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ナフサ不足にどう備える? パワーGXで変わる石油化学の備蓄戦略:ごりおの化学素材業界最前線レポート(5)(1/3 ページ)

化学メーカーに勤務しつつ、化学や素材の業界における動向を中心に、化学メーカーの事業戦略、石油化学、半導体材料などについてSNSで情報発信しているごりお氏の連載。第5回は、石油備蓄の仕組みとこれまでの経緯を振り返りながら、今後のナフサ供給をどう安定させていくのかについて解説します。

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 2026年8月26日、政府は「パワーGX」と呼ぶエネルギー政策のパッケージを公表しました。そのなかでは、ナフサの安定供給を強化する方針が示されています。つまり、石油化学の原料であるナフサも、原油と同じように国として安定確保していく方針が示されたのです。

 ナフサは、原油から得られる石油製品の1つです。私たちの身の回りにあるプラスチックや合成ゴム、塗料、接着剤など、さまざまな化学製品の原料として使われています。私たちの生活基盤を支える、重要な原料といえます。

図1 ナフサのサプライチェーン:原油から身近な製品まで
図1 ナフサのサプライチェーン:原油から身近な製品まで[クリックで拡大] 出所:経済産業省「石油関連製品の供給構造の強靭化に向けて」(2026-08-03)、p.4

 しかし2026年春には、中東情勢の悪化によってナフサの調達が不安定になると、シンナーや塗料、包装フィルムなどの供給にもその影響が広がりました。スーパーマーケットで見かける白黒パッケージのお菓子包装は、ナフサ不足に対する予防措置の1つとされています。

 なぜこれほど供給不安が大きくなったのか。その要因の1つに、ナフサの在庫の少なさが挙げられます。石油備蓄は国内消費量の200日分以上あった一方、ナフサそのものの国内在庫は、通常20日分程度とされています。

 つまり原油は備蓄によって供給不安を吸収できた一方、ナフサは在庫が薄く、その影響が化学製品の供給不足として表面化しやすい構造だったと考えられます。

 そのため今回の混乱を受けて、「ナフサの備蓄を増やすべきではないか」という議論も出てきていました。2026年6月の衆議院予算委員会でも赤澤経済産業相は、現在は備蓄制度がないとした上で、備蓄の方法も含めて検討する考えを示したのです。

 パワーGXは、こうした供給安定化の流れも受けて作られたパッケージと見られます。一方、パワーGXの中身をみると、単にナフサ備蓄を40日、60日と増やす拡大策ではありませんでした。

 なぜナフサそのものの備蓄を増やす政策にはなっていないのでしょうか。そして、そもそも日本では、なぜナフサを国家備蓄してこなかったのでしょうか。

 今回は、石油備蓄の仕組みとこれまでの経緯を振り返りながら、今後のナフサ供給をどう安定させていくのかを整理します。

半年たっても続く中東危機

 まず、足元の状況です。

 2026年2月末、中東情勢の悪化を受けて、イランがホルムズ海峡の封鎖を宣言しました。ホルムズ海峡は、ペルシャ湾の出口にあたる狭い海峡で、中東の原油を運ぶタンカーの多くが、航行の停止を余儀なくされました。

 6月には停戦に向けた動きもありましたが、9月にはフーシ派によるサウジアラビアへの攻撃も報じられ、その後も緊張は続いています。

 幸い足元では、サウジアラビアが輸出ルートを切り替え、停止していた東西パイプラインも再開するなど、中東からの原油輸出は回復しています。日本の原油調達について、石油連盟の木藤俊一会長は9月18日の会見で、11月分まではめどがついていると説明しました。一方で、12月以降の調達には不透明さが残る、とも述べています。

 石油化学の現場も、少しずつ持ち直しています。ナフサを分解して基礎化学品を作るエチレン設備の稼働率は、8月に73.5%でした。70%台に乗るのは2月以来、半年ぶりです。ただ、前年8月の80.2%にはまだ届いていません。

 総じて、最悪期は脱したものの、依然として油断はできない状況といえそうです。

原油は備蓄が寄与した

 こうした供給不安の中で、日本の暮らしや産業を支えたのが「石油備蓄」です。

 石油備蓄とは、輸入が止まったときに備えて、国や企業が原油などをあらかじめ確保しておく仕組みです。政府は3月に国家備蓄の原油を放出すると決め、3月26日から放出を始めました。4月には第2弾も決定し、放出を決めた量は合わせて約50日分、約9000万バレルにのぼります。

 今回の放出は、民間備蓄も合わせると日本で過去最大規模となりました。

 備蓄を放出する目的の1つは、代わりの調達先を確保するまでの時間をつなぐことにあります。その間に石油会社は、米国など中東以外の産地や、ホルムズ海峡を通らないルートからの調達を進めました。

図2 中東情勢緊迫化以降の原油調達ルート
図2 中東情勢緊迫化以降の原油調達ルート[クリックで拡大] 出所:石油連盟「今日の石油産業2026」(2026-09)、p.5

 資源エネルギー庁によると、民間の原油調達量は4月に平年の約25%まで落ち込みましたが、5月には約65%、6月には約8割まで回復。7月には、ほぼ平年並みに戻る見通しが立ちました。

 備蓄で供給をつなぎ、その間に代わりの調達先を確保する。今回、原油では備蓄がうまく機能したと考えられます。

供給はできたが、不安を消せなかった

 一方、ナフサはどうだったのでしょうか。

 ナフサは、原油を精製する過程で得られる石油製品の1つです。日本では国内の製油所で生産するほか、ナフサそのものも海外から輸入しています。

 日本が使うナフサは、およそ4割を中東から輸入し、4割を国内の製油所で生産、残りの2割を中東以外から輸入しています。そのため、中東情勢が悪化した3〜4月には中東からの輸入量が大きく落ち込み、国内のナフサクラッカーも減産を余儀なくされました。

図3 ナフサの調達先(2025年)と輸入量の推移
図3 ナフサの調達先(2025年)と輸入量の推移[クリックで拡大] 出所:経済産業省「石油関連製品の供給構造の強靭化に向けて」(2026-08-03)、p.10

 こうした状況を受けて、先行きを心配した事業者が、通常を上回る量を発注、または出荷を絞るなどし、かえって流通が混乱したケースもあったとされています。その結果、シンナーや溶剤などでは、供給の偏りや流通の目詰まりが起きました。

 ここに、原油との違いが表れていると考えられます。原油には国家備蓄があり、輸入が減っても当面の供給をつなぐことができました。一方、ナフサそのものには同じような国家備蓄制度がないため、需給の予見性が低く、供給不安が表面化しやすい構造にあったと考えられます。

 ナフサについても、経済産業省によると、日本全体として必要な量は確保できたとしていました。一方で「この先も安定して届くのか」、この予見性の低さが、サプライチェーン全体の不安につながった可能性があるのです。

 今回、「ナフサも備蓄を増やすべきではないか」という議論が出てきた背景には、こうした経験がありました。

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