での仕様検討や国内意見を取りまとめ、国際規格へのワンボイス化を狙っています。
国内メーカーが系列の壁を乗り越えて統一思想として協力できるのは、特定メーカーの思想が入っていないオープンソースかもしれません。すでに国内でもオープンソースを共通仕様のたたき台として検討しているとうわさされています。車載ネットワーク仕様が日本から提案される日を信じたいと思っています。
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