データはあるのになぜ使えない? 日本の製造業に必要な「データ活用基盤」:データを生かせない製造業の実践的活用戦略(1)(1/2 ページ)
日本の製造業は「データ活用」をうまく行えていないと指摘されています。本連載では「データ活用基盤」の必要性を中心に、日本の製造業がデータを使いこなせるように何をするべきかを解説していきます。第1回は、日本の製造業の課題とデータ活用の現状について紹介します。
企業活動がデジタル主体に移行し、データドリブンな意思決定が主流になりつつあります。社会全体がまさに激動の時代へと進む中、適切な意思決定を迅速に行うためにはグローバル水準の高度なデータ活用が必須条件として求められています。
本連載では、日本の製造業が、米国をはじめとする先進的なグローバル企業と国際市場で競争していくために必要となる「データ活用基盤」の整備の必要性を中心に、データ活用の活性化に向けて考えておくべきポイントを解説していきます。第1回となる今回は、日本の製造業の課題とデータ活用の現状について紹介します。
現代企業が取り組むべきデータ活用と必要となる「データ活用基盤」
さまざまな商取引やビジネス活動がオンラインで行われる現在、企業活動も以前のような担当者の勘や経験に頼った意思決定だけでは間に合わない速度で実行されるようになっています。
極端な例では、株式市場におけるアルゴリズム取引はマイクロ秒単位の売買が実施されており、人間が対応できるスピードではなくなっています。ここまでの速度が必要な場面はそう多くないにしても、一般的なオンラインショッピングサイトでも価格比較サイトを活用してその場で膨大な候補を検索し、最安値を見つけ出すような処理を一般の消費者が日常的に行うようになっています。企業間での購買なども同様で、さまざまな条件を加味した最適な価格を瞬時に提案できないと、そもそも比較検討の対象にすらしてもらえないような場面が増えてきました。
現在ではほぼ全ての企業がデジタル化されネットワーク化されてきているため、オンライン取引への対応なども、事実上無関係な企業はほとんどなくなりつつあります。複雑な企業内外の情報を整理し、最適な判断を下していくためには、社内外の関連情報を一元化して活用できる「データ活用基盤」の整備が不可欠となっています。
これまで企業のデータ活用基盤の整備といえば、基本的には社内で発生する各種データをとりまとめるだけのものでした。しかし、社会情勢が大きく変化し始めている現在、これだけでは的確な意思決定ができなくなってきており、整理されていない外部情報も含めて、これらデータ基盤上で扱えるようにする必要が出てきています。
例えば、製造業の場合、原料や素材などを海外から調達したり、製品を輸出したりする場合に、為替や関税の影響を受けます。地政学的なリスクの高まりが、調達や輸送のコストを押し上げる可能性もあります。こうした刻々と変化する各種コストの状況をできる限りリアルタイムで把握し、その都度最適な意思決定を行っていかなければ、グローバル市場で競争力を維持することはできません。
しかし、多くの日本企業ではERPやMES、PLMなど個々の工程でのシステム導入は進んだものの、それぞれが分断されているため、データを経営判断に十分活用できていないケースが少なくありません。そのため、社内データのデータ基盤整備に加え、そこに外部からのデータを取り込んで組み合わせ、分析していくことができる環境を構築していく必要があるのです。
現状のデータ活用の課題
DX(デジタルトランスフォーメーション)などの動きが進む中、多くの国内製造業でも、さまざまな業務データをITシステム内部に蓄積し、活用しようと思えばできる状況になっているところは少なくないかもしれません。しかし、それで「満足のいくレベルのデータ活用ができているか?」というと「できていない」と答える企業の方が多いでしょう。
その課題としてまず挙げられるのが「データのサイロ化」です。日本の伝統的な大企業では特にその傾向が顕著ですが、多数のグループ企業/協力企業などからなる大規模なサプライチェーンが存在し、かつ参加する各企業や自社内の各部門などがそれぞれ異なるシステムを運用していることで必然的にデータがサイロ化してしまい、横断的なデータ活用が難しいと言われます。
一方、この分野で先進的な取り組みを行っている企業では、社内の部門間、サプライチェーンの各企業間でも自由で安全なデータ活用を行える仕組みを用意しており、判断の迅速化や変化への柔軟性確保などを実現しています。
実際に先進企業ではこうした取り組みが具体的な形で進んでいます。例えば、ドイツのシーメンスでは、増大するデータ量に合わせた拡張性の確保や非構造化データの取り扱いが拡大してきたデータ事情に対応する必要から、データレイクシステムのクラウド化に踏み切りました。そこで、制約なしの拡張性やAI(人工知能)ソリューションとの統合を実現しています。この際にデータに対するアプローチをモダナイズし、単一のデータ基盤にさまざまなデータを全て統合して全社的に共有できる形に整備し直しました。
その結果、世界各地で運用されていた50以上のERPシステムのデータもほぼリアルタイムで統合され、グローバルで「信頼できる単一の情報源(single source of truth)」に基づく意思決定が可能になりました。
このデータ基盤からはさまざまな成果が得られたことが報告されていますが、製造プロセスにおけるサプライチェーン管理の精緻化も大きな成果の1つです。シーメンスではドイツや中国の3箇所の製造拠点を単一のデータプラットフォームに基づく自動化プロセスによって統合し、原材料などの供給不足の問題に対して原材料ごとにリスクスコアを割り当ててサプライチェーンを監視することで将来的なリスクを定量化し、自動的にリスク回避のためのプロセスが実行できるようになったそうです。
従来バラバラに管理されていたデータを統合し、機械学習やAIによってデータに基づく意思決定を行うことで、従来の人の勘や経験に基づく判断から、より高速に的確な判断ができるようになった事例だといえます。
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