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「自部門が良ければOK」を解消したクラレのINC、ニーズを取り逃さない機能とは素材/化学インタビュー(1/3 ページ)

国内のメーカーの中には縦割り組織の壁に悩む企業も少なくない。こうした課題の解消を進めるのがクラレだ。同社は、技術のサイロ化を防ぎ、社内外のネットワーキングを広げる組織「イノベーションネットワーキングセンター(INC)」を設立した。INCでは、素材のスペック売りに縛られず、顧客の潜在ニーズを具現化する「概念実証(PoC)」活動を展開している。インタビューを通して、INCの取り組みを深掘りする。

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 クラレグループでは、2022〜2026年度を対象とした中期経営計画「PASSION 2026」の中核施策の1つとして「ネットワーキングから始めるイノベーション」を推進している。その軸となるのが、社内外の人と人、技術と技術をつなぎ、新規事業創出を進める「イノベーションネットワーキングセンター(INC)」だ。

 INCは、2022年1月に立ち上げられた組織で、現在約80人のメンバーが所属している。同組織では、「自動車」「スポーツ&アウトドア」「電気/電子」といった産業領域ごとのセグメントマーケティングにより、市場起点の活動を強化してきた。

 クラレが創業100周年を迎えた2026年には新たな取り組みとして、つくば研究センターの概念実証(PoC)活動を本格化し、開発の初期段階から顧客と試作を通じた対話を行うことで、製品開発のスピードを高めている。

INCを中心にネットワーキングを推進
INCを中心にネットワーキングを推進[クリックで拡大] 出所:クラレ

 同社 イノベーションネットワーキングセンター マーケティング部アジアパシフィックマーケティンググループリーダーの大園達也氏に、INC設立の背景やミッション、PoC活動を本格化させた背景、PoCの効果、成功事例、今後の展開について聞いた。

既存製品を顧客に紹介する窓口機能はあくまで「はじめの一歩」

MONOist INCの立ち上げ背景やミッションについて教えてください。

クラレ イノベーションネットワーキングセンター マーケティング部 アジアパシフィックマーケティンググループリーダーの大園達也氏
クラレ イノベーションネットワーキングセンター マーケティング部 アジアパシフィックマーケティンググループリーダーの大園達也氏

大園達也氏(以下、大園氏) クラレグループは2025年12月末時点で、全体で約1万2000人の従業員が所属しており、そのうちの約40%が海外従業員となっている。2000年以降にグローバル化を加速し、現在は世界32カ国/地域に拠点を構えている。また、海外売上高比率が全体のうち約80%を占める形となっている。

 社内カンパニー/事業部制を採用しており、各カンパニーで異なる製品やサービスを扱っている。長年にわたり社内カンパニー制のもとで事業展開してきたが、この体制は各カンパニーが特定の製品や市場に注力できるという利点があり、事業成長を支えてきた。

 一方で、各カンパニーで技術やノウハウがサイロ化してしまうと、近年進化が著しいAI(人工知能)などによる情報活用が進まず、研究開発のスピードが上がりにくい。さらに、顧客から特定の事業部に寄せられたニーズに対し、他の事業部が有効なソリューションを持っていたとしても、十分に連携できず、全社最適で提案できないケースもあった。また、こうしたニーズに気付けないという課題もあった。

 そこで、INCが立ち上げられた。INCの狙いは、社内外のネットワークを広げることで、顧客との接点を増やし、ビジネスチャンスをつかむことにある。こうした活動を通じて、顧客とのコミュニケーションが活発化し、10〜20年後のイノベーションにつながる種を創出している。

 セグメントマーケティングにより既存の製品を提案し、興味を持った顧客を対象の事業部に紹介し、案件を進めてもらう。ただし、INCのミッションはイノベーションを起こし、新事業を創出することだ。そのため、クラレが展開する既存製品を顧客に紹介する窓口としての機能はあくまで「はじめの一歩」となっている。INCは、ネットワークを維持しながら、顧客からさまざまなニーズを得て、これに応える製品やサービスを紹介し、信頼を獲得する。そして、新事業の創出につながるようなニーズを顧客から共有いただくことを目標としている。

まず営業部のメンバーが「横串」の効果を理解

MONOist INCによるセグメントマーケティングはどのような効果を発揮したでしょうか。

大園氏 INCによるセグメントマーケティングの効果について時系列で説明する。INCの立ち上げ当初は、各事業部で「横串で何か生まれるのか?」「余計な仕事が増えるのでは」と考えている人が多かった。これは各事業が担当するビジネスにフォーカスしすぎていたためだ。

 当初、各事業の事業部長や部長にコンセンサスを取った上で、セグメントマーケティングを進めていた。しかし、INCのセグメントマーケティングに最初に関心を持ったのは各事業部の営業メンバーだ。INCがニーズに基づきクラレグループの製品を横断的に顧客に提案し、興味を持った顧客を営業部のメンバーに紹介することで、INCと営業部のメンバーとの関係が強固になっていった。

 営業部のメンバーも、最初はINCの効果に懐疑的だったが、INCが行う「横串」の意義を徐々に実感していった。顧客から自部門では対応できない製品や技術について相談を受けたことがある営業部のメンバーからは、「担当する製品しか知らなかったが、他の事業部の製品を勉強したい」という声も寄せられるようになった。

 こうした変化も後押しとなり、INC経由で顧客ニーズをさまざまな事業部に届けやすくなり、製品の売上高アップにもつながった。そして、各事業部長から好意的な意見を受け取る機会が増えていった。

 その結果、INCに対する社内の見方にも変化が生まれた。事業部長から相談や協力の要請が寄せられるようになり、顧客対応の場面でもINCが活用されるケースが増えた。一例を挙げると、「顧客企業の経営層が来社する際、自事業部の製品だけでなく、クラレグループの幅広い製品や技術も紹介し、当社の提案力を総合的に示したい」という依頼があった。INCではこうした要望に応え、事業部横断で情報を取りまとめ、より包括的な提案をすることで、顧客からも高い評価を得ているという。

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