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G7が主導する「AIBOM」の国際標準化と欧州AI/デジタルヘルス規制の関係性海外医療技術トレンド(135)(2/3 ページ)

本連載第132回で米国のAIサプライチェーン管理策としてSBOMからAIBOMへ進化しつつある動向を取り上げた。今回は、EUのAI法、サイバーレジリエンス法、欧州保健データスペース(EHDS)規則などの適用が同時並行で進む欧州の視点から、AIBOMの方向性を整理する。

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AIのためのSBOMのクラスタとの連携が強化された「SPDX」プロジェクト

 従来のソフトウェア主導だったSBOMを、AIモデルや学習データ、インフラ環境、セキュリティまで拡張するAI向けSBOMの技術仕様標準化において、重要な役割を担っているのが、オープンソースコミュニティーや国際的な非営利団体である。

 例えば、Linux Foundation傘下でSBOMの国際標準規格を推進する「SPDX(Software Package Data Exchange)」プロジェクト(関連情報)は2024年4月16日、「SPDX 3.0」のリリースを発表した(関連情報)。

 従来のSPDX 2.xは、ソースコードやバイナリといったパッケージソフトウェアを前提とした1次元的なデータモデルであったが、SPDX 3.0へのバージョンアップにより、アーキテクチャのモジュール化(プロファイル構造)、AI/ML(機械学習)モデルおよびデータセットへの対応、セキュリティと脆弱性対応(VEX統合)、ビルド工程とサプライチェーン追跡の強化、運用の合理化とエコシステムの拡大など、AIBOMを想定した機能の拡充を行った。その結果、G7の「AIのためのSBOM」を構成するクラスタとSPDX 3.0のプロファイルやクラスの関係性が大幅に強化されている。

 クラスタのうち「3.モデル」に関連して、SPDX 3.0から新たにAI Profile(AI_AIModel クラス)が定義され、モデルのハイパーパラメータ、モデルアーキテクチャ、自律性のタイプ(ai:autonomyType)、モデルカードへの参照などが標準フィールドとして記述可能になった。

 また、「4.データセットのプロパティ」に関連して、SPDX 3.0から「Dataset Profile」および「新リレーションシップ」が導入された。Dataset Profile(Dataset_Datasetクラス)により、データ収集プロセスやデータサイズ、機密性区分(dataset:confidentiality)を定義できるようになった。さらにCore_Relationship において、TRAINED_ON(〜で学習された)や GENERATED_FROM(〜から生成された)といったAI専用の依存関係が定義可能になっている。

 このようにSPDX 3.0を契機に、従来の単なるソフトウェアライセンス管理やSBOMの枠組みを超え、AI/ML、データセット、セキュリティ脆弱性(VEXなど)、機能安全といった複雑なAIシステム全体をカバーする包括的なモデルへと発展している。

SBOMからAIサプライチェーン、耐量子暗号へと進化する「CycloneDX」

 他方、OWASP傘下でソフトウェアサプライチェーンの透明性とセキュリティを強化するSBOMの国際標準規格を推進する「CycloneDX」プロジェクト(関連情報)は2023年6月26日、「CycloneDX v1.5」のリリースを発表した(関連情報)。CycloneDX v1.5では、AI/MLモデルを記述するためのコンポーネントタイプ(machine-learning-model)が追加され、GoogleやHugging Faceなどで使われるモデルカード(Model Card)の概念がスキーマに統合された。これにより、モデルの基本情報、アーキテクチャ、ハイパーパラメータ、倫理的配慮、評価指標などを記述できるようになり、AIBOM機能が初めて実装されたバージョンとなった。

 さらにOWASPは、2024年4月9日、「CycloneDX v1.6」のリリースを発表した(関連情報)。CycloneDX v1.6では、以下のような機能が強化されている。

  • データセット(type:data)が独立したコンポーネントとして拡張:学習/検証/テスト用データセットの属性、機密性、データガバナンス(PIIの有無など)を詳細に定義できるようになった
  • データ/モデル/アプリの依存関係(リネージ)の追跡:「どのデータで学習されたモデルが、どのアプリに組み込まれているか」をひも付け可能になった
  • 環境負荷(CO2、エネルギー)の可視化:学習/推論時の電力消費やCO2排出量をトラッキングするプロパティが追加された

 このような機能強化により、CycloneDX v1.6は、G7の「AIのためのSBOMの最小要素」を、包括的かつ機械読取可能なデータ形式(JSON/XML)でフルカバーできる標準規格となっている。

 そして、CycloneDX v1.6は、従来の「ソフトウェア部品表(SBOM)」「ハードウェア部品表(HBOM)」「SaaS部品表(SaaSBOM)」「AI/ML部品表(AI/ML-BOM)」に加え、「暗号部品表(CBOM)と、セキュリティコンプライアンス(規格適合、規制準拠)の証明手続きをデータ(コード)として機械読取可能な形式で標準化/自動化する技術フレームワークである「サイクロンディーエックス・アテストステーション(CDXA)」を統合した包括的な規格へと進化した。これにより、AIやポスト量子暗号の時代における先進的なサプライチェーンリスク管理と自動化を実現するとしている。

 その後2025年10月21日、OWASPは「CycloneDX v1.7」のリリースを発表した(関連情報)。CycloneDX v1.7では、以下のような機能が強化されている。

  • 高度な暗号資産管理:
    v1.6で導入されたCBOMをさらに進化させ、量子耐性暗号(PQC)への移行準備を強化した
  • 知的所有権とライセンスの透明性強化(IPBOM:Intellectual Property BOM):
    ソフトウェアコンポーネントに含まれるライセンス、著作権情報、特許、知的所有権(IP)に関連する依存関係をより正確に構造化、記述できるよう拡張された
  • データ来歴とAIサプライチェーンの透明性:
    AI/MLモデルの学習やアプリケーションで利用されるデータセットの起源、収集元、変更履歴、処理プロセス(パイプライン)を正確に可視化・追跡する機能を強化した
  • 国際標準化とエコシステムの拡大:
    標準化(Ecma International[TC54])およびISO/IECにおける国際標準化プロセスと整合性を保ちながら開発が進められている

 このようにCycloneDX v1.7では、PQC対応を進めるCBOMの高度化、ソフトウェアのライセンスや著作権リスクを管理するIPBOMの強化、ならびにデータセットやAIモデルの出自を担保するデータ来歴機能の拡張が実現されている。

 OWASP傘下には、生成AIおよびLLM(大規模言語モデル)の急速な普及に伴うセキュリティリスク、プライバシー問題、ガバナンス課題に対処するための国際的なオープンプロジェクトを行う「生成AIセキュリティプロジェクト(OWASP GenAI Security Project)」(関連情報)があり、その中の「OWASP AIBOM」イニシアチブ(関連情報)では、2026年第3四半期から「AgBOM:エージェンティック部品表」(関連情報)という作業部会がスタートした。2027年第2四半期までに「AgBOM v1.0フレームワーク」およびその実装ガイダンスを発行する計画である。

 なお欧州委員会は、2026年6月3日に発表した「技術主権パッケージ」提案(関連情報)の一環として、「EUオープンソース戦略」(関連情報)を打ち出し、オープン開発コミュニティーへの支援を通じて、ベンダーロックインを防ぎ、EU域外の技術への過度な依存を減らしてイノベーションを促進する姿勢を鮮明にしている。

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