売るのはパーティションではなく「間」、コマニーに見るモノづくり企業の「X」:製造業“X”探訪(7)コマニー(3/4 ページ)
多くの製造業がDXで十分な成果が得られていない中、あらためてDXの「X」の重要性に注目が集まっている。本連載では、「製造業X」として注目を集めている先進企業の実像に迫るとともに、必要な考え方や取り組みについて構造的に解き明かしていく。第7回は、パーティションのモノ売りから脱却し、「間づくり」というコンセプトを掲げ、空間提案で躍進するコマニーを取り上げる。
「間」を提案する営業体制が大きなプラスに
こうした工場内の空間やオフィスの「間」は、従業員の働きやすさを追求する中から生まれたものだ。そこでは、「製品」をどう使うかではなく、自分達が働いて幸せに感じる「間」とは何かの追求が先にあり、その実現のために、こういう製品が必要だという順番になっている。それは結果として、ユーザー視点に立った、新たな製品を生み出すことにつながっている。
塚本氏は「『間づくり』を掲げてから、顧客からの相談にじっくりと向き合うことができるようになった。『パーティションを売る』という発想で商談に臨むのではなく、顧客の要望の奥にある『どういう間を作りたいか』という原点を探り、それを実現するために、パーティションがもたらす空間イメージを提案する。その姿勢の変化が大きい」と語る。
コマニーの強みは、パーティションが生み出す価値を深くまで理解していることである。一般的には、パーティションが生み出す効果がよく知られていない中で、コマニーの持つ空間の価値提案とそれを作り出すパーティションの活用方法こそが、コマニーの競争力の源泉であるという。
ただ、そうした転換は簡単ではないように見える。一般的に「モノ(パーティション)売り」から、「コト(空間提案)売り」に転換する際は、営業の在り方も大きく変わる。売り方が変わるため、営業を担う従業員の研修強化も必要だ。企業として提供する価値を、社員それぞれが言語化できる必要があるためである。しかし、顧客と向き合う時間が長くなり、社員教育にかける時間や労力が大きくなれば、必要経費が増大し、会社の業績にはマイナスになるかもしれない。
ただ、塚本氏はその考えは逆だと指摘する。「パーティション売りに徹していれば、価格引き下げに飲み込まれ、薄利多売の競争に陥るだけだった。顧客のニーズに向き合い、それに応えることができれば、提案に対するトータルプロデュース力でも稼ぐことができる。加えて、顧客からの信頼感を得ることができれば、その顧客が行う注文全てを受けることにつながり、むしろ売り上げの増大につながる」と転換が大きなプラスにつながっていると塚本氏は強調する。
さらに、間仕切り専業メーカーとして空間提案をすることでメリットもあるという。「事務機器メーカーがこうした空間提案を行う場合、自社製品があるためにオフィス家具の提案に制約が出る場合がある。弊社の立場では、どの企業のオフィス家具も扱うことができるため、トータルプロデュースの幅が広がる。ケースにもよるが、かえって強みになっている」(塚本氏)という。
「間づくり」を支える変種変量生産のモノづくり力
「間づくり」を起点とし、顧客の潜在的な要望を実現していくためには、モノづくりとしての柔軟性などにも工夫が必要となる。
そもそもパーティションのモノづくりやサプライチェーンは、一般的な製品と特徴が異なる点がある。パーティションは製造や出荷などはオフィス家具と同じだが、建物内では建築物との接続が必要になる場合がある。
一般的なパーティションは、オフィス家具同様、その場に置くものだというイメージもあるが、現在ではパーティションの高さも上がり、天井や床に付設されるものも多くなっている。その場合、天井の高さは建物やフロアによって異なるため、標準品を設定することが難しくなる。
さらに、同じ部屋でも微妙に寸法が違う部分がある。これに色や素材感の違いなども加えるとバリエーションが無限に生まれてくる。実際に、建築物は平行や直角の精度がミリ単位でずれるケースや、排水を考慮して意図的に勾配をつける場合などもあり、これらに対応するパーティションを全て標準品として設計することは難しい。こうした形状のバリエーションにコストをかけずに合わせられる製品にする必要がある。
例えば、パネルを組み合わせて壁のようなパーティションを作る場合、天井高が異なるため、縦方向については個別対応が必要だが、横方向は標準サイズとしてパネル幅900mmと1200mmという標準品を用意し、最終的に余った部分だけ特注品ではめる形などを提案している。こうした形で、コストとのバランスを取れる工夫を行っているのだ。ただ、これらもユーザーの要望次第となり、パネルサイズを均一にしたいという要望があれば、それらへの対応も必要になる。典型的な変種変量生産が必要な事業だといえる。
変種変量生産に対応するには、生産ラインの組み方、生産計画の立て方など多くの課題がある。パーティションは先述した通り、建物に応じた個別対応が基本である。その際、現場での採寸や、それに合わせた製品設計などを生産前に実施する必要があるが、この作業に与えられる時間は、建物が「新築」の場合に比べて「リニューアル」物件の方が圧倒的に短い。ただ、コマニーの「間づくり」が真価を発揮するのは、こうしたリニューアルでも新たな空間価値を生み出したいニーズに応えるもので、結果的に厳しい条件をクリアする必要がある。
そこでコマニーが進めたのが、生産前工程の迅速化だ。リニューアル案件を多くこなすうちに積み上げたノウハウを生かし、顧客ニーズに応じた設計や製造の段取りづくりを効率的に素早く行えるようにした。
多様な顧客ニーズに応えながら短納期生産を進めるには、できる限り標準モデルを活用するか、過去に実績のある製品との類似性を判別し、既存の設計図を流用して現場の生産工程や生産計画に反映できるようにするなど、いくつかのポイントがある。コマニーでは、こうした対応を設計から製造までの工程情報のデジタル活用を進めることで、効果的に行えるようにしているという。
製造業のデジタル化では、工場現場の無人化、自動化だけを志向するものが取り上げられがちだが、工程全体を捉えれば、その前段階である、企画/設計段階から生産工程設計までにデジタル活用を行い、後工程でのトラブルや手戻りを防ぐフロントローディングの取り組みが重要だ。コマニーの取り組みはまさにこのフロントローディングで多様性と効率性の両立を実現しているといえる。
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