日本の自動車業界の「慎重さ」は強みか弱みか 車載ソフト開発の視点で分析する:車載ソフトウェア(2/3 ページ)
日本の自動車業界は自動運転技術やSDVの開発において「慎重さ」を重視している。この「慎重さ」は強みとなるのか弱みとなるのか。QNXの車載ソフトウェア開発者1100人を対象に実施した調査を基に、日本の開発現場が持つ課題や戦略の独自性を分析する。
人材不足と「量」から「質」への転換
経済産業省は、2030年までにIT人材が最大79万人不足すると予測している。いわゆる「2030年問題」だ。その中でも、車載ソフトウェアが大きな役割を果たすSDV(ソフトウェアデファインドビークル)の開発に必要なソフトウェア人材は、2025年時点で約3.3万人、2030年には約5.1万人不足すると見込まれている。
一方、車載ソフトウェアのコード規模は、2020年の約1億行から、SDVへの移行に伴って2030年には約6億行へと拡大すると予測されている。人材不足とコード規模の急拡大が同時に進行する中で、課題は単なる「人数」ではなく、規制を理解し、品質責任を負える人材をいかに育成/確保するかという「質」の問題も抱えている。
段階的アプローチという現実解
日本のSDV開発は、社会課題とも密接に結びついている。経済産業省と国土交通省が推進する「RoAD to the L4」プロジェクトでは、自動運転レベル4を活用した移動/物流サービスの実現に向け、無人サービスの実装、人材育成、社会受容性の醸成などに取り組んでいる。当初掲げられた目標は、2025年度頃までに全国約50カ所での展開だった。
2025年末時点での本格実装は福井県永平寺町や茨城県境町などに限られるものの、専用道路/低速条件下での長期運行や、地域ニーズに根ざしたサービス提供を通じて、実運用データと知見が着実に蓄積されている。
完全自動運転を巡る「慎重な期待」
一方、SDV開発者を対象としたQNXの調査では、日本の開発現場の姿勢を象徴する興味深い結果も示されている。日本の開発者の71%が「完全自動運転は過度に注目されすぎている」と回答する一方で、53%は「2030年のSDVを最も左右する機能」として完全自動運転を挙げている(図4)。一見すると相反するようにも見えるこの結果は、自動運転技術の将来性を認めつつも、現時点での過度な期待や先行投資には慎重である、日本の開発現場の現実的な認識を反映していると捉えられる。
図4 (左)QNXのSDV開発者調査で各国の開発者が回答した「過度に注目されている機能」の割合。(右)QNXのSDV開発者調査で各国の開発者が回答した「2030年のSDVを最も左右する機能」[クリックで拡大] 出所:QNX
自動運転への社会的関心や受容が高まる中で、自動車メーカーに求められているのは、コンセプト実証や実験段階にとどまらず、世界市場での広範な普及を前提とした製品開発である。技術の可能性を見据えながらも、安全性と信頼性を確保した上で段階的に実装を進める、こうしたリアリズムこそが、日本の車載ソフトウェア開発の現場を貫いている姿勢といえるだろう。
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