弱い部分が1箇所でもあると台無しに、シール塗布装置の失敗事例:冴えない機械の救いかた(10)(2/4 ページ)
本連載「冴えない機械の救いかた」では、メカ設計の失敗事例を題材に、CAE解析や計測技術を用いて、不具合の発生メカニズムとその対策を解説していく。第10回は、液晶パネル製造用のシール塗布装置で発生した塗布不良を取り上げる。振動測定とシミュレーションから、コラムの首振りを引き起こした剛性弱点を突き止めていく。
振動形状の可視化
塗布くびれが発生する原因として、前述した4つの可能性が考えられました。
このうち(1)と(2)については、サーボモーターのエンコーダーパルス信号を確認したところ、少なくともモーターの動作に大きな異常がないことが分かりました。
ということは、(3)のコラムの振動と、(4)の液晶基板を載せる台の振動が原因候補として残ります。取りあえず、実機の振動を測定することとしました。
図5に測定箇所を示します。実機のデータを載せることはできないため、図5以降は筆者が当時の記憶を基に作成した画像とシミュレーション結果です。
振動測定には加速度ピックアップを使います。
ただし、当時から筆者は、「問題となっているのは振動変位なのだから、加速度ピックアップの出力である加速度を見るだけではなく、振動変位に変換する必要がある」と考えていました。この点は、読者の皆さんにも理解していただきたいところです。
読者の皆さんも、振動測定に加速度ピックアップを使うことが多いと思います。しかし、問題としている現象が振動変位であるにもかかわらず、加速度だけを見ていると、誤った対策を立案してしまう可能性があります。
このような間違いは、測定データをFFTアナライザで周波数分析した際、着目すべき、つまり対策すべき振動周波数帯域を誤ることで発生します。
詳しくはいずれ説明しますが、通常の振動対策では振動変位に、騒音対策では振動速度に変換して評価する必要があります。加速度信号の変換方法は、以前のシリーズでも紹介しました。
図6に振動測定方法を示します。
加速度ピックアップは、X方向、Y方向、Z方向の振動を測定でき、サイコロのような形をしています。
一般的な加速度ピックアップの価格が10万円ちょっとだったのに対し、この3軸加速度ピックアップは40万円くらいしたと記憶しています。
当時もノートPCはありましたが、現在ほど高性能ではありませんでした。そのためUSBケーブルではなく、RS-232Cケーブルを使い、2chデジタルオシロスコープ(分解能8bit)に記録した波形データをPCへダウンロードしていました。
現在ではUSBタイプの16bitデジタルオシロスコープが簡単に手に入るため、それを前提とした絵に描き換えています。
話は少しそれますが、子どものころ、母親に「あれ買って!」と言うと、「弘法筆を選ばず」とよく言われていました。
入社当時に使用していたFFTアナライザの周波数分解能は256しかありませんでした。もっとも、HP製で2000万円以上する装置でしたが……。ここで使用した8bitのオシロスコープも256階調しかなく、量子化誤差が目立ち、性能的には非力なものでした。ただ、それでも十分に仕事ができたことを考えると、母の言うことは正しかったように思えます。
デジタルオシロスコープのch1には、基準となる加速度信号を入力し、これをトリガー信号として使用します。そうすることで、多数の測定点の信号を、あたかも同時に測定したかのようなデータが得られます。
図7に測定データの一例を示します。これらの波形をプリントし、会議室の机いっぱいに並べて、皆で「やっぱり、コラムが首を振っているよな」などと議論していました。このときは、この判断を基に装置の改造へ進みましたが、後に振動形状そのものの可視化も行いました。
筆者が若いころ、社内研修で教えてもらった実験モーダル解析の手法を使って、測定データを周波数分析し、「Visual Basic」でソフトウェアを作成して、振動モード形状をアニメーション表示しました。
これによって、コラムが首振り振動を起こしていることを裏付けました。
ただし、今回の振動は、液晶基板上の塗布軌跡が角部を通過するときだけ発生する一過性の現象です。そのため、周波数分析したデータだけでなく、図7に示したデータを使い、振動形状をスローモーション表示するソフトウェアも作成しました。そのアニメーションを動画1に示します。
「う〜ん。コラムが首を振っていることは分かるが、装置全体の前後振動が目立って、少し分かりにくいな」と思いました。そこで、振動変位の時間軸波形から低周波成分を除去するプログラムを追加しました。ハイパスフィルターですね。その結果を動画2に示します。これで、コラムの首振りが一目で分かる、説得力のあるアニメーションができました。
このアニメーションが完成した時点では、対策のための装置改造は既に終わっていました。
しかし、シール塗布装置の後継機や、その後のメカトロ機器の開発では振動変位を測定し、スローモーション表示して振動形状を可視化することと、振動変位が問題を顕在化させるレベルにないことを確認することが習慣になりました。
いずれ「モーダル解析には2つある」の回で、ハンマリングによる実験モーダル解析は得るものが少ない、という趣旨のことを書く予定です。その際、実機を稼働させた状態の振動をスローモーション表示する利点についても、もう少し詳しく説明します。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


