1990年代末〜2000年代初頭の国際協調プロジェクト 大規模宇宙機器開発(その1):ものづくりをもっと良いものへ(7)(3/3 ページ)
本連載では、エンジニアとして歩んできた筆者の50年の経験を起点に、ものづくりがどのように変遷してきたのかを整理し、その背景に潜むさまざまな要因を解き明かす。同時に、ものづくりの環境やひとづくりの仕組みを考察し、“ものづくりをもっと良いものへ”とするための提言へとつなげていくことを目指す。第7回は、1990年代末から2000年代初頭にかけて携わった、国際宇宙ステーション向け人工重力発生装置の開発プロジェクトを取り上げる。NASAとの設計審査や技術打ち合わせを通じて見えてきた、米国流のSystems Engineeringと日本のものづくりの違いを振り返る。
騒音評価
DRでは騒音評価についても話題となった。われわれは、騒音問題についてはCR開発において重点を置いていなかった。理由は2つある。1つは、うるさくて困るのかもしれないが、他の評価項目(振動、強度、熱)に比べて、深刻さが実感として伝わってこないことである。もう1つの理由は、騒音予測は困難であり、手間が多い割に報われないことである。
事実、音響モデルを使って試験を行ったが、わずかな隙間があるだけで測定値が数dB変わってしまう。このようなものを解析的に予測できるわけがない、というのが理由(言い訳)であった。
しかしながら、NASAとのDRの一項目として騒音(acoustics)が挙がっており、何もしないわけにはいかない。そこで、拡散音場を仮定した騒音予測プログラムをにわか勉強で作成した。以後、最後までこのプログラムでNASAに対応した。当然、NASAからは「拡散音場がなぜ成り立つといえるのか」などの質問を受けた。
音響モデル試験の結果からも、低い周波数で拡散音場が成り立たないことはこちらも十分に理解していた。ただ、以上のことを確認するために(NASAには提示しなかったが)、音響解析ソフトウェア「Actran」による解析も別途実施した。図9に結果を示す。
図10に、Actranの結果と、拡散音場を仮定した理論値との比較結果を示す。定在波の影響はあるものの、拡散音場仮定の結果もよく実態を捉えている。
NASA/ARCとの技術打ち合わせ
2000年のDRではあまり技術的な議論ができなかったので、翌年、NASA/ARC(エームズ研究センター)にこちらから赴いて、基本設計をじっくり紹介した。その中で、現状の設計では振動の許容値をオーバーしている旨を話した。
その関連で、NASAが設定している許容値がどのように決まっているのかについて説明を受けた。その中で、絶対的な許容値(重量、大きさ)と、一応の許容値(理論的根拠はある)があることが分かった。そこで、現設計における振動許容値を緩和できないか相談した。
こちらの振動値に至る経緯を説明したところ、NASAの振動許容値の設定根拠に関するレポートを見せてもらうことができた。両者で議論した結果、振動許容値を緩めてもらえることになった。
国内有識者による評価
設計が一段落し、実機設計に向かう段階で、国内の有識者(大学の先生、JAXA所属の宇宙飛行士など)を交えて評価委員会が開催された。宇宙飛行士は事前に研究所で試験機を確認しており、一定の理解はあった。
一方、大学の先生からは、回転中に回転軸にネジなどが挟まったらどうするのか、という質問があった。こちらからは、回転体には保護カバーを付けており、そのようなことはないと答えたが、先生からは「100%ないと言えるのか」と問われ、堂々巡りの議論となった。結局、これが原因でプロジェクトは1年ほど中断した。
日本流の完全主義では、新たなものごとにはチャレンジできない。一方、NASAの設計思想では、リスクとコストは相反するという考え方がある。リスクをゼロにしようとすると、コストは無限大となる。
実機設計と実機製作
評価委員会のほとぼりが冷めるのを待って、実機設計、実機製作、評価試験を行った。実機設計では、基本設計のDR時に指摘を受けたことを反映した。ここでいう実機とは、打ち上げ装置と等価な構造を有する装置をいう。
宇宙環境での性能を評価するため、評価試験では解析も併用した。評価結果の一例を図11に示す。赤が解析、青が実験結果である。これにより、図6の妥当性を検証できた。
NASAとの実機DRと突然の終焉
実機設計に関するDRが開かれた。なぜか盛り上がらないまま、DRは無事(?)終了した。その理由は後日判明する。NASA側で予算を確保できず、プロジェクトが終了することになったのである。これに関しては、次回(その2)で私見を述べたい。 (次回へ続く)
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