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現場を正しく導き、品質を守る――経営側が引くべき「3本の線」とは何か:品質問題を解決する「三位一体」アプローチ(2/3 ページ)

本連載では全3回にわたり、品質を「あるべき論」ではなく理論と構造の観点から捉え直します。第2回では経営側に焦点を当て、品質を支えるために「経営が引くべき3本の線」の内容を踏まえ、経営側でどのような対応や決断が必要なのか、品質問題を現場とは違う角度から眺めてみます。

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2本目の線――過剰なのは品質ではなく手間

 品質が守れないことが会社として問題であることは、いうまでもありません。しかし、経営の目から見れば、顧客価値につながらない品質活動に必要以上のリソースを投じることも問題です。前者は信用を失い、後者は利益と時間を失います。いわゆる「過剰品質」の問題です。

 ここで一度、言葉を整理しておきます。過剰なのは品質ではなく、品質を届けるための手間です。手間そのものは悪いことではありません。“手間暇”という言葉があるように、それは価値を生む行為として長く語られてきました。問題は、その手間が誰に届いているかです。例えば、「顧客が気付かない精度に時間をかける」「誰も見ない数字を、毎日つくり続けること」といった内容がこれに当てはまります。

 そして手間は、放っておけば増えていく傾向があります。工程に何かを追加する「足す判断」に比べ、工程から何かを減らす「引く判断」の方が責任を問われやすいからです。この非対称がある限り、手間は一方向に積み上がりやすくなります。

 これは意志の問題ではありません。2021年に発表されたある実験があります。レゴブロックで作製した不安定な屋根の建物があり、参加者には「最小限のコストで屋根を補強しなさい(ブロックの追加は有料、取り除くのは無料)」という課題が与えられました。この課題は、不安定な支柱を1つ取り除くことが最も安上がりで確実な解答でしたが、それでも多くの参加者が、“ブロックを買い足す方”を選びました。

 しかし、実験者が「取り除くのは無料です」と一言添えるだけで、ブロックを買い足すという“足し算”を選ぶ割合は明確に下がりました。重要なのは参加者にとって、そもそもブロックを取り除くという“引き算”する案は思い浮かんでもいなかったということです。

 話を組織に戻します。実験の参加者を現場の従業員に置き換えてみてください。この実験者のように一言を発せられるのは、工場のかじ取りをする立場の人だけです。

 ただし、これは「手間を減らせ」と一方的に言うこととは違います。必要なのは、引いてよい線を示すことです。

最終顧客が目にする部分なので、過剰と思えても手間をかけ続ける。

社内の安心のためにやっている部分なので、見直す余地がある。

 このような線が引かれることにより、現場ははじめて引き算を検討できるようになります。


図3:「足し算」だけではなく、「引き算」を選択肢にする[クリックで拡大] 出所:ウィズプロ

 手間を減らす提案は、言い出した人がリスクを取ることになります。「品質軽視だと責められるのではないか」「万一、クレームにつながってしまったらどうしよう」などと考えはじめると、おおよそ現場で対応できる所業ではありません。それこそ責任者の仕事なのです。「ここまでで十分」といえるのは、その結果に責任を取れる立場の人だけです。

3本目の線――現場は「経営が見ている数字」に動く

 現場で当然のように行われている改善。何十年も提案が出続けて、それでも直す部分が残っている、もしくは改善がいつまでたってもなくならないことを不思議に思ったことはないでしょうか。また、改善額の総和通りに粗利が上がっている会社は珍しいのではないでしょうか。果たして、改善はまやかしで意味がないものなのでしょうか。

 そんなことはありません。答えは“改善の目的が品質だけではない”からです。

 以前、このような話を聞いたことがあります。ある日本企業が欧州に工場を展開した際の話です。その工場では、なかなか人が定着しなかったそうです。これは、数年たっても昇進しなければ「この職場では先がない」と判断し、職場を離れる従業員が少なくなかったからです。

 ものづくりの人材育成には時間を要します。工場長は困り果て、試行錯誤の日々を送っていました。そんな中、“カイゼン(改善)”を現場に導入すると徐々に状況が好転し、従業員から報酬や労働環境に対する不満の声も減っていったそうです。これは従業員にとって報酬以外の目標ができたことによります。

 日々の作業の中に工夫できる余地が生まれてモチベーションは上がり、工場を去る人は少なくなりました。経験したことがある人は分かると思いますが、意外にカイゼンは楽しいものです。加えて、カイゼンの効果額を昇進の指標として加えると、評価基準がクリアになったこともあって、状況はさらに好転したとのことでした。

 昔のようにQCサークルや改善提案運動を全社で展開せよ、というつもりはありません。大切なのは、何を軸に据えるかです。そして、それはできれば現場が自らの手で動かせて、その動きが数字に表れるものがよいでしょう。

 歩留まりや工程能力指数、クレーム件数など、品質を数値化して現場の仕事を評価する指標はいくらでもあります。その中で、いまの自社にとって本当に必要なものを選択します。指標を選ぶとは、現場に「ここを見ている」と伝えることでもあります。

 反対に、経営が見ていない指標は、現場でも優先順位が下がりやすくなります。つまり、指標を選ぶことは、限られたリソースの中で何を優先し、何を優先しないかを決めることでもあります。何を指標とし、何をもって良しとするかの線引きが責任者の仕事です。

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