日本に本当に勝ち筋はあるのか ヒューマノイド「解剖」で見る中国の強さと課題:FAイベントレポート(1/3 ページ)
中国では現在、ヒューマノイドロボットの開発や量産、社会実装に向けた動きが加速している。しかし、完成品の動向を追うだけでは、その競争力の源泉や本格普及に向けた課題までは見えてこない。SUGENAのセミナー「フィジカルAI解体新書」では、ヒューマノイドをAIや関節、センサー、手などに“解体”し、中国勢の強さと残された課題を解説した。本稿ではその内容を基に、日本企業が勝負できる領域を見ていく。
この記事の3行ガイダンス
- 中国がヒューマノイドを「速く、安く、大量に」作れる背景を解説
- ヒューマノイドを「解剖」して見えた中核部品と今後のボトルネックを説明
- 日本の勝ち筋は「割り切り」と「コア領域の死守」。一方、現実の理解も必要
観光地でのコーヒー販売、無人薬局での薬の受け渡し、送電設備の点検など、中国ではロボットが研究開発の段階を越え、社会の中で使われ始めている。中でもヒューマノイドは量産が急速に進み、2026年上半期の中国メーカーによる出荷台数は1万8500台に達し、2025年の世界の年間出荷台数を半年で上回った。
なぜ中国はこれほど速く、安く、大量にヒューマノイドを作れるのか。そして、これからの日本の勝ち筋はどこにあるのか。
中国ビジネス支援を手掛けるSUGENAは2026年9月29日、オンラインセミナー「フィジカルAI解体新書」を開催した。同社代表取締役社長の須毛原勲氏が、ヒューマノイドを人間の体になぞらえて「大脳」「小脳」「神経」「関節」「五感」などに分け、中国、米国、日本の強みと現在地、普及に向けた課題、日本の勝負どころを解説した。
中国がヒューマノイドを「速く、安く、大量に」作れる5つの理由
須毛原氏はまず、中国のフィジカルAI(人工知能)市場を巡る現状を整理した。先に触れた出荷台数に加え、ヒューマノイドを手掛ける企業も140社を超えるなど、中国ではヒューマノイドの量産が進んでいる。
中国がヒューマノイドを「速く、安く、大量に」作れる理由として、須毛原氏は5つの要因を挙げた。政府の大方針、政府やファンドによる資金の集中、EV(電気自動車)産業で築いたサプライチェーン、国営企業や地方政府の発注による需要喚起、そして完成度7割で市場に出し、品質は現場で高める姿勢だ。
その筆頭に挙げたのが、政府の大方針だ。
中国は2026〜2030年を対象とする第15次五カ年規画で、「具身智能(フィジカルAI)」を未来産業の1つに位置付けた。過去には、第13次五カ年規画(2016〜2020年)で名指しされた新エネルギー車(NEV)が、その後、主力産業へと成長した実績もある。須毛原氏は「政府が『この方向に行くんだ』と言うと、本当にそうなっていく。地方政府も方針やKPIに基づいて同じようなことをし、そこで成績を上げると上に行けるので、驚くほど同じ方向に進んでいく」と語った。
ただし、この5つはヒューマノイドを速く、安く、大量に作るための強さであり、実際の現場で「働ける」ロボットにするには、別の壁が残されていると須毛原氏は指摘した。
「脳」は買うしかない、「神経」と「感覚器官」は国内で
須毛原氏は、ヒューマノイドが働けるようになる上での課題を探るため、その構成を人の体になぞらえて“解剖”した。
機能の面から、情報を処理するコンピューティングを「脳」、各部へ指令を届けるコントロールを「神経」、関節を動かすアクチュエーションを「筋肉」、周囲の状態を捉えるセンサーを「感覚器官」、それらを一体化した統合システムを「身体」として整理し、それぞれの技術の現在地や各国の強みを見ていった。
このうち、脳に当たる機能は、大脳と小脳に分けられる。大脳に当たるのは、周囲を認識/判断し、行動を決める機能だ。須毛原氏は、その中身をAIモデルと、それを機体上で動かすAI演算ボードに分けて解説した。
AIモデルでは、言葉を扱うLLM(大規模言語モデル)に「目」を加えたVLM(Vision-Language Model、視覚言語モデル)、さらに「手足」を加え、動作まで出力するVLA(Vision-Language-Action Model、視覚言語行動モデル)へと技術が広がっている。中国ではLLMの性能が米国に迫る一方、ロボットを実際に動かすVLAは、まだ世界的に主導権が定まっていない。日本でも研究は進んでいるが、実機に搭載して公表されたVLAはまだ少ない。
こうしたAIモデルを動かすAI演算ボードでは、米NVIDIAの「Jetson」が事実上の標準になりつつあり、中国製ヒューマノイドでも搭載例が多い。中国では国産化も進められているが、日本にはロボット向けAI演算ボードを量産する企業がない。
小脳に当たるのが、姿勢や関節を制御する機能だ。大脳から動作の指令を受け、制御ソフトやサーボドライバが各関節を1ms級で制御する。クラウドとの通信を介していては間に合わないため、こうした制御は機体内で処理する必要がある。須毛原氏は、この小脳の制御を非常に大きな挑戦の1つに挙げる。
その小脳からの指令を各関節へ届ける神経に当たるのが、マイコンやパワー半導体などだ。ここでは必ずしも最先端の半導体が必要なわけではなく、日本にも有力企業が多い。また、感覚器官に当たるセンサーの素子にも日本は強みを持つ。須毛原氏は「脳は現時点では買うしかない。ただ、神経と感覚器官は国内で持てる」と説明した。
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