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なぜ案件別原価は合わないのか? 労務費の証拠不足と月末の案分運用が招く世界:案件別の原価はなぜ実態と合わないのか(前編)(1/3 ページ)

近年、鋼材や副資材などさまざまなモノが値上がりしており、全産業で逆風となっています。そんな中、多くの受託加工業で材料費に比べて価格交渉の根拠を示すことが難しい労務費の転嫁が進まず、「のまされる構造」が大きな課題となっています。本連載では2回に分けて、案件別の原価がなぜ実態と合わなくなるのかを、「社外側」と「社内側」の視点から解説します。

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 ここ数年で鋼材も副資材もエネルギーも上がり続けています。「SS400の板や溶接ワイヤ、ガス代が気付けば数年前の水準を大きく超えている」「見積を作るたびに材料欄の数字を打ち直し、それでも受注単価の欄は前回と同じになっている」といった事柄を、見積や原価を扱っている人達は毎月の出来事として実感しているはずです。

 視線を川下に移すと、風景が変わります。スーパーの棚や外食のメニューに記載してある金額に目を向けると、ここ数年で値上げが日常となり、消費者もこれを受け入れています。一方、その波はサプライチェーンの川上にさかのぼるほど弱まります。

 最終製品の価格改定は公表される一方、部品の加工賃や治具の製作費、修理の工賃は相対の交渉の中で据え置かれます。企業間の取引価格(日本銀行「企業物価指数」)と、消費者向けの価格(総務省「消費者物価指数」)の推移を並べれば、この川上と川下の温度差は統計でも確認できます。これらのことは気のせいではありません。「構造」です。

 値上がり自体は全産業共通で逆風となっています。しかし、受託加工業には固有の事情があります。それは、値上げの要求が通るかどうかが交渉力ではなく、「立場と証拠」で決まることです。ここまでは経営の話に聞こえるかもしれません。しかし、月末に工数を案件へ配っている人や、案件別の原価が実態と合わないと会議で言われている人などにとっては、“自分の机”での出来事となります。

 このような背景を踏まえて本連載では2回に分けて、案件別の原価がなぜ実態と合わなくなるのかを、「社外側」と「社内側」の視点からそれぞれ解説します。前編となる1回目は社外側にフォーカスし、通らなかった値上げが目標原価になり、月末の正解表に変わるまでを説明します。なお筆者は、中小受託加工業向けの原価管理システムを開発/提供している立場ですが、本稿の内容は特定の製品に依存しません。

中小企業の価格交渉の実態 数字で見る「のまされる構造」

 中小企業庁の調査(2026年3月・価格交渉促進月間フォローアップ調査)によれば、コスト上昇分のうち価格に反映できた割合は全体で54.2%です。このことから“半分近くは自社でのんでいる”計算となっています。この数字には、2つの重要な内訳があります。

 1つ目は階層です。価格の転嫁率は取引階層が深くなるほど下がり、1次請けの55.2%に対して、4次請け以上では45.5%となっています。この約10ポイントの差は、同じ値上がりの波を受けても、下流ほど多くのんでいることを示しています。1次請けは発注元と直接向き合い、公表資料や業界相場を根拠に交渉できます。しかし2次/3次請けと層を下るほど、間に挟まる各層が自社ののんだ価格分を下に回しており、値上げ要請については「上が認めてくれないので」の一言で止まります。そのため、相場から遠いまま、据え置きの注文書だけが届きます。

 2つ目はコスト要素です。原材料費の転嫁率55.7%に対し、労務費は50.0%です。同じ社内のコストでも、材料の値上がりは通りやすく、人の時間の値上がりは通りにくいです。5.7ポイントの差は小さく見えますが、労務費は受託加工の原価の中核です。仮に年間の労務費が5000万円の会社で人件費が5%上がれば250万円となります。このうち半分しか価格に乗せられないという場合、125万円が毎年利益から静かに消えていきます。


図1:価格転嫁の傾向[クリックで拡大] 出所:Whitebell

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