フィジカルAIとヒューマノイドの可能性、PFNの見立てとトヨタのアプローチ:インテル・ロボティクス・ワークショップ2026【後編】(2/3 ページ)
「インテル・ロボティクス・ワークショップ2026」のレポート記事をお送りする。今回の後編では、ヒューマノイドとフィジカルAIをテーマにした、三菱UFJ銀行、Preferred Networks(PFN)、トヨタ自動車 未来創生センターの講演内容を紹介する。
ロボットでブレークスルーが起きるのは5年後? フィジカルAIの現状と課題
生成AIの急速な発展と比較し、フィジカルAIの進展が緩やかである最大の理由は「学習データの性質」にある。海野氏は自然言語処理の研究の歴史を振り返り「最近のトレンドはラベルがないデータの活用にある」と述べる。以前は、データを収集するだけでなく、ラベリングのためのアノテーション作業が大変だとされていたが、その話はいつの間にかなくなった。アノテーションなしのデータを使った学習でもAI性能を出せるようになったからである。つまり、LLM(大規模言語モデル)は、ネット上のラベルなしデータを活用できるようになったことで、巨額の資本を投じて計算機を回せば性能が向上する「資本の勝負」に持ち込めるようになったのである。
ネット上にブログやSNS、動画などを投稿した人たちは、生成AIのためにデータを投じたわけではない。あくまで自分たちの個人的な楽しみのために投稿していた膨大なデータが、副次的な効果として学習データとして利用されるようになったのである。
しかし、「ロボットの関節角データを見て楽しいと思う人はいない」(海野氏)。インターネット上には、フィジカルAI用の「関節角度のデータ」や「触覚データ」は存在しないのだ。それらは能動的に作成しない限り蓄積されないため、生成AIのような爆発的なスケールアップが困難である。これがボトルネックになっている。
そこでいったんインターネット上でのデータ収集は諦めて、リーダーフォロワー方式やハンドの位置や動きなどに限定した能動的なデータ生成、シミュレーションと計算機を活用した仮想空間でのデータ生成など、物理データ以外の情報を活用してアクション予測に結び付ける研究などが進んでいるというのが現状である。
フィジカルAIの開発でデファクトスタンダードとなるような手法は確立されておらず、解けていない問題も多い。海野氏は「フィジカルAIはいわば2015年の自然言語処理に近い状況にある。さまざまな手法を試行錯誤している“カオス感がある”段階で、資本の勝負に持ち込める段階には至っていない」と語る。そして、自然言語処理において2022年11月に「ChatGPT」が登場するまでにかかった期間から考えると、フィジカルAI分野で同様のブレークスルーが起きるには「あと5年程度の期間が必要なのではないか」と述べた。つまり「資本の勝負よりは、まだ工夫の勝負の段階にある」(海野氏)という。
また、ハードウェアの進化には物理的な制約がありソフトウェアよりも遅い。海野氏は「ハードウェアの領域こそが、日本の製造業の強みが生きるチャンスになる可能性があるのではないか」と強調する。特に、マニピュレーション領域における「勝ち筋」の発見に向け、データ収集と学習手法の両面における研究の進展が今後の5年間を左右することになるとした。
「人間に寄り添うパートナー」としてのロボット開発
トヨタ自動車 未来創生センター R-フロンティア部 ヒューマノイドロボティクス研究領域 ソーシャルロボティクスグループ長の森平智久氏は、未来創生センターでの「人間に寄り添うパートナー」としてのロボット開発について紹介した。
未来創生センターは、トヨタ自動車の車両開発に属さない研究組織と生産部門のパートナーロボット部を統合して約10年前に設立された。従来の枠組みにとらわれない研究風土を持ち、身体性、実用性、社会性の3つの軸でロボット開発を行っているという。同センターではロボットを「単なる便利な道具」ではなく、人間と良い関係を保ちながらコミュニケーションし、ともに歩む「パートナー」として開発している。
森平氏はまず、バスケットボールロボット「CUE」シリーズを紹介した。もともとは2017年に社内有志によるインフォーマル活動としてスタートしたが、その後、業務として正式採用されたものだ。最新版の「CUE7」はプロバスケットボールBリーグのハーフタイムショーで披露され、強烈な照明条件の環境下で、学習に基づいたアルゴリズムを用いたバスケットボールゴールへのシュートを実演した。フリースローの連続成功回数や最長距離シュートでギネス記録を持っている。技術的には、車両技術の応用に基づくネオジム磁石を採用したトヨタ製モーターや、強化学習による運動制御を特徴としている。
ロボットの「身体性」を最大限に引き出すためのアプローチとして、ロボットの全体的なレイアウトや配置を最適化する「構造最適化」と、関節1つ1つの具体的な構成や仕組みを最適化する「機構最適化」の研究が紹介された。構造最適化によってジャンプするロボットの運動性能向上などが可能になり、機構最適化によって必要な運動性能を維持しながらピークトルクを抑えることなどが可能になるという。構造や機構を複雑に最適化すると、従来の物理モデルによる数式化が困難になり制御が難しくなるため、従来は避けられる傾向にあった。しかし、複雑な機構であっても、それをリアルタイムに同定してシステムの状態を推定することで、正確に制御できる手法を合わせて研究している。
トヨタ自動車ではこれらの最適化に加えて「強化学習による運動性能の向上」や「高出力アクチュエーターの開発」という3つの柱を循環させることで、身体性を巧みに使いこなせるロボットの実現を目指している。
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