周波数を使って熱電対センサーの測定値を安価な電線でより遠くまで伝送する:注目デバイスで組み込み開発をアップグレード(35)(2/2 ページ)
「センサーの値を遠くまで届ける」をテーマにした新シリーズの第3回。第2回では熱電対センサーの測定値を、安価な電線を使って10m程度離れた距離から確認できるようにした。今回は同じく安価な電線を使って測定値をより遠くまで伝送する方法を検討する。
検証システム
図4に、マルチメーターに表示された周波数と、MAX6675がArduinoに渡した測定値が一致するかを検証するシステムの構成図を示します。
この検証システムでは、MAX6675が測定し得る範囲内で正しく温度の値が周波数に変換されているかを検証するため、MAX6675には熱電対センサーの代わりに疑似的に可変抵抗(VR)を用いて任意の起電圧を発生させて検証することにしました。
PCにはMAX6675が計測した温度の測定値が表示されます。これとマルチメーターの値を比べます。筆者が試したマルチメーターの場合、高い温度になると1〜2℃程度高めに表示されることがあるものの、百分率で小数点以下の誤差に収まっているようです。
電圧と周波数、選択の勘所
前回は電圧による測定値の伝送、今回は周波数による伝送でしたが、どちらを選ぶべきか、その選択の勘所をまとめておきます。
電圧伝達(アナログ信号)
センサーが出力する値をそのまま電圧レベル(例:0〜5V)として伝達する方式です。
利点
- シンプルで低コスト:センサーの値をそのまま出力するだけで済むため、回路構成が簡単で、低コストで実現できます
- 高速な応答性:信号の変換時間がほとんどないため、非常に速い応答が求められるシステムに適しています
- 高精度な表現:電圧レベルの分解能を上げれば、理論上は無限の精度で連続的な値(アナログ値)を表現できます
欠点
- ノイズに弱い:伝送中にケーブルが電磁ノイズや地絡(グランドループ)の影響を受けると、電圧レベルが変動し、測定値にそのまま誤差となって現れます
- 伝送距離の制限:ケーブルが長くなるほど抵抗や静電容量が増え、信号が減衰したり波形がひずんだりするため、長距離伝送には不向きです
- 測定機器の制約:受信側(マイコンなど)で高い精度を得るには、高性能なA-Dコンバーター(ADC)が必要になります
周波数伝達
センサーの値を、信号の周波数(またはパルスの時間間隔)に比例させて伝達する方式です。
利点
- ノイズに極めて強い:周波数(またはパルス間隔)で情報を伝達するため、信号の電圧レベルがノイズで多少変動しても、周波数が変わらない限り、データを正確に復元できます。長距離伝送やノイズの多い環境(FA現場など)で非常に有利です
- 伝送距離の延長:ノイズ耐性が高いため、比較的長いケーブルを使っても信頼性の高い通信が可能です
- 高精度なデジタル化:受信側で周波数を正確にカウントするだけで済むため、複雑で高価なADCは不要で、タイマー回路で高精度なデジタル値に変換できます
欠点
- 回路の複雑化:センサーの値(電圧など)を安定した周波数に変換するV/Fコンバーター(電圧−周波数変換器)が必要になり、回路がアナログ信号伝達よりも複雑化し、コストも上がります
- 応答性の低下:V/Fコンバーターを用いた変換を行うための時間が必要であり、電圧伝達方式に比べると応答速度がわずかに遅くなる可能性があります
- 分解能の制限:高い分解能を得るためには、周波数を正確にカウントするための長い時間(サンプリング時間)が必要となり、これが応答速度のさらなる低下を招くことがあります
比較の要点
表1に電圧伝達と周波数伝達の比較を示します。
| 項目 | 電圧伝達(アナログ信号) | 周波数伝達 |
|---|---|---|
| ノイズ耐性 | 低い(ノイズが誤差に直結) | 高い(ノイズが周波数に影響しにくい) |
| 伝送距離 | 短距離向き | 長距離向き |
| 回路の複雑さ | シンプルで安価 | V/Fコンバーターが必要で複雑(ただし今回の場合、もともと備わったマイコンを利用するのでこの限りではない) |
| 応答速度 | 速い | やや遅くなる傾向がある |
| 主な用途 | 近接測定、単純なフィードバック | FA、リモートセンサー、ノイズ環境 |
| 表1 電圧伝達と周波数伝達の比較 | ||
どちらを選ぶかは用途によって決まります。工場のようにノイズが多い環境や長距離伝送が必要な場合は周波数、センサーとマイコンが近く単純な読み取りがメインの場合は電圧が適しています。
おわりに
前回の電圧による伝送と今回の周波数による伝送について、方法やそれぞれの利点/欠点を検討しました。組み込み開発の業務において、特に工場や屋外、さまざまな施設内をフィールドとしている皆さんには、センサーの値を伝送する案件が多々あろうかと思います。コストとのトレードオフや信頼性、パフォーマンスがどこまで求められるか、さまざまなファクターを考慮して解を見いだすのも組み込みエンジニアにとって大切です。今回の事例を参考にしてみてください。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- ≫連載「注目デバイスで組み込み開発をアップグレード」バックナンバー
- ≫連載「空間伝送で学ぶ光通信入門」バックナンバー
熱電対センサーの測定値を安価な電線で伝送しアナログメーターに表示する
「センサーの値を遠くまで届ける」をテーマにした新シリーズの第2回。第1回で薪ストーブに取り付けた熱電対センサーについて、その測定値を安価な電線を使って10m程度離れた距離からアナログメーターで確認できるようにする。
IoTとは何かを問いただすため、まずは薪ストーブに熱電対センサーを取り付ける
注目デバイスの活用で組み込み開発の幅を広げることが狙いの本連載。今回から、IoTとは何かを問いただすことを目的に「センサーの値を遠くまで届ける」をテーマにした新シリーズを始める。そのモデルケースとして、まずは薪ストーブに熱電対センサーを取り付けるところから始める。
USBシリアル変換モジュールが必要なら、代わりにArduinoを使えばいいじゃない
注目デバイスの活用で組み込み開発の幅を広げることが狙いの本連載。今回は、USBシリアル変換モジュールの代わりに、Arduinoに搭載されているシリアル変換チップを単独で使う方法を紹介する。
忘年会に最適!? 使い捨てライターで離れた場所にあるLEDを点灯するガジェット
注目デバイスの活用で組み込み開発の幅を広げることが狙いの本連載。今回は、忘年会シーズンにぴったりの、使い捨てライターで離れた場所にあるLEDを点灯するガジェット「リモートキャンドル」を紹介する。
