触媒の活性向上:燃料電池と構成材料の基礎知識(4)(4/5 ページ)
本連載では、水素を燃料として発電する「燃料電池」について、基本事項から技術開発動向までを、技術系の方でなくても理解できるように解説していきます。第4回では、前回解説した電極触媒の基本事項から発展して、電極触媒の活性向上をどのように図ってきたのか、特に「比活性」という指標に着目して説明していきます。
5.コア−シェル(core-shell)型触媒の登場
ここまでは、Pt触媒の活性をどのように向上させてきたかの経緯を説明してきました。Ptは貴金属元素の1つであり、連載の最後に触れる予定ですが、Ptの資源量は希少であり、年間生産量も限られています。そのため価格が非常に高く、これはPEFCのコストに影響します。
Ptの使用量を減らすための方策の1つとして考えられたのが、図6に示した「コア−シェル型触媒」になります。カーボンに担持されたPt粒子は、ナノスケールの大きさであることを既に説明しました。ナノスケールの微小な粒子ではありますが、触媒反応はPtの表面で進行するため、粒子内部のPtは基本的に反応に寄与しません。
Ptナノ粒子の内部の使われていないPtを他の元素で置き換えることができれば、Ptの使用量を大幅に減らすことが可能となります。図6右には、粒子の表層(シェル:shell)をPtとして、内部(コア:core)を別の元素で構成する「コア−シェル型触媒」のイメージを示しています。卵の中身と殻の構成に似ていることから「エッグシェル型触媒」と呼ぶこともあります。
図6のように絵で描くのは簡単ですが、実際にこのようなコア−シェル型粒子を作製できるのでしょうか? 実は、例えば各種貴金属(Au、Pd、Ruなど)の単結晶を電極基材に見立てて、ここにPt層を1原子層だけ形成させたモデル電極を作製して、その電極の酸素還元反応を測定するという研究が昔から行われていました[参考資料5]。そのように作製された単原子Pt層の酸素還元活性は大きく向上することが見いだされています。
単原子Pt層の作製法の詳細は割愛しますが、単結晶基材の表面に「アンダーポテンシャル析出(under-potential deposition:UPD)」という手法で初めにCuの単原子層を形成させます。その後Ptイオンを含む溶液を加えることでCuとPtイオンの置換反応が起こり(イオン化傾向の違い)、最終的にPtの単原子層が形成されます。
この手法を応用して、カーボン担体上に担持したPdナノ粒子の表面にPt単原子層を形成させたPtML/Pd/C触媒(ML:Mono Layer)を調製し(触媒を作製することを専門用語で「触媒調製:Catalyst Preparation」と呼ぶ)、Pt/Cに比べて非常に高い酸素還元活性を示すことが報告されています[参考資料6]。この結果は、米国DOE(Department of Energy:エネルギー省)のプロジェクトで実施されたものです[参考資料7]。
日本においても、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトでコア−シェル型触媒の開発が行われました[参考資料8]。図7Aに示した通り、当初はPdのナノ粒子上にCu単原子層を上記UPD法にて形成し、最終的にPtイオンの溶液を加えて、CuとPtのイオン化傾向の違いを利用してCuとPtを置換させています。
図7 コア−シェル型触媒の作製イメージと実際の酸素還元活性[クリックで拡大] 出所:NEDO平成27年度成果報告会、固体高分子形燃料電池実用化推進技術開発/基盤技術開発/低白金化技術、要旨集No. F1-1-2
実際に酸素還元活性を測定すると、図7Bに示した通り、ある条件下で活性化処理が必要ですが(図中の「高活性化プロトコル」)、最終的にPt/C触媒の4倍の活性が得られました。耐久性についてもPt/C触媒よりも優れている結果でした。
活性向上の要因として、コアのPd原子とシェルのPt原子の大きさの違いによりPtシェルの原子間距離が変化し、結果的にPtの電子状態が変化したことが考えられます。また、先のPt合金触媒の活性向上の説明と同様、PtシェルとPdコアとの電子的な相互作用によりPtの電子状態が変化したことも考えられます。
このコア−シェル型触媒を実際の燃料電池スタックに実装するには、低コストで大量生産することが必要となります。Cu-UPD法を省いたPd-Pt間直接置換法や連続生産プロセスなど、産業界でも、触媒メーカー各社が大量生産に向けた検討を進めていました。しかし、次のような課題もあります。
- コア材料のPdは貴金属であり、一時期からPdの価格が上昇してきている
- コア材料を安価な金属元素にすることはハードルが高い(製造および安定性の観点)
- 製造プロセスのコストが高い
- 大量生産が難しい
コストの高さや生産性の低さなどが大きな課題で、現時点では広く実用化された例は確認されていません。
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