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インタビュー

AIで脱属人化を加速! 日本ペイントGが技術情報検索時間を20分の1にマテリアルズインフォマティクス最前線(8)(1/3 ページ)

製造業のDXを阻む属人化の壁。日本ペイントコーポレートソリューションズは、生成AIを活用した技術検索システム「Ai-Tech」を構築し、この課題を解消した。20年稼働した旧システムを刷新し、技術検索にかかる時間を最大20分の1へ劇的に短縮。こうした成果を生んだAIの活用方法とは――。

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 国内のメーカーでは、製品のニーズの多様化や開発期間短縮の影響で、扱う素材の高品質化と開発スピードの向上が求められている他、海外拠点でも国内製品と同様の品質を実現することが必要となっている。しかし、研究者や技術者のノウハウに依存したこれまでの手法では対応が難しい状況だ。

 解決策の1つとして、材料開発の速度と精度を向上させるために、マテリアルズインフォマティクス(MI)やプロセスインフォマティクス(PI)を活用する企業が増えつつある。そこで本連載では、国内製造業におけるMIやPIの最新の取り組みを紹介する。

 第8回で取り上げるのは日本ペイントホールディングスや日本ペイントコーポレートソリューションズ、日本ペイント・インダストリアルコーティングスなどで構成される日本ペイントグループだ。

 同グループはMicrosoftのAI(人工知能)サービス「Azure OpenAI」を活用し、自社で生成AIアプリケーション「NP Assistant」を開発して、2023年10月に社内で提供を開始した。Azure OpenAIとは、開発者が機械学習に関する高度な知識を持たなくても、カスタマイズ可能なAPIやモデルなどを利用してアプリケーションを構築できるサービスだ。同サービスはAIモデルを容易にアプリケーションに組み込める。

 2025年には、NP Assistantに材料に関する技術ナレッジを調べられるRAG(検索拡張生成)型検索ツールを導入したことで、材料などの技術ナレッジ検索と情報集約にかかる工数を大幅に減らした。

 RAGとは、Retrieval-Augmented Generationの略称で、検索(Retrieval)と生成(Generation)を組み合わせたAI技術だ。同技術は、指定した膨大なデータから関連性の高い情報を検索/取得し、回答に活用する。従来のAIモデルは生成のみを行うことが多く、情報の正確性や信頼性に課題があるとされていた。しかし、RAGは検索を組み込むことで、信頼性の高い情報を基にした生成を可能にしている。

 日本ペイントコーポレートソリューションズ IT&ソリューション部戦略企画室 室長の丸山一直氏、同社 IT&ソリューション部戦略企画室の近藤智宏氏、日本ペイント・インダストリアルコーティングス 技術本部 R&D イノベーション部 Core R&Dグループの津島宏氏に、NP Assistantの開発やRAG型検索ツール導入の背景、両ツール開発の苦労、特長、今後の展望について聞いた。

社内の独自データを活用するためにRAG技術を活用

 日本ペイントグループは、生成AIはビジネスに大きなインパクトを与えると考え、2023年から技術の進化と活用可能性を継続的に観察してきた。生成AIの活用が先行している企業へのヒアリングなども行い、生成AIの効果、リスク、導入の進め方を整理した。

 同グループ内でNP Assistantを提供するに当たり、法務部と生成AI利用ガイドラインを策定した。生成AIを「特別なツール」にしないため、従業員が普段から使っているクラウドベースの情報共有/管理プラットフォーム「SharePoint」などの業務基盤と連携させ、日常業務の流れの中で自然に使えるようにし、定着を進めた。生成AIの導入では、最初から大規模投資をするのではなく、段階的な導入で学びながら費用対効果を積み上げる方針を採用している。この考え方は現在も重要視されている。

 当時のNP Assistantは、業務効率化のための情報検索の補助や社内の問い合わせ対応、業務手順の案内、各種申請などを会話形式で検索できるというものだった。

日本ペイントコーポレートソリューションズ IT&ソリューション部戦略企画室 室長の丸山一直氏
日本ペイントコーポレートソリューションズ IT&ソリューション部戦略企画室 室長の丸山一直氏

 丸山氏は「OpenAIの生成AI『GPT-4』がリリースされ、生成AIのブームが加速した2023年頃に当社は生成AIの導入について検討をスタートした。当時、さまざまなAIツールが市場に出回っていたが、企業としてすぐに飛びつくのはセキュリティの観点から非常に危険だと判断した。そこで、まずはMicrosoftのAzure OpenAI上にセキュアなプラットフォームを構築し、外部に情報が漏えいしない環境を用意した上で生成AIの活用をスタートさせた」と振り返る。

 その上で、「2023年の10月頃から段階的に社内展開を進めた。当初は単にチャット機能を利用したり、あらかじめ用意した『翻訳』『デザイン』『文章作成』といった機能を使ってもらったりしていた。しかし、生成AIの成否を分けるのは『社内の独自データをいかに活用できるか』にかかっている。そこで2024年に入ってからは、RAG技術を活用して、これまで社内で利用していたキーワード検索システム『i-Tech』をRAG型技術検索ツール『Ai-Tech』に改良した。そして、NP Assistantに技術部門向け検索ツールとしてAi-Techを追加した」と話す。

 20年以上前に同グループが開発したi-Techは検索条件の設定や出力情報のとりまとめに時間を要していた。i-Techと比べて、Ai-Techは検索と情報集約にかかる工数を大幅に減らせるという。

 Ai-Techは、「技術情報検索エージェント」「実験結果検索・配合最適化エージェント」「知財エージェント」「原料情報検索エージェント」といった複数のAIエージェントで構成される予定だ。なお、技術情報検索エージェントは現在開発途中であり、2026年度中の完成を見込んでいる。

 Ai-Techが実装された現在のNP Assistantは、生成AIを活用するための統合プラットフォームになっているという。「現行のNP Assistantは、ユーザーのPCやスマートフォンからアクセスでき、さまざまなAIエージェントが複数稼働している」(丸山氏)。

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