鉄鋼流通プラットフォームをASEANへ、第1弾はミルシート管理を「基本無償」提供:製造ITニュース
メタルワンはFPTソフトウェアジャパンとの共同開発により、鉄鋼DX基盤「Metal X UP」をタイ、ベトナムで提供開始した。IT人材不足に悩む海外日系企業をターゲットに、ミルシート管理機能を基本無償で提供し、鉄鋼流通のDXを支援する。
鉄鋼専門商社のメタルワンは2026年3月24日、東京都千代田区の本社で会見を開き、2026年1月より鉄鋼業界向けデジタルプラットフォーム「Metal X UP」をASEAN地域のタイ、ベトナムへ提供開始したと発表した。FPTコーポレーション傘下のFPTソフトウェアジャパンとの共同開発によるものだ。
日本のオペレーションをそのまま持ち込んでいることが多い、現地の日系企業を主なターゲットとし、鉄鋼流通のDX(デジタルトランスフォーメーション)を後押しする。まずはタイで約65社をターゲットに見据え、ベトナムでは非日系企業への展開も視野に入れていく。
(左から)FPTジャパンホールディングス ビジネスディベロップメント事業本部 戦略パートナー推進部 ビジネスディベロップメントエグゼクティブの坂田瑞希氏、FPTソフトウェアジャパン 製造デジタルエンジニアリング事業本部 製造事業技術主査のレ・グエン・スン・トウ氏、同社のグエン・フィ・ヒィウ氏、メタルワン ITソリューション部 部長の坂本剛氏、同社の小谷和久氏、同社 事業開発BU DX戦略室・ソリューション事業課の三浦理紗子氏[クリックで拡大]
鉄鋼流通プラットフォーム「Metal X UP」、国内では1200社超
メタルワンは三菱商事と双日の鉄鋼製品部門が統合して誕生した鉄鋼総合商社で、国内外に100以上の拠点を持つ。
「Metal X UP」は、メタルワンと顧客の間をつなぎ、注文履歴、工程進捗管理、Web請求書、決済などの機能を備えたサプライチェーン効率化プラットフォームだ。2023年に厚板分野で一部導入し、2024年4月から本格展開を始めた。国内では現時点で1200社超の導入実績がある。
今回の海外展開の背景について、メタルワン 事業開発BU DX戦略室長の小谷和久氏は「ASEAN各国では人件費の上昇傾向にあり、海外拠点を持つ日系企業の8割がIT活用を検討している。一方で、資金的な余裕のなさやIT人材の不足がネックとなり、実際のデジタル化への移行は困難な状況であった」と語った。
第1弾は「ミルシート管理」、基本機能は無償提供
そこで今回、海外向けMetal X UPの第1弾として、ミルシート管理機能を実装した。ミルシートとは、鉄鋼メーカーが発行する検査証明書だ。加工工程で製品の破損などの不具合が発生した際、原因究明のために該当するミルシートの提出が求められる。しかし、従来行っていた紙でのアナログ管理では、膨大な紙の束の中から大まかな時期などを頼りに手作業で探し出さなければならず、現場にとって多大な負担となっていた。
ミルシート管理をデジタル化することで、ヒートナンバー(製鋼時に付与される識別番号)などを条件に設定し、対象のミルシートを検索することが可能となる。また、該当する書類のPDFデータやメタデータをワンクリックでダウンロードできる仕組みを整えた。なお、サービスは全て英語で提供される。
開発した海外向けMetal X UPは、既にタイ、ベトナムの製造業の取引先で導入が進められている。小谷氏は「まずはデジタル化の利便性を実務の中で体験してもらい、今後の業務プロセスを変革していくための起点にしてほしい」としている。また、メタルワンからタイの拠点へ、鉄鋼取引の実業務とデジタル技術に精通した専門人材を派遣した。現場の課題に直接寄り添う手厚いサポート体制を構築し、ASEAN地域全体への導入支援を強力に推進していく構えだ。
ビジネスモデルの観点では、メタルワンは海外向けMetal X UPをあくまで「顧客の課題解決の間口を広げるツール」として位置付けている。そのため、基本機能は無償で提供する。日系企業の海外拠点に対する既存取引の付加価値向上や、顧客ごとにカスタマイズやオプションが必要になった段階で、有償の個別開発へつなげるビジネスモデルを描く。
FPTグループとのオフショア開発で実現
今回の海外向けMetal X UPで、開発パートナーとしてオフショア開発を担ったのが、ベトナムのICT大手のFPTグループだ。FPTグループの中核を担うFPTソフトウェアは、日本市場の拡大に向けて2018年に日本法人のFPTソフトウェアジャパンを設立。FPTソフトウェアジャパンはこれまでにも国内の製造業や鉄鋼業界向けの開発実績を持つ。
今回のプロジェクトでは、要件定義から設計、保守運用までをFPTソフトウェアジャパンが担い、メタルワンと実際にシステム構築を行うベトナム現地のFPTソフトウェアとの橋渡し役を務めた。開発シーンではAI(人工知能)を活用し、ヒアリングから運用保守のフェーズまでを含めて約9カ月で構築を実現した。
FPTソフトウェアジャパン 製造デジタルエンジニアリング事業本部 本部長のグエン・フィ・ヒィウ氏は、「両者の知見をすり合わせた開発を行ったことで、鉄鋼業界の成長につながると考えている」と語った。
メタルワンでは海外向けサービスの第2弾として、新たな機能追加を企画中だ。一方で、日本国内で展開している注文履歴や決済といったフルラインアップの機能を、そのまま海外へ持ち込むことは想定していないという。
小谷氏は、「ASEAN地域では、日本よりも特定の連絡手段やデジタルツールが既に広く浸透しているケースも少なくない。そのため、単なる日本版の横展開を行うのではなく、現地の既存ツールやコミュニケーションの在り方を十分に考慮し、ASEAN市場のリアルなニーズに合わせた独自の発展を遂げていく」と今後の展開を示唆した。
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