「解けなかった解析」を量子で突破できるか 三菱電機が挑む「量子CAE」:メカ設計インタビュー(3/4 ページ)
製品の高性能化/高機能化に伴い、CAEで扱うシミュレーションは大規模化、複雑化している。こうした中、三菱電機はQunaSysと共同で、CAEへの量子コンピュータ活用に向けた2つの基盤アルゴリズムを開発した。量子CAEは現在どこまで進んでいるのか。従来のCAEとはどのように使い分けられ、将来の設計/解析環境をどう変える可能性があるのか。三菱電機の研究者に話を聞いた。
「量子CAE」が得意なアプリケーションはまだ探索中
では、流体解析、熱解析、構造解析、電磁界解析などのうち、量子コンピュータが特に力を発揮するのはどの分野だろうか――。
実は、現時点で具体的なアプリケーションを絞り込める段階にはない。
村上氏は「『こういう性質を持った行列であれば量子コンピュータで効率的に解ける』という数理的な部分は徐々に明らかになりつつある。ただ、実際の設計課題から自然とその性質に合致する行列が導き出され、かつ、それを解くことが製品開発の価値につながるアプリケーションは何かという点は、世界的にもまだ未開拓で、われわれも探索している最中だ」と語る。
一方、量子コンピュータで効率化しにくい問題については見え始めている。高い性能を引き出すには、問題の構造自体に対称性や規則性など、全体を効率良く扱える数学的な構造が含まれている必要があるという。
例えば、完全にランダムな非構造格子(メッシュ)を扱う複雑な構造解析など、圧縮表現や規則性が存在しない問題では、量子コンピュータを使っても効率化が難しく、古典計算の方が適している場合がある。
「対象が持っている構造をどれだけ量子アルゴリズムに取り込めるか次第だ。量子に極めて適しており、かつ古典では解けない重い課題が、どの物理現象のどの設計部分にあるのかを、これから見定めていきたい」(村上氏)
「全てを量子で」は考えない――現実解は古典計算とのハイブリッド
量子CAEが実現しても、現在のCPUやGPUを用いたCAEがなくなるわけではない。三菱電機は、量子コンピュータが古典コンピュータを全面的に置き換えるのではなく、両者を適材適所で使い分けることを想定している。
「量子コンピュータは、良くも悪くも非常にピーキーで、得意/不得意が極端に分かれる計算機であることが研究を進める中で分かってきた。全ての計算が量子によって指数関数的に速くなるわけではない」(村上氏)
一方、特定のアプリケーションや計算プロセスでは、量子コンピュータが計算上のボトルネックを突破し、高速化につながる可能性がある。そのため、問題によって古典CAEと量子CAEを使い分けるだけでなく、1つの計算課題を分割して両者を組み合わせる形も考えられるという。
村上氏は「1つの大きな計算課題をブレイクダウンし、ここは古典コンピュータが処理し、最も重い行列計算のコア部分だけをアクセラレーターとして量子コンピュータに処理させるといった、“古典と量子のハイブリッド形式”が極めて現実的な形態になると考えられる」と説明する。
「夢のコンピュータ」が本当に使える技術なのかを見極める
三菱電機が現段階から量子CAEに取り組む背景について、福田氏は研究所として2つの観点を挙げる。
1つ目は、量子コンピュータという技術の本質やポテンシャルを見極めることだ。
福田氏は「少し前まで、量子コンピュータは“夢のコンピュータ”として、何でも魔法のように超高速で解けるかのように語られがちだった。しかし、われわれは研究所という立場なので、その技術が本当に製造業で使い物になる“本物”なのか、その限界も含めて冷静かつ科学的に見極める必要がある」と語る。
2つ目は、三菱電機として独自の価値や強みを出せる領域を獲得することだ。ただし、量子ハードウェアもアルゴリズムもまだ開発途上にあり、現時点で具体的なターゲットを1つに絞り込んでいるわけではない。
今回の成果には、量子アルゴリズムそのものだけではなく、量子コンピュータを実際にシステムとして利用する際に生じる課題に着目したことも関係している。
「理論的なアルゴリズムの研究は、大学などのアカデミアが非常に得意とする領域である。一方、実際にシステムとして使いこなし、実務に適用するフェーズで何が本当のボトルネックになるのかという課題意識を持ち、知恵を絞ることは、われわれのような産業界のエンジニアが担える部分だ」(福田氏)
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