常識を覆す「ガラス」活用! 300℃でコンデンサーを安定稼働可能な新材料:素材/化学インタビュー(1/2 ページ)
東京都立産業技術研究センター(都産技研)は、ガラスと酸化物の反応を逆手に取り、高温コンデンサー向けの誘電材料を開発した。300℃までの誘電率の変化率が小さく、電気自動車(EV)のエンジンルームやプラントなど、過酷な環境での動作を可能にする。同材料の開発背景や特徴、今後の展開について、都産技研に聞いた。
自動車のエンジンルーム内のような高温環境でも、信頼性高く動作するコンデンサーの実現に向け、200℃までの温度範囲で誘電率の変化が小さい誘電材料が求められている。一方、コンデンサーに使用されるチタン酸バリウム(BaTiO3)系の誘電材料は、優れた誘電特性を示すことから、幅広い分野で利用されている。
しかし、同材料は、120℃以上の温度域で誘電率が著しく変動するため、高温での誘電特性の改善が課題だった。これらの課題を解決し得る誘電材料として、リン酸ニオブ酸系の誘電材料「PNb9O25」が存在するが、一般的な合成方法では、異常粒成長や酸素欠損が生じやすく、絶縁性の低下や高温での誘電率の安定性の悪化が課題となっていた。
そこで東京都立産業技術研究センター(都産技研)は、ベース材料にPNb9O25を用いて、300℃までの温度域で安定した誘電率を示す「ガラス複合型誘電材料」を開発した。
都産技研 化学応用技術部 材料技術グループ 研究員の嶋村圭介氏に、ガラス複合型誘電材料の開発の背景や苦労、特徴、用途、今後の展開について聞いた。
「逆算的なプロセス」がブレークスルーに
MONOist 今回、300℃という非常に高温な環境で動作するコンデンサー用材料の開発に着手した背景や、現在の産業界から寄せられている具体的なニーズについて聞かせてください。
嶋村圭介氏(以下、嶋村氏) 電気自動車、発電設備、宇宙航空機器などでは、高温/過酷な環境で安定して動作し、安全性が高いコンデンサーが必要だ。従来のコンデンサーに用いられるチタン酸バリウムは、耐熱温度が120℃程度であり、耐熱温度を向上させたものでも150℃程度(X8R)である。さらに高温でも安定して稼働するコンデンサーを実現する材料を目指し、ガラス複合型誘電材料の開発に取り組んだ。
MONOist ベース材料にPNb9O25を選んだ理由と、PNb9O25の弱点(酸素欠損や異常粒成長)をどう捉えていましたか。
嶋村氏 PNb9O25は、誘電体として興味深い特性を有するため着目した。しかし、一般的な合成方法で合成すると、温度が上がると酸素欠損による誘電特性の悪化や電気伝導度の上昇が起きたり、異常粒成長によって緻密に材料を構築できずに特性が劣化したりする課題があった。これを解決するため、PNb9O25と非晶質を複合化することで絶縁性を確保するという着想に至った。
MONOist PNb9O25と非晶質を複合化することで絶縁性を確保するというアイデアはどのように生まれたのでしょうか。
嶋村氏 これまで「結晶化ガラス(ガラスを熱処理して結晶を析出させた材料)」の研究を行っていたというバックグラウンドが生きた。誘電体結晶とガラスの複合化は、絶縁性の向上に有効であることが知られている。例えば、高電圧にも耐えられる結晶化ガラスが研究され、高電圧コンデンサー用誘電体として製品化されたものもある。一方で、従来の結晶化ガラスの作り方では、誘電体結晶の体積分率を十分に高めることが難しく、絶縁性が向上する代わりに誘電率が低下してしまうことが課題であった。このため、誘電率と絶縁性を両立させる方法はないか、という視点が着想のきっかけとなった。
MONOist PNb9O25の一般的な合成手法では、原料混合→仮焼→粉砕→成形→焼結という複数の工程が必要でしたが、ガラス複合型誘電材料では、混合→成形→焼結というシンプルな合成プロセスになっています。この合成プロセスを確立するまでに直面したハードルや、それをどう乗り越えたのかを聞かせてください。
嶋村氏 ガラスと酸化物の混合物を焼結時に反応させ、目的の誘電体結晶を合成するためには、ガラスと系全体の組成設計が重要だ。特に、ガラス組成がポイントとなり、どの成分を結晶に、どの成分を非晶質に使うか、各成分の役割を決めて組成設計する必要がある。
研究を進める中で、この設計思想は、自身がこれまでに行ってきた結晶化ガラスの研究に近いことに気付いた。結晶化ガラスは、前駆体となるガラスを作製し、熱処理によってガラス中から結晶を析出させた材料である。これまでの研究でも、「この成分は結晶を構成する成分」「この成分はガラスネットワークを形成する成分」「この成分は結晶化を促進する成分」というように、それぞれの役割を考えながらガラス組成を設計してきた。
こうした経験から、まず目標とする物性/特性を定め、そこから必要な材料構造を考え、さらに組成や合成プロセスの設計へと落とし込んでいく、いわば逆算的な材料設計の経験とノウハウが、今回のガラス複合型誘電材料の設計を進める上で大きな助けとなった。
MONOist 絶縁性を高める構造を実現するに当たり、最も苦労した点は何ですか。
嶋村氏 「着想」そのものが一番のハードルだった。非晶質をうまく使おうという考えはあったものの、どのように使えばよいか、どのように材料として作るかを模索していた。また、誘電体分野では一般に、ガラスは誘電率を低下させる成分として考えられてきたため、非晶質をうまく使いたいという考えとは裏腹に、非晶質との複合化には積極的に踏み切れなかった。
そこで発想を転換し、ガラスを単に残存する成分として捉えるのではなく、材料特性の向上につながる役割を持たせることはできないかと考えた。結果的に「結晶と非晶質の両方の良いところを活用する」という発想にたどり着いたことが、今回の材料開発につながった。
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